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後編
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「条件は決まりましたか?」
「ああ、黒髪黒目の強い人にしよう」
ゆくゆくは僕の伴侶になってもらうつもりだからね、心も体も強いに越したことはない。
【筋肉の乙女】の話、好きなんだよね。
獣をバッタバッタと薙ぎ倒す美少女ってカッコよくて憧れたな。
そこまで強くなくても良いけど、弱いよりは強い方が良いかな。
再び魔法陣が輝き、光の中に姿を表したのは、黒髪黒目の細身の女性。
髪は火事にでもあったのが、ちりぢりしていて、口元は布を巻いていて顔の作りがよくわからないけど、目力はある。
床に付きそうな長く白い上着には、【救国の乙女】の国の文字が刺繍されている。
上着の下は怪我でもしているのか、包帯を巻きつけているだけの様だ。
ちょっと目のやり場に困る。
鎖骨とか谷間とか、お腹も見えてるけど、これはもしかして、夜着なのか?
ちょっと破廉恥だ。
手には木の棒を持っているけど、何に使うのかな?
彼女はキョロキョロした後こちらの存在に気づき、言葉を発した。
「あ"あ"?何見てんだゴラ!」
めっちゃ睨んできて、凄んでくるんですけど?
「強そうですね、筋肉は無さそうですけど、剣の達人とかでしょうか」
「いや、なんだか雰囲気が友好的では無いのだが」
「どこなんだよ、ここは!
お前らアタイをどこに連れてきたんだ!」
言いながら手にした木の棒で床を叩く。
「因みに鑑定してみましたけど、彼女技能二つ持っていますよ」
「2つ⁉︎」
それは凄い、流石異世界からの来訪者。
「【威嚇】と【ツッパリ】の二つです」
「………………ナニソレ?」
「【威嚇】は文字通りです。
【ツッパリ】の方は、〈権力者相手でも自分の道を貫き通す、それが私の生きる道〉と出ています。
補足として〈長時間ウン○座りをしても足が痺れず、押しても倒れない〉とも出ていますね。
体軸しっかりしていそうですよ」
「…………チェンジで」
「そうですね、国の次期最高権力者となる王子の相手が、自分を貫くじゃあ宜しくないですよね」
お帰りいただきました。
因みに…木の棒でガンガンと殴りつけられた床が少し凹んでいた……何あの木の棒、コワイ!
昨日のアレで床が凹んで魔法陣が歪んだので、続きは今日に持ち越しました。
「黒髪黒目で……可もなく不可もなく………」
「もっと具体的に」
そう言われても、昨日の二件で食傷気味なのだが……。
将来王妃になるのなら、知識が有る方が良いかな。
明るくなくても、強くなくても良いから、大人しめの子…少し年上でも良いかな。
後は知識の豊富な人が良いかな。
三度目の正直であります様に!
願いを込めて魔法陣の光が収まるのを待つと、そこに居たのは…。
「え?あの、ここどこ?」
ダークレットの体のラインのわかる上着に揃いのズボン、サイドには白いラインが入っていて、胸には何かのエンブレム、背中には白く四角い布が縫い付けられていて、別世界の文字と【3-C】と書かれている。
髪の毛は背中の中程までの長さで、一つに結えていて、顔には眼鏡をかけている。
彼女はキョロキョロと見回した後、突然大きな声でペラペラと喋り出した。
「あーハイハイ、異世界召喚ね。
ありがちな所で金髪が皇太子で銀髪が賢者とか?
で、私は聖女様か?
異世界召喚の特典で光魔法が使えるとかでしょ、『ヒール!』……あ、ヤバ~、怪我とかしてないからわかんないじゃん。
ならオヤクソクで『ステータス オープン!』……えー、何も出ないし。
まあ、コレでも自炊歴2年だからある程度はご飯作れるけど、飯テロは無理かなぁ、内政チートは絶対ムリ!
生産チートは……、ぐーるるセンセイ無いとムリ!
