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三章 町をつくる様です
190 西の森で リターン
しおりを挟む翌日の午後、渋るルシーを引き連れて、西の森へ移転しました。
王様トカゲのお二方は既に到着していて、今日こそはきちんと本題をと、水色の方が話し始めました。
掻い摘むと、この大陸の西の彼方に、王様トカゲが暮らす島があるそうです。
勿論他の動物や亜人の方々も暮らしているそうですけど、人族だけが居ない島。
人族以外の種族は、力の強さ、或いは魔力、知力など、強いものに従うのが常だとか。
人族だけは血統や、地位などの権力さえあれば、本人の能力が無くても上に立つ。
亜人に比べて身体能力は低いし、魔族に比べて魔力も少ない。
なのに何故か他種族より自分たちの方が優れていると思い込み、迫害する。
そんな人族について行けない亜人が、安寧の地を求めて集まった島だそうです。
そこに人族から素材として狙われて逃げて来た王様トカゲが集う様になって、亜人の方々と安全に暮らしている……そんな島からお二方は来たそうです。
目的は島の存在を知らない王様トカゲを、島に導くためだとか。
人族に狙われたからと言って、王様トカゲが本気で反抗すると、国の一つも滅ぼしかねない。
そうなってしまえば、王様トカゲ全体が命を狙われることになりかねないので、若い王様トカゲが各地を回り、一人で暮らしている王様トカゲを誘(いざな)っているそうです。
元々王様トカゲは雌…女性が少なく、長い人生(竜生)で子供(卵)を産むのは二、三回で、最多でも両手の指にあまるほどしか産まないので、個体数が少ないのだとか。
それなのに、素材として、または恐怖の対象として討伐されると、種が滅んでしまう恐れもあります。
それを防ぐ為にも、人族と距離を置こうと言うのが島に住んでいる王様トカゲの総意だそうです。
《空を飛んでいても、同族は匂いでわかるからな。
匂いを頼りに行ってみたのだが、人族は居るし、同族の姿も確認できない。
だからヨルゼル氏を頼ったのだ》
《まさか二人もいて、しかも二人とも亜人化しているとは思わなかったわ》
「亜人化はダメなのでしょうか」
お二方の反応が、あまり好ましく無いので尋ねてみました。
《亜人が嫌いなんじゃ無い、力も魔力も優れた王様トカゲの姿を捨てて、わざわざ人族の亜種になるのが嫌なんだ》
水色の方の言葉に、エイティンさんが頷きます。
《そうね、亜人の方々は、生まれた時から亜人だけど、王様トカゲの亜人は【亜人化】でしかあり得ないって聞いているわ。
この姿を捨てて人化するって意味がわからないわ》
お二方とも王様トカゲと言う種族に誇りを持ったいるのですね。
《しかし何故無性人でも無いソイツが亜人化させられるのだ?》
あー、そうですよね。
無性人以外にそんな事出来る人って居ないんですよね。
まあ、昨日のエイティンさんとの会話で、私が異世界から来たとバレているので、簡単に私のことを説明しました。
「へー、ジョニーって死んで生き返ってるから、色々皆んなと違うんだ」
あ、そう言えばルシーには言ってなかったですよね。
と言いますかルシーは昨日の話聞いていなかったのですね。
《無性人じゃ無いって知ってて疑問に思わなかったのか?》
「そんな人も居るのかなって思っただけかな。
だって魔素が混じっている取り巻き連れていたし、人族に詳しく無かったから」
あっけらかんと答えたルシーに、水色の方は、《能天気だなぁ》と、少し呆れた様子です。
「取り巻きはやめろ、家族だ家族」
ブルースは言い方がお気に召さなかった様です。
《異世界チートってやつね。
今度同郷のよしみで色々詳しく聞かせて》
エイティンさんは好奇心旺盛な様です。
《ああ、話が逸れるな。
とにかく、俺たちは王様トカゲがのびのびと暮らせる島に、新たな仲間を探して勧誘している途中なんだ。
人族と一緒に居てもあっという間に寿命になるだろ?
なら、名前を返して本来の姿で、同種の仲間と一緒に末長く暮らさないか?》
あー、寿命ですか、確か人族の寿命は80~90歳でしたっけ。
私は今現在300歳以上だったような。
妻を甦らせるまでにもう少し増えるでしょうから、結構長生きすると思いますけどね。
そんな事を考えて、話の本筋から気を逸らしていますけど、今回のお二方の訪問は、ブルースとルシーを連れて行くって事なんですね。
個人的には嫌ですけど、本人がそれを望むのなら、名前を返してもらって、笑顔で見送らなければならないんですよね…………え、嫌だ。
「王様トカゲと亜人の島…ねえ」
《俺たちは楽園と呼んでいる。
今居る同種は、人族との諍いを嫌って関係を断つことを望んだモノばかりだからな》
「我は遠慮しておこう」
話に被せる様にブルースが断ると、水色の方は(多分)驚いた顔をしました。
《何故だ⁈》
どこか攻める様な声色に、ブルースは飄々と答えます。
「我は人族が嫌いでは無い」
《何故だ⁉︎
身勝手で弱いのに図に乗って、あまつさえ俺たちを武器や防具の素材として襲って来る奴らだぞ》
水色の方からゆらりと魔素が溢れ出します。
人族に狙われた事が有るのかも知れませんね。
「別に身勝手なのも弱いのも、人族だからと言うわけではなかろう。
我らの同種にも身勝手なものはおるし、強いと言うなら力だけでなく、心が強いと言う奴もおる。
全ては【個】の問題だと思うが、違うか?」
ブルースの言葉に、水色の方は口を閉じました。
代わりにエイティンさんが続けます。
《確かに個人の資質だと思うわ。
それでも、大多数の人は弱く、安易に流されて、長いものには巻かれるし、自分の都合の良い様に解釈するし、外見で判断するし、自分と違うものは否定するくせに、意見は押し付けようとするし》
「あ、あの、エイティンさん、落ち着いてください」
余程ストレスが溜まっていたのか、エイティンさんが眉間に皺を寄せて毒を吐いています。
《はっ………とにかく、元人の私だけど、人は嫌いだわ。
人族の居ない島は、私にとって天国よ》
前世の傷が癒えていないのでしょうね。
自分にとって住みやすい場所、そこに誘いたいと言う気持ちはわかります。
私にとってのリーガルリリーなのでしょうね。
「それに我は真名を貰っておるからな」
《はっ⁈この人族、王様トカゲを真名で縛ってるのか?》
あ、そう言えばそうでしたね。
「我だけでは無い、家族皆真名持ちだ」
はははと笑いながらブルースが言うと、水色の方から凄い威圧感が…。
《すぐさま真名を解除して縛っている者を解放しろ!!》
念話で怒鳴られると頭の中が痺れますね。
ちょっとクラクラします。
「それは困る、我らはコイツが好ましくて家族でいるのだからな。
他人が口出しすることではあるまい」
いや、ブルースさん、なら態々煽る様な発言をしなければ良かったのでは?
「我はコイツを気に入っていて、コイツの作る町を気に入っていて、家族皆気に入っておる。
だから離れる気は無いよ」
《ならコイツを殺せば気が変わるって事か?》
「その前にお前を滅するがな」
《……………………………》
「……………………………………………」
一発触発?
水色の方の体からは水蒸気が上がってるし、ブルースは風が渦巻いて取り囲んでいるよ、どうしましょう……。
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