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四章 再会
204 うちの妻は凄いんです!
しおりを挟む翌日妻は薬師ギルドへ向かいました。
ギルド登録には、農業ギルドなら、農業をされている、もしくはこれからされる方、漁業ギルドなら船を(ボートのような物でも可)持っている方やこれから購入予定の方、商業ギルドは商売をしている、又は始める方など、一応のラインが有ります。
冒険者ギルドは、犯罪歴さえなければ登録できる、一番簡単なギルドなのだそうです。
生産ギルドは、実際に何かを作ってギルドに提出して登録可能。
一番登録しにくいのが薬師ギルドで、最低条件が、調合スキル・小 を持っている事、傷薬が作れる事だそうです。
勿論作り方は学んできて、素材はギルドが準備してくれるので、その場で作りキチンと薬ができるか実践します。
どんな品質でも、取り敢えず傷薬が出来上がれば登録は出来るそうです。
薬師としてのランクは毎年ギルドで薬を作り決まるのだとか。
品質の向上は、各自腕を磨くとして、初歩の傷薬すら出来ない方は、どんなに本人が望もうとも、金を積もうとも、登録出来ないそうです。
勿論妻は登録出来ましたよ。
しかも高品質の傷薬が出来たので、職員の方に言われて、ポーション、解毒薬、麻痺回復薬、頭痛薬など、言われるままに作ったそうです。
どうやら、手順の書かれた書物を見て、材料を手にすると、勘が働くとでも言いますか、
『温度はここまで、………混ぜるのは後○秒、絞る力加減はこんな感じ』
などと、頭にうかぶそうで、その通りにすれば、どんな薬でも作れるし、品質も良い物が出来たのだそうです。
「不思議ですねえ。
でも私が料理する時も、同じょうな感覚ですね。
『火を止めるなら今!』とかね、いつでも最善なタイミングが分かるんですよ」
私が言うと妻は、
「そうね、同じみたいね」
と頷きました。
口には出しませんでしたけど、地球には無かった【スキル】や【魔法】などは、詳しく考えても分からない…以前の常識にはなかった物、それこそテレビで娯楽として見る物でしたから、何が正解で、どうする事が正しいのかも分かりません。
分からないのだから【こんなモノなのだ】と受け入れるしか無いと思います。
でも、一つだけ不思議なのが、私のスキルは黒服の方にいただいた物ですけど、妻の最初のスキルは、以前の生活で身についた物…料理と裁縫は分かりますけど、何故調合スキルが有ったのでしょう?
「多分だけど、家で使っていたドレッシングや、ハーブティーって、私が庭で育てたハーブを使って作ってたからじゃないのかしら。
あれが調合と言えるのかはわからないけど」
「え?そうなの?
全然知らなかったよ」
妻が言うには、ドレッシングなど、二人暮らしですし、毎回同じ味だと飽きますから、市販の物を買うと、どうしても使い残しが出てしまい、勿体無いので、手作りしていたそうです。
「自分で作れば、必要な量の好みの味の物が作れますからね。
うふふ、あなたは生野菜嫌いだから、美味しいドレッシングが無いと残すでしょう?
だから頑張ったのよ」
はい、生野菜嫌いです。
ドレッシングをかけて味を誤魔化さないと食べません。
「お手数おかけしました」
「いえいえ、あなたの反応を見て、調整して、あなた好みの味を作り出すのが、とても楽しかったわ。
残さず食べた時は『やったー!』って、内心思っていたのよ」
そう言えば、実家にいる頃は、生野菜どころか、好き嫌いが激しくて、家の食卓で嫌いな物が出ると、インスタントラーメン食べてたくらいの偏食だったのに、いつの間にか好き嫌いがほとんど無くなったいましたね。
今更ながら、妻がどれだけ私のために尽くしてくれたのかを実感しています。
私ってとても愛されていたのですね。
以前なら恥ずかしくて出来ませんでしたけど、心の赴くまま、妻を抱きしめ「ありがとう」と告げました。
少し驚いたような反応をしましたけど、妻も私を抱き返してくれました。
「うふふ、どういたしまして」
…………
………………………
……………………………………抱きしめたは良いですけど、これ、腕を外すタイミングって、どうすれば良いのですか?
慣れない事をしてしまったので、この後どうすればいいのか分かりません。
………ちゅーでもす…「母ちゃん、薬屋さんになれた?
必要な薬草ある?
僕採ってくるよ!」
「あら、そうねえ、何を作るかによって変わるから、どのお薬を作るか一緒に考えましょうか」
「うん!」
ノックもなく部屋に飛び込んで来たシナトラに、妻はスルリと自然に腕から抜け出し、話を始めます。
………ナイスタイミングなのか、邪魔しやがってなのか、どちらにせよ微妙な気持ちになりました。
その日の夕食時、家族の皆から妻へ、薬師登録祝いとして、大きさの異なる乳鉢と、薬研や秤りに小さな片手鍋や魔女鍋?など、薬を作る時に必要な道具をプレゼントしてくれました。
「一通りの基本だけだかな。
その内足りないものも出てくるだろうが、一先ず必要とされている物だ」
「そうですね、そのうち拘りも出てくるでしょうけど、初心者向けの物を揃えてみました」
「まあまあ、素敵なプレゼントありがとう」
プレゼントを手に取りながらお礼を言うと、アインが「そう言えば…」と話し出しました。
「話は変わりますけど、オファド商会のカラマが、マフラーと手袋を仕入れさせて欲しいと言っていましたよ」
妻は家族皆にマフラーを、白雪にはミント型の手袋を毛糸で編んでくれたのですけど、早速目をつけられたようですね。
この世界に毛糸は有るのに、毛糸編みは無いんですよね。
防寒には織物のショール、帽子くらいですかね。
オファド商会は衣料品や装飾品を扱う商会ですから、身に付ける目新しい物に敏感に反応したのでしょう。
だって私の妻は、編み物も凄いんですから!
バザーやフリーマーケットにも、色々出品したりしてたんですよ。
「うーん、そうですねぇ…ゆくゆくは販売を考えても良いですけど、冬のものですからね。
今から職人を育ててとなると、今年の冬は無理でしょう。
指導する人間は妻しか居ませんし、妻は薬師としてスタートする所ですから、時間的にもこの冬は無理です」
私の言葉に妻も同意します。
「そうね、教えるのは良いけれど、それが商品としてのクオリティに行くまでに時間がかかるでしょうから、この冬は無理だと思うわ。
私もブランクがあるから、すぐにと言われるのなら、断るしか無いと思うの」
「それでは後日カラマも交えて話をして下さいね」
私と妻は頷きました。
ふふふふふ、私の妻が凄いことを見抜くとは、カラマさんは見る目がありますね。
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