ヤバくない?特典ないと何もできないよ、草~。
あ、スマホ持ってきてるじゃん、サスワタ!」
……知識はある様だが、言ってる意味がほぼ分からない。
「彼女の技能は【オタ魂(たま)】だそうです。
〈好きなことには相手が誰であれいくらでも話せるけど、基本対人スキルが低い。
推しの話なら止めても止まらない〉だそうです」
「推しとは?」
二人でコソコソ話していると、それまで意味のわからないことを話し続けていた彼女は、魔力が切れた様に、ピタリと口と動きを止めた後、急に大声を上げた。
「…………あーーーー!!!
ダメじゃん!異世界だと思いっきり圏外どころじゃ無いじゃん!
19時からガチャ更新なのに!!
ハニエル様プレイアブル実装なのにガチャれないじゃん!
天井行くつもりでギフカで課金してんのに、ガチャれないじゃん!!
ちょっと、国とか救ってる場合じゃ無いよ、早く日本に帰してよ!
ちゃんと召喚した時間に戻してよね!
ハニエル様お迎えしないといけないんだから!
しかもハニエル様いきなりの闇堕ちバージョンとか、公式も分かっ「送還!!」」
「……………………」
「……………………………………………」
「……………………………何言ってたか分かったか?」
「誰かいましたか?」
「サラッと無かったことにしてる!」
「もう諦めた方がいいのかな……」
部屋の隅で膝を抱えてしまう僕。
「ええ、諦めましょう、私も飽きました」
「幼馴染が酷い!
慰めてくれよ、落ち込んでいるのだから」
「二度あることは三度あるといいますしね」
「慰めて無いよ~!」
膝を抱えたまま、力尽きてゴロンと横になる。
「僕なんかに【救国の乙女】は訪れないんだ。
このまま隣国で年寄りの30何番か目の妃になって、二度と国に戻って来れないんだ。
そのうちオッパイとか生えてきたりして」
「ハイハイそうですね」
「…………そしてこの国でお前が王になって、国の運営、他国との交渉、貴族との付き合い、世継ぎも一人じゃダメだし、国の発展も頑張らなければ諸侯から突き上げられるしで、きっと魔法の研究なんて「さー、次行きますよ、次!」」
彼がやる気になってくれたけど、正直言って僕のメンタルもボロボロですよ。
本当に【救国の乙女】の召喚なんてムリなんだろうな。
次でまた変じ……変わった…………個性的過ぎる人が召喚されたら諦めよう。
もういいんだ、僕が我慢して男嫁になれば………やっぱり嫌だ~~。
昨日今日で…いや、父王から話を聞いた一昨日から疲れること続きだ。
癒されたい。
包み込んでくれる様な、母性溢れた優しい人に癒されたい。
優しくて控えめで、それでも芯は強くて、笑顔が素敵なら尚よし…って望み過ぎるか。
あ、母性溢れるとか言うと母親とか主婦が喚ばれてきそう。
人妻はダメですよー。
最後なんだからこうなったら理想を全部言おう!
言うだけタダだ!
優しくて控えめで包み込んでくれる、芯は強くて笑顔が素敵で、頭の回転が早く、会話を楽しめて、他人に気を使うことができて、子供好きで…見た目はスレンダーな方が好きかも。
騒がしくなく威嚇もせず、王族って体力勝負なところも有るから、健康で体力があれば文句なし、かな。
つらつらと条件を頭の中で考えているのに、幼馴染の視線が痛い。
思考が読めるのか?
