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前編

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「そうだな、【救国の乙女】を娶れたなら、お前を嫁入り対象から外しても良いぞ」

父である国王は、『どうする?』と表情で問うてきた。



「頼む!もうお前に縋るしか無いんだ!
この国…いや、この大陸一の魔法の使い手であるお前なら、伝説の【救国の乙女】の召喚魔法を使えるだろう?
いや、使えるに違いない!
だってこの世の中にお前以上の魔法の使い手は居ないのだから」

恥?外聞?そんなの関係ないね!
公爵家三男でいて魔法省のトップである幼馴染に、過去の【救国の乙女】から伝えられた究極の技【ドゥゲザー】をしている。

この【ドゥゲザー】は相手の足元に跪き、【首を落とされようと背中を踏みつけられようと、一切歯向かいませんので、願いを聞き入れてください】と言う意味らしい。

「【救国の乙女】ねえ……、察するに、先日の戦争の賠償金代わりに、相手の国に人質になれとでも言われたの?」

そう、つい先日まで我が国は隣の国と戦争をしていた。
………いや、戦争をしていたと言うか、ジャレついてたと言うか……………。

我が国は謙遜ではなく、とても小さな国で、これと言った資源もない。
名産品も特産物も無い。

隣の国は、大陸一の大国だ。
国土の面積、国民数、教育水準、自給率、全てにおいて大陸一だ。
国内には金山や鉱山まで有り、海にも面しているので他の大陸とも交流がある。
勿論武力などは天と地の差だ。

なのに何故戦争なんてしていたかと言うと、我が国唯一の取り柄であるモノを差し出せと言われて、ついつい無謀にも戦いを仕掛けてしまったのだ。

何もない我が国の唯一の取り柄……それは……
 

顔が良い


いや、何言ってんだと思われそうだけど、この国の土地柄なのか、空気なのか水なのか、この地で生まれた国民皆美形。
特に王族は『過去に神様の血でも混じってるのではないのか?』と言われるほど、神々しく美しい。

そこで隣国から、是非嫁に欲しいと申し出が有ったんだよ……。
婚姻の申し込みはよくある話なのだし、大国の申し出だ。
普通なら下克上…じゃなかった、玉の輿だと思われそうだけど、相手は現国王、御年(おんとし)53歳、その31番目の妃としてだよ?

こちらは姉は別の国に嫁いでいて、未婚なのは僕と双子の18歳の妹だけ。

ムリでしょう。

しかも父王はこの妹をとても可愛がっていて、妹が泣きながら『嫌です』と訴えたので、父王だけでなく、大臣も騎士も、国民までもが『姫様を泣かせてまで…』と、勝てもしない戦を仕掛けた、と。

武器を持ち、隣の国へ攻め入り、30分後には鎮圧されましたが何か?

しかも国境の街の一般住民に制圧されましたけど何か?

………軍隊や兵士どころではない、商人や食堂の料理人、花屋のお婆さんに制圧された我が国の軍隊って一体……………。


それはさておき、我々の遺憾の意を汲み取ってくれたのか、隣国の王は選択肢をくれたんだよ、迷惑な事に。

『我は子や孫は沢山居るから、子供を作る必要がない。
なので嫁いで来るのは姫でなく王子でも良いぞ。
男の妃も6人居るし、姫が嫌なら王子を嫁がせよ』

それを聞いた父王は、僕を嫁がせる事を真剣に考えだした様だ。

待って、父上、僕、唯一の王子、貴方の跡取り、なのですが?

