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第二章 旅は道連れ
122 強くて丈夫なブルースさん
しおりを挟む「こちらへは依頼か何かでいらっしゃったのですか?」
アインが尋ねます。
この東の山はレミトンから随分離れていますからね。
「いや、レミトンからこっちに移って来たんだ。
どうも周りの目が…な」
これは……コメントのしようが無いですね。
「今はギルドの紹介で、この町のギルドで初心者の指南なんかをしながらボチボチやってんだ」
「しなんって何?」
シナトラが尋ねると、ラルーセンさんは顎を掻きながら説明してくれました。
「あー、この町は魔族が多いだろ?
だから必然的に魔法で戦う奴が殆どなんだ。
だからな、町を出て冒険者やる時にゃ、武器を持った奴とパーティ組む事もあるだろ?
だから武器を持つ奴と組んだ時の戦い方とかだな」
「やっぱり魔族の方ですと、武器より魔法で戦うのが主なのですか?」
別に声をひそめる事はないのですけど、小声でアインに尋ねます。
「そうですね、武器を使わないと言う事は無いですけど、やはり魔力が豊富ですから、魔法に偏りがちですね。
ましてや冒険者を始めたばかりの若者ですと、魔法が使えるのに、わざわざ武器を手にする事はない、と思い込んでいる方もいらっしゃるでしょうから。
周りを巻き込まない様に、実践を積むのを目的としているのではないのでしょうか」
成る程、強力な魔法が使えるのなら、わざわざ獲物に近付かなくても、遠距離から一撃!なんて事もできますからね。
ふむふむと頷いていると、会話が聞こえたのか、ラルーセンさんが補足をしてくれました。
「確かに魔法は凄い。
遠くから倒せるし、威力によっては一気に全滅させる事もできる。
だがな、魔法が効かない相手もいないとは言えないし、場所によって魔法を使うと危険な場合もある。
洞窟の奥で火の魔法を使うと息ができなくなるし、高熱の火に向かって水の魔法を使うと爆発するだろ?
だから必ずしも万能とは言えないんだよな」
そうですね、二酸化炭素中毒は危ないですし、火に水も危ないです。
頷く私の側でシナトラが、
「へー、爆発するの?見てみたい」
などと言って、チャックから叩(はた)かれています。
「それに魔力が豊富だと言っても、使っていればそのうち魔力切れを起こしますからね」
アインの言葉に大きく頷き、ラルーセンさんはシナトラに向かって言葉を続けます。
「お前は剣を使う様だけど、亜人なら魔法も使えるだろう。
周りの大人達に人を巻き込まない魔法の使い方をちゃんと教えてもらえよ」
「巻き込むとどうなるの?」
「他人を巻き込んだら捕まるし、最悪処刑される事もあるぞ」
「処刑!!」
シナトラが目を見開き、私の方を振り返ります。
「巻き込んだ相手による事もあるでしょうし、その人数、または巻き込まれた方の所属している国によっては、無いとは言えませんね」
私の代わりに答えてくれたアインを見ながら、
「僕魔法使わない!」
顔色を悪くしたシナトラが叫びました。
「魔法だけじゃ無いぞ、剣であろうと、他者を傷付けると処罰されるからな」
ブルースの追撃に、シナトラは腰の剣を取り外し、ポイっと投げ捨てました。
それを拾い上げながら、ブルースが続けます。
「魔法にせよ剣にせよ使い方次第だ。
どちらも他者の命を奪うし、己の命も危うくする。
だからこそ使い方を学び、鍛錬し、日々の精進が大切なのだ。
お前は狩りの実戦ばかりでそのあたりを学んでおらなかったな。
我もお前が使えるから疎かにしてしまった。
これは丁度いい機会だから、お前も此奴に指南してもらえ」
おお、ブルースがとても【大人】な発言をしています。
でも確かに、人になって早々に剣を手にし、狩りで経験を積んでいますけど、パーティとして連携し戦った事はほとんど有りませんね。
私自身もそうですけど、戦う手段の異なる相手との連携など、実際に体験してみないと、机上の空論ですよね。
「剣が我に当たっても問題無いが、他の奴だと腕がもげてしまう事も有るからな」
!!腕がもげるような事があったんですか!
「ああ、ブルースなら頑丈ですから、剣で斬ったくらいでは傷もつきませんけど、他の相手だと………」
そこで言葉を切らないで下さいアインさん!
「……あんたら大丈夫なのか?
一度パーティとしての基本から学んだ方がいいんじゃないか?」
会話を聞いていたラルーセンさんも、顔色が悪くなっています。
「そうですね、ディビッドへ弓を教える方もいらっしゃれば良いんですけど」
「大概の武器は引退した冒険者が講師としてギルドと契約しているから、問い合わせれば良いと思うぞ。
つうか、そういった事って、最初にギルド登録した時になんとかするんじゃ無いのか?」
「ごもっともな質問です。
彼は最近」
「とある事情で戦い方を変える事にした様なのです。
故郷を離れる事になり、私達に同行していますけど、ギルドへはまだ登録していないのですよ」
私の言葉にアインが被せて来ました。
……あ、『彼は最近亜人化したばかりなんですよ』と言いそうになっていましたね。
名付けで亜人化させる事が出来るのは、おおっぴらに言う事では有りませんでした。
最近名付けてばかりでしたから、うっかりしていました。
「そうか。
まあ、事情はそれぞれだからな。
ギルドは冒険者が、少しでも長く安全に活動を続けられるように色々やってるからな。
講習を受けるにせよ、武器の使い方を習うにせよ、問い合わせてみるのが一番だと思うぞ。
かくゆう俺も相談してここに移って来たんだ」
ほう、冒険者ギルドは福利厚生がしっかりとしているんですね。
商品の売買ばかりで、あまり…殆ど冒険者としての活動をしていませんから、冒険者ギルドへも足を運んでいないんですよね。
「では明日にでもギルドに顔を出してみますか?」
アインの提案に頷きます。
「ひとまず城へ向かいましょう」
このまま行くには時間が時間ですので、城へ行く事にしました。
「じゃあまた今度飲もうな」
手をあげてラルーセンさんは去っていきました。
私達は城へ向かいました。
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