「じゃあ条件はお前が〈今思い浮かべたもの全て兼ね備えた人物〉でいいか?」
「やっぱり思考を読んでる?」
「読むまでもない、顔に出てる。
優しくて控えめで包み込んでくれる癒し系とかでしょ?」
それが伝わるってどんな表情しているんだろう、僕は。
魔法陣の光が収まった中に立っていたのは女神だった。
【救国の乙女】は皆小柄だと伝え聞いていたけれど、スレンダーな彼女は、僕より10センチほど低いくらいかな。
黒い艶やかな髪はサラサラと音のしそうな腰までのロングヘア。
背筋を伸ばして真っ直ぐ立っている姿も美しい。
いきなり見知らぬ場所に喚ばれたのに、キョロキョロすることもなく、さりげなく視線だけを動かし現状を確認する。
失礼にならない程度にこちらを見て、小さく息を吐いた後、にっこりと微笑み、体の前で手を重ねゆっくりと上半身を倒す。
確か【救国の乙女】の国の挨拶だ。
すっと頭を上げ、微笑んだまま彼女は名を名乗り、現状を訪ねてくる。
頭の良さそうな人だ。
「それで、失礼ですけど、ここはどちらなのでしょうか。
私は職場に向かう途中でした筈なのですが、瞬きをしたらここにいたのですけど」
何かご存知ですか?と首を傾げる姿もスッとして美しい。
見惚れている僕に代わり、彼女に説明してくれている幼馴染。
別の世界から喚ばれた人には、どう言う仕組みかは分からないけど、元々持っている技術が向上し、技能になってこの世界の発展に繋がることから【救国の乙女】と呼ばれている事、そしてその乙女は次期王妃となる事などなど。
「そうですか。
しかしながら私に王妃に成るほどの技能は有りませんけど」
少し困った顔もいい。
「無断で申し訳無いのですが、この場に来た瞬間に鑑定させていただきましたところ、あなたには【家事・育児】【ダンス】【外交】の技能が有りました」
「家事、育児に関しましては、お恥ずかしながら5人きょうだいの長子でして、家事の手伝いをしていました。
そんな細ささやかなことだと思います。
ダンスと外交は……仕事柄でしょうか。
海外からのお客様をもてなす事も多かったものですから、日常会話や多少のビジネス用語を覚えましたけど、仕事の役に立つくらいでしたよ。
外交と言うほどのものでは無いかと存じます」
ぼーっと彼女の話を聞いている僕の脇腹に、幼馴染の拳が埋まる。
『何ぼーっとしているのですか、技能にせよ受け答えにせよ理想通りでしょ?
しかも技能が三つも有るなんて、初めて聞きましたよ、多くて二つですからね。
ちゃんと会話して………絶対に落として下さいよ』
『わ、わかってる』
背中を押されてギクシャクと彼女の前へ。
「彼からも説明が有りましたけど、今回僕は妃になる方を求めて召喚の儀式を行いました。
そこで現れたのが貴女です。
すぐに返事は求めません、ただ私を知って、前向きに考えていただけないでしょうか」
彼女の右手を取り、その甲にキスを落とす。
スッとした指は長く、爪の手入れもしっかりされている、体に見合ったしっかりした綺麗な手だ。
キスを受けた彼女は小首を傾げ、少し困った表情を浮かべている。
「あの…私は年上の様ですし……私にはお妃様は無理です」
キッパリと断られてしまった……。
え?生理的にムリとかじゃ無いよね?
「年など関係ありません。
直ぐに決めないで、考えてみて欲しいです、僕と一緒の未来を」
「この国のお役に立つのなら尽力致しますけど……お妃様はムリなんです……」
申し訳なさそうに断り続ける彼女は、体の前で重ねている手をギュッと握りしめ、真っ直ぐ目を逸らさずに告げた…。
「だって私、男なんです」
………オトコ?
女性にしては背が高いかな、とか手が大きいかな?とは思ったけど、男?
大きく無いけどオッパイも有るよね?
思わず胸に視線が行くのは仕方ないと思う。
「心は女性だと育ってきましたし、体も工事して女性になっていますけど、男性の体で生まれてきましたから、子供を作ることが出来ません。
王妃になるには世継ぎを作ることが必要ですよね?
