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三章 町をつくる様です
186 相変わらずと変化の冬
しおりを挟む冬になっても相変わらずの毎日を過ごしています。
ブルースとシナトラは狩りに出かけたり、町中で住民と交流したりしています。
デイビッドは養鶏所へ、白雪は子供達の面倒を見てくれているお年寄りのお宅へ。
アインとコニーは町の雑事をやってくれています(本来なら私の仕事なのでしょうけどね)。
アインに関しては、他にも色々やっている様ですけど、そこは気づかなかった事にしないと、やぶ蛇になりそうですので…。
違う事をしているのは、チャックですかね。
クラーラル商会の建物の一室で、カシウさんが町の住民の方に文字や計算を教えてくれているのです。
あそこの三兄弟は、長男のアルモンドさんが運営全般、次男のスターチオさんが接客、三男のカシウさんが仕入れと、それぞれ担当しているそうです。
仕入れ担当のカシウさんは、転送バッグ(マジックバッグでは無かった)で本店から希望の品を転送させるだけなので、時間が余るそうなのです。
固有のスキルで、カシウさん以外は使えないそうなのですけど、とても便利だとお伺いしました。
時間が余ると言って、表情の乏しいカシウさんが接客の手伝いを申し出ても、スターチオさんに断られるそうです(接客は地元の方を雇う方がメリットもあるそうです)。
アルモンドさんの手伝い…と言っても、アルモンドさんが優秀な為、手伝う仕事が無いそうなのです。
だからと言ってぼーっとしている訳にもいかず、考えついたのが【一般の方に、基本的な文字の読み書きや算術を教える】事なのだとか。
商人か役人で無い限り、読み書きできないのが当たり前な世界ですけど、読み書きや計算が出来るなら、色んな可能性も広がりますし、知らないより知っている方が良いですからね。
うちのチャックとシナトラとデイビッドは、多少の読み書きは出来るけど、得意では無いのです。
デイビッドは亜人化してから暇がなかったし、チャックとシナトラは、私と一緒に少し習ったのですけど、色々有っていつの間にか中断したままです。
今回三人に声をかけたのですけど、デイビッドは仕事と家族サービスと、冒険者活動で時間が取れず、シナトラは………うん、まぁ、嫌いなものを強制しなくても良いかな、と。
チャックは自分から「先のことを考えると覚えておくのが良いと思うから」と、率先して通う様になりました。
私ですか?
色々な書類仕事をしている時に、ティちゃんに教えてもらいました。
……正確に言うのなら、ティちゃんの知識を複写と言うズルを……。
でも、ティちゃんは私の一部ですから、セーフですよね?
仲間の変化も有りましたよ。
ヨーコーの【ごはん屋】が、行列が出来すぎて、町の東と西に、2号店、3号店を開店する事になりました。
弟子を取り、キッチリ教え込んでから、チェーン展開します。
全てのメニューは無理なので、西は和食系、東は洋食系で、メニュー数も抑えるうです。
そのうち中華系、ファーストフード系の店なども出来ると面白いですよね。
そして、唯一の女性の仲間、ルシーにも変化が訪れた様です…。
それは9月下旬の事でした。
ヨルゼル氏から珍しく直接念話が届いたのです。
《ジョニー、今忙しいですか?》
《アイン?どうかしたのですか?》
《ああすみません、声が同じですから紛らわしいですよね。
私はヨルゼルです》
《あ、お久しぶりです、ご無沙汰してすみません》
《いえいえ、お元気そうで何よりです。
アインから色々伺っていますよ、充実した日々を送っている様ですね》
などと和やかに会話が進み、町の話や住民の話、アインの事など色々話した後、今回の念話の用件を告げられました。
《今こちらに王様トカゲのお客様がお見えでして、是非とも王様トカゲの方とお話をしたいと仰っているのですけど、ブルースさんとルシーさん?でしたかね、お二人と一緒にこちらに来る事はできないでしょうか?》
《王様トカゲの方が二人に会いたいと?
何かあったのですか?》
聞いてみたのですけど、直接話したいとの事で、なるべく早いうちに西へ行くか、会うのは無理か返事が欲しいとの事でした。
私は今日中にでも返事はしますと、一旦念話を切ったのですけど、ブルースとルシーになんの用なのでしょう?
考えても埒があかないので、取り敢えず返事をする為にも、ブルースとルシーの元へ向かいました。
「よかった、今日は出掛けなかったのですね」
居ないかもと思いつつ、ブルースの部屋へ赴くと、昼過ぎだと言うのに珍しくそこに居ました。
「いや、早朝に出かけていたぞ。
岩ネズミを大量に捕まえて来てな、アレの心臓は酒に漬け込むと珍味になるのだが、小さいし硬いから解体が面倒でな、ギルドに押し付けて来た」
どうやら解体処理待ち…今夜の酒の肴待ちの様ですね。
「何か用か?」
「実は今しがた………」
私はヨルゼル氏の念話の件を話しました。
「我は別に構わぬぞ。
その西に来たと言う王様トカゲも知り合いかも知れぬし、直接会ってからと言うのなら、出向いて行こうではないか」
どうやら冬の間は、獲物の数も少ないし、肉付きも良く無いので、熱心に狩に行く気にはならないみたいです。
住民との交流(冒険者が腕試しを挑んできたり、酒場で盛り上がったり、喧嘩の仲裁を買って出たり)も楽しそうにやっていますけど、珍しい来客に興味が湧いたのでしょう。
「ではルシーにも聞いて来ますね……って、彼女はどこに居るのでしょう?」
家族なら、真名を付けた繋がりが有るので、どの辺りに居るのか分かるのですけど……。
あ、そう言えばティちゃんの地図が進化して、対象人物の場所が地図に出る様になったのでした!
普段使わないからすっかり忘れていましたね。
えーと、ルシーは…………。
「ルシーならヨーコーの店に居るのではないか?」
ブルースが言うには、ルシーはごはん屋に居る様です。
「ブルースはご存知だったのですか?」
「いや、この時間ならオヤツを食いに行ってるだろ」
「彼女は毎日ごはん屋でオヤツを食べるのですか?」
「………知らなかったのか?
ごはん屋が出来てからずっとだぞ」
「…………………………………」
「……もう少し興味を持っても良いと思うぞ、仮とは言え名付けたのだからな」
「………ごもっともです」
すみません、妻以外の女性にあまり興味を持てないんですよ。
でも、もう少し気にしても良かったですよね……。
反省しつつ、ごはん屋へ向かいます。
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