「うーん、いざとなれば姫と公爵家の三男を……、幼馴染だから気心知れてるだろうし…」
「父上、彼は根っからの魔法バカです。
しかも愉快な事が大好きですから、もし国王などになれば、国をキラキラふわふわな夢と魔法のテーマパークにしかねません!」
「しかしなぁ、姫が泣くのだぞ?」
「僕だって泣きますよ、何故跡取りのはずの王子の僕が、男嫁にならなければならないのですか?」
「先日の国境の街で暴れた件を持ち出された上で、姫でなくても良いと言ってくれたのだからな」
「戦争を仕掛けた筈が、街で暴れたになってるんですか⁈
いや、それは後に置いといて、王子は僕一人なんですよ」
「姫だって、第一王女は嫁いだから、今は一人だぞ」
「次期国王として今まで学んで来た僕の事も考えてください!」

このままでは僕が男嫁になってしまう。
父王だって僕が嫌いと言うわけでは無いのは分かっている。

ただ、僕を残しておくメリットと、妹の涙を比べると、妹の涙が勝つのだろう。
僕でも妹でも、王家の血筋は残るのだから。
だから悩んで決断が出来ないのだと思う。
本当に【姫可愛い】だけなら、こうして話し合う事もなく、今頃僕は隣国行きの馬車の中だろうから。

普段は顔が良く、愛想もよく、笑顔一つで民を纏め、国を纏めている顔だけ王に見られているけど、これでも一国の王だ、かなり計算高い。
なんだかんだで不利益を被ることのない様、緻密に計算して、笑顔で、或いは寂しげな表情で、相手を操る腹黒だ。
でもそれは決して表に出さないし、嵌められたとバレても、ニコッと微笑めば『まあ、仕方ないか』で許される、それが我が王家の【顔】なのだ。

どうすれば僕に価値があると思って貰えるのだろうと考え込んでいると、父王がゆったりと言葉を紡ぐ。


「そうだな、【救国の乙女】を娶れたなら、お前を婚約対象から外しても良いぞ」



【救国の乙女】それは御伽噺の様な本当の話。

数百年前、隣国はうちと変わらぬ規模の小国だったそうだ。
ある時、疫病が国に蔓延し、国民が次々と亡くなり、このままでは国が滅びると誰もが思った時、古代魔法の研究者が【異世界召喚】なる魔法を成功させたと言う。

『別の世界から人を喚び寄せる…それって拉致?』

話を聞いていた当時の僕が首を傾げると、話をしてくれていた公爵夫人は曖昧な笑顔で誤魔化したっけ。

とにかく、別の世界からこちらへ渡る時に、元々持っている技能…スキルがパワーアップするそうだ。
最初の乙女は医療関係に従事していたそうで、調薬がパワーアップして、疫病の特効薬を作り出し、国の滅亡は防がれた。

その後も、【料理の乙女】【建築の乙女】【ファッションの乙女】【美容の乙女】【農作の乙女】【計算の乙女】【音楽の乙女】【筋肉の乙女】【改造の乙女】………さまざまな乙女を召喚して、その恩恵もあり、現在の大陸一の大国になったと。

そんな国を救う乙女を召喚できて、尚且つ妻にできたら、そりゃあ僕の価値は上がるでしょう。

でも僕にそんな魔法の能力はない。
だがしかし、幼馴染の公爵家三男は、最高峰の魔法使いだ。
しかも魔法大好き、知らない魔法なんて無い、魔法のためならどんなことでもする、とまで言われている程の魔法バカだ。
きっと秘匿である召喚魔法も知っているだろう。

だから僕は彼の足元に【ドゥゲザー】しているのだ。

「人質ならまだ良かったよ。
僕このままだと、隣の王の30何番か目の嫁にならないといけなくなるんだ」

「嫁……」と呟いた後、彼は腹を抱えて笑い出した……ヒドイ。

「はー…笑った笑った。
隣の王って確か、うちのお爺様のちょっと下くらいの年だよね?お盛んだねぇ。
でもなぜ姫様じゃなくてお前なの?」

第一王子で一人息子の僕と同じ歳の妹が居るのに、何故わざわざ男が嫁入りなどと言う話になっているのかを、こんこんと説明をした。

「どっちでも良いって、流石絶倫王だね」
何その二つ名、怖い。

「姫様可愛いけど、メリットがあるなら、泣いても姫様差し出すって、姫様の為に戦まで仕掛けたのに、王様は怖い怖い。
でも笑顔で隠して本音を悟らせないところがまた怖い。
何よりかにより、俺を姫様とくっ付けようってのが一番ナイワー」