申し訳ないのですが、私にはどうしたって無理なのです」
全てを告白した後、悲しそうに微笑み瞳を閉じる姿は、どう見てもか弱き女性である。
僕は彼女に近づき、その手を取った。
「大丈夫です、子供は授かりものですから、普通の夫婦でも子供ができないことは有ります。
世継ぎなら姉か妹の子供を養子とすればいいですし、王弟である叔父の孫を迎えてもいい。
王家の血筋が繋がれば問題ないです。
世継ぎも大切かもしれませんが、国民も私たち王族の子供達です。
私と一緒に国民を護り幸せな後世を育んでくれませんか?」
「………本当に私で良いのですか?」
「出会ったばかりで信じられないかもしれませんが、僕は貴女に一目で恋に落ちました。
僕の隣に並び立つのは貴女が良いです。
僕の妃になって下さい」
彼女の瞳を見つめながら申し込む。
後ろで「マジか!」とか「初恋とか拗らせ案件じゃん」とか「男嫁って王にどう伝えるんだよ」とか「自分が男嫁になるんじゃなければ、男嫁でも良いのかよ」など聞こえるけど、関係ないね。
僕は彼女が良い。
例え技能が無かったとしても、彼女が良い。
僕の意思が硬いのが分かったのか、幼馴染はため息を吐く。
「まぁ、三つの技能がどう役立つのかは今は分かりませんけど、彼女?の立居振る舞いなら王も頭ごなしに拒否はしませんでしょうし、まずは面会させて、言質をとった後に性別をバラす方がいいんじゃないですかね」
そのアイデアいただき。
どうやら味方になってくれる様だし、後は彼女が頷いてくれたら………。
「お願いします美しい方、どうかこの国の僕の隣で生きて行っては貰えませんか?」
彼女は一度瞳を閉じ、ゆっくり開けた後………………
#################
サラシを巻いて特攻服を着、木刀を持ったレディスと、ジャージを着たオタク娘を召喚後、ニューハーフのホステスを召喚しました。
ニューハーフの方は、メイクや着る物、持ち物や立ち居振る舞いを意識して行動されていますから、ズボラな私より女子力高いです。
こののち二人は後継はできなくても、幸せに暮らしていくと思います。
シリーズからもうひと作品アップします。
宜しければそちらも宜しくお願いします。
「ああ、黒髪黒目の強い人にしよう」
ゆくゆくは僕の伴侶になってもらうつもりだからね、心も体も強いに越したことはない。
【筋肉の乙女】の話、好きなんだよね。
獣をバッタバッタと薙ぎ倒す美少女ってカッコよくて憧れたな。
そこまで強くなくても良いけど、弱いよりは強い方が良いかな。
再び魔法陣が輝き、光の中に姿を表したのは、黒髪黒目の細身の女性。
髪は火事にでもあったのが、ちりぢりしていて、口元は布を巻いていて顔の作りがよくわからないけど、目力はある。
床に付きそうな長く白い上着には、【救国の乙女】の国の文字が刺繍されている。
上着の下は怪我でもしているのか、包帯を巻きつけているだけの様だ。
ちょっと目のやり場に困る。
鎖骨とか谷間とか、お腹も見えてるけど、これはもしかして、夜着なのか?
ちょっと破廉恥だ。
手には木の棒を持っているけど、何に使うのかな?
彼女はキョロキョロした後こちらの存在に気づき、言葉を発した。
「あ"あ"?何見てんだゴラ!」
めっちゃ睨んできて、凄んでくるんですけど?
「強そうですね、筋肉は無さそうですけど、剣の達人とかでしょうか」
「いや、なんだか雰囲気が友好的では無いのだが」
「どこなんだよ、ここは!
お前らアタイをどこに連れてきたんだ!」
言いながら手にした木の棒で床を叩く。
「因みに鑑定してみましたけど、彼女技能二つ持っていますよ」
「2つ⁉︎」
それは凄い、流石異世界からの来訪者。
「【威嚇】と【ツッパリ】の二つです」
「………………ナニソレ?」
「【威嚇】は文字通りです。
【ツッパリ】の方は、〈権力者相手でも自分の道を貫き通す、それが私の生きる道〉と出ています。
補足として〈長時間ウン○座りをしても足が痺れず、押しても倒れない〉とも出ていますね。
体軸しっかりしていそうですよ」
「…………チェンジで」
「そうですね、国の次期最高権力者となる王子の相手が、自分を貫くじゃあ宜しくないですよね」
お帰りいただきました。
因みに…木の棒でガンガンと殴りつけられた床が少し凹んでいた……何あの木の棒、コワイ!
