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四章 再会
201 家族との対面 2
しおりを挟むシナトラから『父ちゃん』と呼ばれた時は、ちょっとくすぐったいと思っただけでした。
チャックから『父さん』と言われた時は、あのチャックですから、とてもビックリしました。
白雪から辿々しく『とーさま?』と呼ばれた時の衝撃ときたら……。
だから今の妻の心情は痛いほどよく分かります。
「抱っこしていいかしら?」
視線を合わせる様に膝をつき、両手を広げた妻に、白雪はキョロキョロと周りを皆を見回してから、おずおずとその腕の中へ。
優しく包み込こまれ、へへへと照れ笑いする白雪と、微笑む妻は……何といえば良いのでしょう、視界が滲みます。
「いーなー、僕も抱っこされたいなー」
「バカなの?ジョニーより大っきな身体で抱っことか、バカなの?」
いつも通りのシナトラとチャックのやり取りですけど、チャックに全面的賛成です。
と言いますか、絶対にダメです。
「うふふ、抱っこはちょっとダメかしら」
言いながら白雪から手を離し、立ち上がった妻は、シナトラの頭を撫でました。
「抱っこの代わりにこれじゃあダメかしら?」
頭を撫でられたシナトラは、ニコニコ笑顔です。
「ヨシヨシでも良いよ!
何だかくすぐったい感じがするね!」
「チャックも良い子ね」
シナトラの頭を撫でる反対の手で、チャックの頭を妻が撫でると、赤い顔をして、
「オ…オレは良いから!」
ぶっきらぼうに言いながらも、じっと撫でられているチャックは可愛いと思います。
ひとしきり二人の頭を撫でた後、妻の視線はコニーへ向けられます。
「いや、流石にぼくはパスですよ」
中身は150年以上生きてきた魔王であっても、見た目が2歳児ですから、きっと抱っこしたかったのでしょうね。
気持ちは大変良く分かりますけど、流石に止めますよ、私も。
それから、ブルースとアインとデイビッドが自己紹介して、顔合わせは終わりました。
「後、私が名前を付けたのでは無いのですけど、町の中央近くにある食堂に、仲間のヨーコーと言う男性が居ます」
「ヨーコーさんですか?」
「港の街で会ったんだよ」
シナトラの補足に、「港の街のヨーコー……」と呟いた妻は、私に視線をよこしますけど、何故でしょうか、残念な子を見る様な視線な気がします。
「後は今別の島へ行ってしまった、我と同じ王様トカゲのルシーがおるな」
「………その方は、ダイヤモンドみたいなキラキラした方で、空を飛ぶことができるのでしょうか?」
「おお、よく分かったな」
「………………………」
何故でしょう、先程から妻の生温い視線が突き刺さります。
「ところで、こちらは男性の方ばかりですけど、家の事はどなたがやっているのですか?」
話を変えましたね、それに乗りますよ。
「食事は私が作ったり、ヨーコーの店から配達してもらったりですね。
掃除や洗濯は、魔法でチョチョイと」
「まあ!あなたが家事をされているのですか?」
とても驚いた顔をされました。
まあそうですよね。
以前はお茶の一つも淹れたこと無いですからね。
「ええ、私、料理が出来るんですよ」
「父ちゃんのご飯美味しいよ」
まあまあと、驚く妻に、スキルの説明をしました。
「私のスキル…技能で、一度食べたことが有る料理なら、素材さえあれば、再現できると言うものが有りましてね……つまり、リリーの味を思い出しながら色々作ったんですよ」
そう、私の作る料理の味付けは、ほとんどが妻の味です。
この世界では、家で食べた味の物を優先して作ってきましたからね。
私の言葉に、妻は「あらあら」と言いながら、赤くなった顔に手を当て、微笑みます。
「皆さんのお口に合ったなら良いんですけど。
それでも、そのスキル?が有ったからって、あなたが料理をねぇ」
「最初は森の中でしたからね、自分でどうにかしないと、飢え死にしましたから。
周りに何も無くて、チャックに出会わなかったら危なかったかもしれません」
「オ、オレの話はいいから!」
話を向けられたチャックが、赤い顔をしてそっぽを向きます。
出会いの場面は先程見せましたから、状況は伝わっています。
妻が再びチャックの頭を撫でながら、
「ありがとうね」
と言うと、小さな声で
「オレも助かったんだから、おあいこだし」
と言いながら俯くチャック。
頭を撫でた後、妻は皆の顔を見回して、姿勢を正し、頭を下げました。
「皆さんも、夫を……ジョニーを支えてくださり、ありがとうございました。
これから、ジョニー共々宜しくお願いします」
「支えたつもりは無いがな。
家族として共にあっただけだ」
「一緒に居ると色々有って楽しいしね。
城に篭っていただけじゃあ分からなかったことを知ることもできたし、これからも一緒に色々経験出来ると良いよね。
こちらこそ宜しく」
「コニーさんの言うように、俺もジョニーのお陰で世界が広がって、逆にこっちが世話になりっぱなしなんだけど。
今度俺の家族にも会って下さいね」
「僕の母さんとは生きる長さも変わっちゃったし、もう会う事も無いと思うから、これからは、母ちゃんが僕のもう一人の母ちゃんだと思っても良い?
えーと、おやこーこー?するから、仲良くしてね」
「オレも出来ることは手伝うから、言って。
これから宜しく」
「白雪もお手伝いするから、母さままたギュッてしてね」
「こちらの世界は今まで居た世界とは異なる事も多くて戸惑うでしょう。
分からないことが有れば、何でも聞いて下さいね。
これから宜しくお願いします」
ブルース、コニー、デイビッド、シナトラ、チャック、白雪、アインの順に、妻に声を掛けてくれました。
「今まで家事も任せっぱなしだったし、色々苦労をかけてきたけど、これからの長い人生、一緒に歩んでくれますか?
この世界で魔法の力ですけど、色々出来る様になったんですよ?
色々出来る様になって、百合江さんに負担をかけていたことに気付きました。
男だから、外で働いているんだからと、自分自身に言い訳して、色んなことを任せっぱなしでしたね。
これからは二人で手分けして、協力して、助け合って、生きて行きましょう。
二人で…いえ、家族皆で幸せになる様、頑張っていきましょう。
一緒に生きてくれますか?」
妻と再会したら、言いたいこと、謝りたい事が沢山あったはずなのに、簡単な言葉しか出てきません。
それでも気持ちを込めて、今思い浮かぶとこを伝えました。
「………一緒に…生きていきましょう」
涙を浮かべながら微笑む妻は、とても美しかったです。
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