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第一章 異世界だねぇ

英雄達のその後

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「戻れなくなった人達は、その後どうしているんだ?」

物語と違って『魔物を退治しましたとさ、めでたしめでたし』で終わらないだろう?

「どうと言われても普通ですよ。
恩賞を受け土地を貰い領主となったり、そのまま士官して大臣職に就いたりです。

英雄の方々は寿命も長いですし、そのまま復興を手伝った後(のち)、田舎で悠々自適に過ごされる方もいらしたようですが、ほぼ城へ戻って来られたようです」

「なぜだ?
呼び出されて戦わされて、その後自由なら田舎でスローライフ、とか言う生活の方が良いのでは無いのか?
それとも恩賞が少なくて、働かなければ生きていけないから城仕えするのか?」

生きて行くには金がいる、金がなければ働かなければならないからな。

「あはは、面白い事言いますね。
違いますよ、恩賞は英雄の方々が亡くなるまで快適に過ごせる程いただけるそうです」

金が有るのに働くとは、余程勤勉な労働意欲満載な人達なのか?

「英雄と呼ばれる方々は、それだけの能力を持って地球で生きていた方々なのです。

つまり波瀾万丈な生き様をしてきた方々に『金と土地やるから田舎でスローライフでもしてれば良くね?』とか言われても、最初は楽しめても何十年もすれば『こんな何も刺激の無い田舎生活なんて無理、刺激無い生活なんて、無茶振りってか嫌がらせかよ』と……」

…確かに。
老い先短い老人なら兎も角、呼び出されて若返って、第二の人生の殆どを田舎でのんびりなんて無理だわな。

「今現在、英雄家系で直系の方々は皆城で役職に就いています」

「家系という事は、こちらで所帯持たれたと?」
嫁に逃げられたばかりの自分には、とても突き刺さる話題だな。

「ええ、そうですね。
ただ寿命の問題で、奥様が亡くなった後再度娶られる方が殆どですので、子孫の数はかなり膨大です」
ああ、二、三百年生きるなら再婚や再々婚も有るだろうねぇ。

「後継者問題とか凄そう」
ポロっと漏らした事に答えてくれる。

「それが問題は起きないのですよ。
仕組みなどはわかりませんが、いくらお子様を作ろうと、直系の一族のうち一人にしか【後継の印】は現れないからです」

「後継の…印?」

「ええ、印と言っても【封印されし第三の瞳】とかではありませんよ」
そんな事思ってもいないし、一言も言ってない。

「こちらで婚姻を結ばれて、どれだけお子様を作ろうと、お子様はこちらの世界の方々と同じく、多様な髪の色をしていて、妖精の祝福もあまり受けません。
受けても一種の祝福です。

しかしどの家系でも、必ず一人だけ黒髪のお子様が誕生します。
それが継承の印ですね」

たかだか髪の毛の色が後継の印?

「黒髪のお子様には英雄の方々と同じく、二~三の祝福が有ります。
そして身体的、もしくは能力的に優れております。
その印で有る黒髪を持たれた方々は城へ、傍系の方々は領地を継いだり、仕事を継いで居ます。

フフフ、つまりご覧の通りの黒髪の私もマキ家の後継なんですけどね」

あ、成る程、黒髪だね。
なら先程謁見の間に居た数人の黒髪も、英雄の後継なのか。
でもそれだけじゃ無かっただろ、髪の毛の色よりもっと他に有っただろ。

「日本から来た人達が、英雄として偉業を成し遂げて、今その子孫が城で要職に就いていて、直系の見分け方は髪の毛の色、ってとこまでは分かった。

理解出来ないけど、話は分かった。
でも分からないのが…王妃様や王女や……他にもいっぱい居たよな?
……頭の上に…………」


「あ、ケモミミですか?」


そのフレーズ、後輩が良く『ケーモーミーミーフーーーーー!!』とか叫んでたな……。

「こちらの世界では、みな耳が犬やら猫やらだったりするのか?」

青年…マキは可笑しそうに笑う。

「そんな訳あるわけないでしょう。
ケモミミが有るのは、魔物やその血を引くハーフだけですよ」
「魔物?戦争してたんじゃあないのか?」
そう言えばさっき王様が、友好とか言ってたっけ?

「争っていたのは大昔の話です。
英雄の方々の活躍により、今では友好国ですよ。
魔物の方との婚姻も、今では普通ですし。

初めは差別なども有ったみたいですが、英雄の一人が魔物の方を娶り、周囲に認めさせたそうです。

妖精の祝福を受けて使える術とは別に、魔物の方は魔法を使いますけど、その他は耳と尻尾が付いてるだけですからね。

それに魔物も寿命が長い為、英雄の直系の方は魔物と添い遂げる方が多いですよ。
やはり寿命が近しいというところが大きいですね」

「………今なんと?」

何か聞き捨てるには問題がある言葉が有った様な……。

「寿命が近いですから、短命な人族と結婚して、何度も伴侶の方との別れを経験するより、魔物の方と…と思われるのは不思議では無いかと思いますが?」

小首を傾げるけど、そこじゃ無い!


「…………尻尾……?」


「ええ、有りますよ。
見ますか?」

マキがクルリと後ろを向いて、上着を少し持ち上げると……




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