昨日のアレで床が凹んで魔法陣が歪んだので、続きは今日に持ち越しました。
「黒髪黒目で……可もなく不可もなく………」
「もっと具体的に」
そう言われても、昨日の二件で食傷気味なのだが……。
将来王妃になるのなら、知識が有る方が良いかな。
明るくなくても、強くなくても良いから、大人しめの子…少し年上でも良いかな。
後は知識の豊富な人が良いかな。
三度目の正直であります様に!
願いを込めて魔法陣の光が収まるのを待つと、そこに居たのは…。
「え?あの、ここどこ?」
ダークレットの体のラインのわかる上着に揃いのズボン、サイドには白いラインが入っていて、胸には何かのエンブレム、背中には白く四角い布が縫い付けられていて、別世界の文字と【3-C】と書かれている。
髪の毛は背中の中程までの長さで、一つに結えていて、顔には眼鏡をかけている。
彼女はキョロキョロと見回した後、突然大きな声でペラペラと喋り出した。
「あーハイハイ、異世界召喚ね。
ありがちな所で金髪が皇太子で銀髪が賢者とか?
で、私は聖女様か?
異世界召喚の特典で光魔法が使えるとかでしょ、『ヒール!』……あ、ヤバ~、怪我とかしてないからわかんないじゃん。
ならオヤクソクで『ステータス オープン!』……えー、何も出ないし。
まあ、コレでも自炊歴2年だからある程度はご飯作れるけど、飯テロは無理かなぁ、内政チートは絶対ムリ!
生産チートは……、ぐーるるセンセイ無いとムリ!
ヤバくない?特典ないと何もできないよ、草~。
あ、スマホ持ってきてるじゃん、サスワタ!」
……知識はある様だが、言ってる意味がほぼ分からない。
「彼女の技能は【オタ魂(たま)】だそうです。
〈好きなことには相手が誰であれいくらでも話せるけど、基本対人スキルが低い。
推しの話なら止めても止まらない〉だそうです」
「推しとは?」
二人でコソコソ話していると、それまで意味のわからないことを話し続けていた彼女は、魔力が切れた様に、ピタリと口と動きを止めた後、急に大声を上げた。
「…………あーーーー!!!
ダメじゃん!異世界だと思いっきり圏外どころじゃ無いじゃん!
19時からガチャ更新なのに!!
ハニエル様プレイアブル実装なのにガチャれないじゃん!
天井行くつもりでギフカで課金してんのに、ガチャれないじゃん!!
ちょっと、国とか救ってる場合じゃ無いよ、早く日本に帰してよ!
ちゃんと召喚した時間に戻してよね!
ハニエル様お迎えしないといけないんだから!
しかもハニエル様いきなりの闇堕ちバージョンとか、公式も分かっ「送還!!」」
「……………………」
「……………………………………………」
「……………………………何言ってたか分かったか?」
「誰かいましたか?」
「サラッと無かったことにしてる!」
「もう諦めた方がいいのかな……」
部屋の隅で膝を抱えてしまう僕。
「ええ、諦めましょう、私も飽きました」
「幼馴染が酷い!
