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第一章 異世界だねぇ
シッポと寿命と金眼のゴマちゃん
しおりを挟む「し……シッポーーー⁉︎」
腰に巻き付いていた、五センチ幅ほどの白い紐がスルリと落ちたかと思うと、それは意志を持ってゆるりと動く。
「え?……は?…尻尾?」
動物の耳がある事だけでも有りえなさ過ぎるのに、この上尻尾まで?
きっとここで喜ぶ人は居るのだろうけど、あいにく僕は喜べない。
動物の耳や尻尾は、動物に付いていてこそだ。
後輩の読んでいた漫画には、そんな絵も有ったけど、それは所詮漫画の話。
現実に、目の前に居るのと訳が違う。
よく『バケモノ』と叫ばなかったと自分を褒めてやりたい。
しかもこの尻尾……爬虫類だよな…。
「…………へぇ、成る程、耳や尻尾の無い世界の人って、こんな反応するんだ」
マキの声に尻尾から目を離して見ると、その表情は、悪戯が成功した子供の様で、その右手は腰の剣にかかって居る……。
え?剣に手がかかってるよ?
「ごめんごめん、記録によると、始めて俺たちをを見た地球人の反応って、殆どが「バケモノ」って言って襲い掛かってくるそうだから、襲われたら反撃させて貰おうと思ってたんだ。
けど凄いね。
叫びはしたけど、その後の言葉も行動も意志で抑えたでしょ。
見た目ちっちゃな子供だけど結構大人?」
剣から手を離したマキが、面白そうに聞いてくる。
「もうすぐ34才になる」
「うわっ、結構オッサン?見た目は幼児なオッサン?
因みに俺は61歳」
……爺さんにオッサン呼ばわりされた…。
「61歳と言っても祝福三つだしハーフだから、二十歳前ってとこかな?
こちらでは寿命まちまちだから、見た目年齢がそのまま一般年齢だと思ってね。
そうすると、あなたの場合見た目5才として、平均寿命の80歳まで75年、祝福が少なくて100だとして7500生きるって事?
あれ?合ってるのかな?
数が多すぎて訳わかんないや。
でも7500年って………うっわー……」
いや待て!こっちが「うっわー」だよ!
どうすんだよ、そんなに長生きして!
ってちょっと待て、話が明後日の方向へ行ってるぞ!
「寿命は置いといて尻尾だよ!」
そうそう、と軽く言うマキ。
「君は」
「マキかニトで良いよ」
「じゃあマキは耳は普通の人の耳だよな。
でも尻尾が有って爬虫類の尻尾だから」
「そう、母親が蛇系の魔物。
耳に特徴の無い魔物の耳は、普通の人と同じだね。
近衛騎士の団長も、母親鳥系だから羽は有るけど、ケモミミは付いてないね」
「羽?そんなの付いてる奴居たか?」
謁見の間にケモミミ付いてる人は複数居たけど、羽付きは居なかった様な。
「種族に寄るけど、仕組みは知らないけど、羽ってしまえるんだよ。
背中にワサワサ有るのって邪魔だからね。
でも羽だけしまえるって、ズルイよね」
いや、ズルイとか言われても……。
「だから普通の人と見分けるには、耳や尻尾だけ。
見た目的にはそれくらいしか変わらないよ」
いや、耳や尻尾が付いてる時点で全然違うと思うけど。
「そんでもって寿命事だけど、大体のところ人が70~80年、魔物が200~300年、ハーフは寿命も親の魔物の半分、祝福を受けた人は受けた数だけ伸びるって感じかな。
ハーフで祝福を受けたらまた伸びる、つまりハーフで英雄家系で祝福三つ持ちの僕は400歳くらいまで生きるのかな」
400歳迄生きるなら、60過ぎても確かに若造か?
しかし僕自身は何千年も生きるって、何その地獄。
「後、祝福を受けた人の見分け方も有るんだけど、普通は中々気づきにくいんだ。
だけど、ココ」
言いながら自分の目を指し、顔を近づけて来る……近いよ…。
「分かるかな?瞳の中に金が有るでしょ?」
言われてよくよく見てみると、彼の緑色の瞳の中に金が散っている。
確かに近づけば分かるけど、普通こんなに近くで人の瞳を覗き込むことなんてないから、気づかないよな。
「この金は『妖精の光』って呼ばれていて、祝福の数が多いと金も増えるんだ。
だから祝福一つだと殆ど分からない。
特に生まれた時に、親の知らない間に祝福受けた場合、成長が遅くて、瞳をよく見て見たら金が有ったって事も良くあるんだ」
親の知らぬ間って…やっぱり呪いなんじゃあ………。
「だから君みたいだと『英雄召喚された、スッゲー祝福受けた人』ってのが一目でバレちゃうワケだね」
「…………は?…」
黒髪だから、英雄召喚されたってのが人に知られるのは分かる。
でも何故祝福迄……って……!
「か…鏡!鏡どこだ?」
「そっちのクローゼットの扉の内側に姿見有るよ」
指された方に走り寄り、クローゼットの扉を勢いよく開けて、自分の姿を映し出す……。
この世界に来て始めで見た自分の姿は、アルバムの中で見た幼稚園の頃のままだった。
大人になってからは『ボーリングの玉みたいだから、玉ちゃんだね』と呼ばれて居た丸顔も、子供の頃は『ゴマアザラシの赤ちゃんみたいだからゴマちゃん』と渾名を付けられていた頃そのままだ。
唯一の違いは、黒に近い濃いめの茶色だった瞳の色が………金色だ…。
人の瞳の色でこんなの見た事ないし、正直言って…
「気持ち悪い……」
自分の顔に、猫の瞳をさでも埋め込んだ様な違和感……。
ゴマアザラシの赤ちゃんの瞳は黒だから可愛いんで有って、金色だと異形感が拭えない。
「え?何が気持ち悪いの?
透明感有ってとても綺麗だと思うけど」
これは生まれ育った環境の差か?見慣れていないからだけなのか?
あまり見ていたくなくて、扉を閉じた。
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