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三章 町をつくる様です
192 年末に向けて
しおりを挟む10月になり、寒さも随分厳しくなってきました。
雪もちらほら降っていますけど、道を薄ら染めるくらいで、日中の陽射しで溶けてしまうくらいです。
以前だと、年末に向けて大掃除や買い出しの手伝い、年賀状を書いたりなど、年越しの準備が有りましたし、年明けには初詣、お年始の挨拶など。
妻は妻で、お歳暮を手配したり、おせち料理を作ったりと、割とやることは有りました。
忘年会に新年会、仕事納めに仕事始め、取引先への挨拶など、仕事でもバタバタしていました。
日付が変わるだけなのにね。
こちらの世界では、時計もカレンダーも無いですけど、一応【暦読み】と言うスキルを持つ方が居て、大体が権力者の元で働いています。
で、10月の最終日に人々に【年の終わり】を告げ、1月になったら(歳を越したら)それを民に伝えるそうです。
要は国のトップが
「今日で今年は終わりですよ、明日から新しい一年が始まりますよ」
と、それぞれの民に伝えて、暦を合わせているのです。
そこからカレンダーに繋がる迄は行っていないんですね。
カレンダーが無くても、農家の方々は日照時間や星の角度、風の強さや外気温で、種蒔きの時期や収穫時期を、経験で行いますので、詳しい日付は必要ないようです。
時計も陽の高さで、「ご飯の時間だな」「そろそろ休憩か」「仕事を終わらす頃合いかな」と判断しています。
『電車が来るまで後3分』とか、『終業の時間まで後1分』など、分刻みだった以前より、随分と余裕のある生活が出来て良いです。
去年は、アインが
「今日が今年最後の日ですから、今日を記念日にしてみるのはいかがですか?」
と言ってくれたので、住民の方々に、【年末のこの日を町の完成記念日にするので、宴を開きます】と告知して、敷地内の畑(家庭菜園)に寒くない様焚き火を数カ所準備して、食べ物と酒を振る舞いました。
今年は広場で…と思ったんですけど、広場には石畳が敷いてあるので、焚き火はできません。
出来ないと言いますか、石畳が焦げますからね。
なのでやはりうちの敷地内の畑で、焚き火を囲んでの、飲み食いになりそうですね。
町の住民が入り切る公民館か体育館みたいな物を建てるのも考えておきましょう。
焚き火はできなくても、寒くなければいいですよね。
そして、年末の告知なのですけど、大体の国は、鐘を鳴らすそうです。
教会の鐘みたいな、字で表すと
【リンゴーン リンゴーン】
って感じの音ですかね。
西の向こう側の国や、別大陸の、こちらより文化の進んでいる国々では、年末だけで無く、何かあった時…例えば国王が崩御したとか、皇太子がご成婚したとか、後継の王子が生まれたとか、冠婚葬祭で鳴らすそうです。
後は、人々の目安のために、毎月の月初めに鳴らす国、毎朝の起床時間に鳴らす国、逆に年末しか鳴らさない国など、それぞれの様です。
うちはどうしようか話し合い、毎朝鳴らすのは、夜行性の方には迷惑ですし、年末だけでは寂しいので、毎月の月初めに鳴らす事にしました。
来年からね。
肝心の鳴らす鐘なのですが、やっぱりここは教会の鐘より、お寺の鐘でしょう。
子供の頃、夕暮れに鳴り響くあの
【ゴーーーーン……………ゴーーーーン…………】って音。
大晦日に遠くから響いてくる除夜の鐘。
郷愁を誘われますよね。
なので造りました、鐘楼堂。
家の敷地内では煩……音の響きが楽しめないので、ログハウスとレンガの家を建てた北西に造りました。
鐘は毎回3回鳴らす事になりました。
何故3回かって…シナトラとチャックとブルースが鳴らすからです。
シナトラがワクワクしながら、
「なんか面白そうだから、それ、僕がやる!」
と言うと、すかさずブルースが物申します。
「いや、ここは我が代表として民に月替わりの知らせを鳴らそう」
「え~、僕がやりたい~」
「我に任せよ」
と、二人が譲らなかったので、それなら一回ずつにすれば良いとなりました。
チャックは口には出さなかったですけど、ずっとソワソワしてたので、
「偶数より奇数の方がいいかも知れませんね、チャックにもお願いしていいですか?」
私が話を振ると、
「し、仕方ないな、オレもやってやるよ」
と、嬉しそうな表情をしながらそっぽを向きました。
素直じゃないんだから。
因みに他大陸では、ここより文化が発達しているとか(衣食住や娯楽など全般的に)。
きっと、アイン達が敢えてゆっくりと発達させているのでは無いのかと思うのですが……。
宴の準備である焚き火の薪や、宴の食糧、お酒の手配など、冬に比較的時間のある農業従事者の方々が、率先してやってくれています。
監修はチャックがやってくれるとの事なので、お任せです。
補佐として、白雪も一緒に行動しています。
……補佐と言っていますけど、後学のためと言いますか、
「白雪もお手伝いするの!」
との自立心の芽生えと言いますか。
チャックはそっけない態度をとりながらも、面倒見がいいので、一緒に居てもらっています。
宴の準備以外の農家の方々や、出稼ぎの方などには、糸紡ぎや染めの作業、染料作りや飾りボタン作りなどの軽作業をお願いしています。
後は、酒の木のお酒を使って、果実酒を作ってもらったり。
酒の木の酒って一応【果実酒】となっているけど、それはいわゆる【酒の木の木の実のお酒】で果実酒なのであり、私の知っている果実酒とは違うんですよね。
梅酒とかりんご酒とか杏酒とか、そう言った物とは違い、どちらかと言えば焼酎に近いんですよ。
なので、果物を漬けてみたり、すり潰して混ぜてみたりで、色々試してみたのです。
取り敢えず秋に手に入った、桃とリンゴと梨で果実酒を作りました。
春には梅酒や蜂蜜酒なども作るつもりです。
とても楽しみですね。
この果実酒はとても人気で、町の外への販売用にクラーク商会へも少しばかり卸していますけど、初めてのことなので、数が足りず、今のところ【幻のお酒】として、かなり高額になってる様です。
町の住民には、うちのサーベラス商会で、外への販売よりお値打ちに販売しています。
町民特権ですね。
勿論転売禁止で、もし転売したら、その方への販売を中止する事になっています。
まあ、私の選んだ住民の方がそんな事するはず無いですけどね。
因みにお酒作りの担当は、アインとコニーの二人です。
立候補してきた酒好きのブルースとシナトラは、丁重に却下しました。
作る端から飲み尽くしそうですから。
魔族のお二方なら酔わないし、アインがいればブルースも強要出来ないですしね。
何より食べ物を口にしないけど、お酒なら嗜むアインにも、少しでも美味しいを感じて欲しいと思いましたから。
そんなこんなで10月の最終日の宴も終わり、新年を迎える事になりました………。
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