慰めてくれよ、落ち込んでいるのだから」
「二度あることは三度あるといいますしね」
「慰めて無いよ~!」
膝を抱えたまま、力尽きてゴロンと横になる。
「僕なんかに【救国の乙女】は訪れないんだ。
このまま隣国で年寄りの30何番か目の妃になって、二度と国に戻って来れないんだ。
そのうちオッパイとか生えてきたりして」
「ハイハイそうですね」
「…………そしてこの国でお前が王になって、国の運営、他国との交渉、貴族との付き合い、世継ぎも一人じゃダメだし、国の発展も頑張らなければ諸侯から突き上げられるしで、きっと魔法の研究なんて「さー、次行きますよ、次!」」
彼がやる気になってくれたけど、正直言って僕のメンタルもボロボロですよ。
本当に【救国の乙女】の召喚なんてムリなんだろうな。
次でまた変じ……変わった…………個性的過ぎる人が召喚されたら諦めよう。
もういいんだ、僕が我慢して男嫁になれば………やっぱり嫌だ~~。
昨日今日で…いや、父王から話を聞いた一昨日から疲れること続きだ。
癒されたい。
包み込んでくれる様な、母性溢れた優しい人に癒されたい。
優しくて控えめで、それでも芯は強くて、笑顔が素敵なら尚よし…って望み過ぎるか。
あ、母性溢れるとか言うと母親とか主婦が喚ばれてきそう。
人妻はダメですよー。
最後なんだからこうなったら理想を全部言おう!
言うだけタダだ!
優しくて控えめで包み込んでくれる、芯は強くて笑顔が素敵で、頭の回転が早く、会話を楽しめて、他人に気を使うことができて、子供好きで…見た目はスレンダーな方が好きかも。
騒がしくなく威嚇もせず、王族って体力勝負なところも有るから、健康で体力があれば文句なし、かな。
つらつらと条件を頭の中で考えているのに、幼馴染の視線が痛い。
思考が読めるのか?
「じゃあ条件はお前が〈今思い浮かべたもの全て兼ね備えた人物〉でいいか?」
「やっぱり思考を読んでる?」
「読むまでもない、顔に出てる。
優しくて控えめで包み込んでくれる癒し系とかでしょ?」
それが伝わるってどんな表情しているんだろう、僕は。
魔法陣の光が収まった中に立っていたのは女神だった。
【救国の乙女】は皆小柄だと伝え聞いていたけれど、スレンダーな彼女は、僕より10センチほど低いくらいかな。
黒い艶やかな髪はサラサラと音のしそうな腰までのロングヘア。
背筋を伸ばして真っ直ぐ立っている姿も美しい。
いきなり見知らぬ場所に喚ばれたのに、キョロキョロすることもなく、さりげなく視線だけを動かし現状を確認する。
失礼にならない程度にこちらを見て、小さく息を吐いた後、にっこりと微笑み、体の前で手を重ねゆっくりと上半身を倒す。
確か【救国の乙女】の国の挨拶だ。
すっと頭を上げ、微笑んだまま彼女は名を名乗り、現状を訪ねてくる。
頭の良さそうな人だ。
「それで、失礼ですけど、ここはどちらなのでしょうか。
私は職場に向かう途中でした筈なのですが、瞬きをしたらここにいたのですけど」
何かご存知ですか?と首を傾げる姿もスッとして美しい。
見惚れている僕に代わり、彼女に説明してくれている幼馴染。
別の世界から喚ばれた人には、どう言う仕組みかは分からないけど、元々持っている技術が向上し、技能になってこの世界の発展に繋がることから【救国の乙女】と呼ばれている事、そしてその乙女は次期王妃となる事などなど。
「そうですか。
しかしながら私に王妃に成るほどの技能は有りませんけど」
少し困った顔もいい。
「無断で申し訳無いのですが、この場に来た瞬間に鑑定させていただきましたところ、あなたには【家事・育児】【ダンス】【外交】の技能が有りました」
「家事、育児に関しましては、お恥ずかしながら5人きょうだいの長子でして、家事の手伝いをしていました。
そんな細ささやかなことだと思います。
ダンスと外交は……仕事柄でしょうか。
海外からのお客様をもてなす事も多かったものですから、日常会話や多少のビジネス用語を覚えましたけど、仕事の役に立つくらいでしたよ。
外交と言うほどのものでは無いかと存じます」
ぼーっと彼女の話を聞いている僕の脇腹に、幼馴染の拳が埋まる。
『何ぼーっとしているのですか、技能にせよ受け答えにせよ理想通りでしょ?