女性と付き合う暇があれば、魔法書を読む方が有意義と、にっこり笑いながら行く先々で言ってい、女性の誘いをことごとく断る程の魔法バカの彼に、王として国に縛られ、国の為に尽くすなんて、考えるまでもなく却下だろう。
しかも妹はチヤホヤしてくれない彼が苦手だ。

「まあ面白そうだし、やっても良いかな」
「やっぱり召喚する魔法知ってるんだ」
「ふふふん」
「どうやって秘匿情報を…なんて聞くだけ無駄か。
でも知っててくれて助かった」
「こんな魔法そうそう使えるものでは無いし、実際使う事ないだろうと思ってたから、俺としてもラッキーかな」
「宜しく頼む」

再度地面に頭を付けて【ドゥゲザー】をする。本当に良かった。


翌日、彼の実験室を訪ねると、床に描かれた魔法陣が輝いていた。

「準備は出来ていますよ、後は条件ですね」
実験室だと言葉遣いが若干丁寧になるのは相変わらずだな。

「条件?」
「どんな感じが良いとかあるでしょ?」

条件…さしてないなぁ……この国で生活していくなら、自分をしっかり持ってる人が良いかな、何せ違う世界なんだから、クヨクヨメソメソしてるより、能天気な程明るい方が良いかな?

「明るくて自己主張の出来る人が良いな」

OKとばかりに右手をひらひらさせて、彼が呪文を唱えると、魔法陣の輝きが増していく。
目が開けられないほどの光の中、人影が浮かんで来た。

凄い、一回で成功だ!

光が徐々に収まり、召喚された乙女を見ると……乙女…………乙女?

「え~、ちょっとナニコレ~、なんかー、知らないトコなんですけど~」

そこに居たのは茶色から金色にグラデーションしたバサバサの髪、上着はカラフルで沢山重ねているのに、スカートは下着が見えそうな程短く、足元には白い布?が……なんと言えば良いのだろう、グシャグシャになって巻きついている?
肩から下げているカバンには、何故そんなに?と言うほどぬいぐるみや造花がぶら下がっているし、指より長い爪、何よりかにより………

「人間?」

肌は茶色く、顔は黒、唇と鼻筋は白く塗られていて、目が…いや目の周りが凄い……本当に人間?

「はぁ~、何言ってんの~、チョームカつくんですけど~」
「控えなさい、この方はこの国の第一王子です。
貴方の態度は不敬です」
唖然として言葉の出ない僕の代わりに、彼が少女?を嗜める。

「はぁ~?オージ?ナニソレ、チョーウケるんですけど~。
フケーって参観日ですかっつーの、チョーイミフですが~?」
言いながらギャハハハと下品に笑う少女…少女?

「ムリ!!チェンジ!!!」

僕の叫びと共に、少女?は送還された。


「……………」
「……………………………」
「…よく笑う、明るくて自己主張できてる方でしたね」
「いや、ないだろ!
あれ本当に【救国の乙女】の国の人間?
人種が違うんですけど?
【救国の乙女】の国って黒い髪で黒い目って聞いたよ?」
「条件付けが悪かったんでしょう」
「え?まさかの僕のせい?」
「次行ってみましょう」
「え?スルーする?」
「………ダジャレ言う元気があるなら大丈夫ですよ」
「不敬なのはお前だーー!」

思わず拳を握り叫ぶ僕を横目に、
「実際に召喚できると言う結果が得られましたので、もう帰って良いですか?」
冷たく言う彼。


再度【ドゥゲザー】しましたとも。





############## 

ルーズソックスを履いた、ヤマンバギャルを召喚してしまいました。
…ヤマンバギャルってどんな口調なのでしょうか?
わからないので適当です。

公爵家の彼がタメ口なのは、気心知れた幼馴染で、私の二人きりの時だけ、実験室内では、公として、口調を改めていると言う設定です。

国の名前、登場人物の名前は有りません。
そんなシリーズの一作で、決して面倒だと言うわけではない…と言うことにしといて下さい。
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