しかも技能が三つも有るなんて、初めて聞きましたよ、多くて二つですからね。
ちゃんと会話して………絶対に落として下さいよ』
『わ、わかってる』
背中を押されてギクシャクと彼女の前へ。
「彼からも説明が有りましたけど、今回僕は妃になる方を求めて召喚の儀式を行いました。
そこで現れたのが貴女です。
すぐに返事は求めません、ただ私を知って、前向きに考えていただけないでしょうか」
彼女の右手を取り、その甲にキスを落とす。
スッとした指は長く、爪の手入れもしっかりされている、体に見合ったしっかりした綺麗な手だ。
キスを受けた彼女は小首を傾げ、少し困った表情を浮かべている。
「あの…私は年上の様ですし……私にはお妃様は無理です」
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え?生理的にムリとかじゃ無いよね?
「年など関係ありません。
直ぐに決めないで、考えてみて欲しいです、僕と一緒の未来を」
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申し訳なさそうに断り続ける彼女は、体の前で重ねている手をギュッと握りしめ、真っ直ぐ目を逸らさずに告げた…。
「だって私、男なんです」
………オトコ?
女性にしては背が高いかな、とか手が大きいかな?とは思ったけど、男?
大きく無いけどオッパイも有るよね?
思わず胸に視線が行くのは仕方ないと思う。
「心は女性だと育ってきましたし、体も工事して女性になっていますけど、男性の体で生まれてきましたから、子供を作ることが出来ません。
王妃になるには世継ぎを作ることが必要ですよね?
申し訳ないのですが、私にはどうしたって無理なのです」
全てを告白した後、悲しそうに微笑み瞳を閉じる姿は、どう見てもか弱き女性である。
僕は彼女に近づき、その手を取った。
「大丈夫です、子供は授かりものですから、普通の夫婦でも子供ができないことは有ります。
世継ぎなら姉か妹の子供を養子とすればいいですし、王弟である叔父の孫を迎えてもいい。
王家の血筋が繋がれば問題ないです。
世継ぎも大切かもしれませんが、国民も私たち王族の子供達です。
私と一緒に国民を護り幸せな後世を育んでくれませんか?」
「………本当に私で良いのですか?」
「出会ったばかりで信じられないかもしれませんが、僕は貴女に一目で恋に落ちました。
僕の隣に並び立つのは貴女が良いです。
僕の妃になって下さい」
彼女の瞳を見つめながら申し込む。
後ろで「マジか!」とか「初恋とか拗らせ案件じゃん」とか「男嫁って王にどう伝えるんだよ」とか「自分が男嫁になるんじゃなければ、男嫁でも良いのかよ」など聞こえるけど、関係ないね。
僕は彼女が良い。
例え技能が無かったとしても、彼女が良い。
僕の意思が硬いのが分かったのか、幼馴染はため息を吐く。
「まぁ、三つの技能がどう役立つのかは今は分かりませんけど、彼女?の立居振る舞いなら王も頭ごなしに拒否はしませんでしょうし、まずは面会させて、言質をとった後に性別をバラす方がいいんじゃないですかね」
そのアイデアいただき。
どうやら味方になってくれる様だし、後は彼女が頷いてくれたら………。
「お願いします美しい方、どうかこの国の僕の隣で生きて行っては貰えませんか?」
彼女は一度瞳を閉じ、ゆっくり開けた後………………
#################
サラシを巻いて特攻服を着、木刀を持ったレディスと、ジャージを着たオタク娘を召喚後、ニューハーフのホステスを召喚しました。
ニューハーフの方は、メイクや着る物、持ち物や立ち居振る舞いを意識して行動されていますから、ズボラな私より女子力高いです。
こののち二人は後継はできなくても、幸せに暮らしていくと思います。
シリーズからもうひと作品アップします。
宜しければそちらも宜しくお願いします。
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触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
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