122 / 206
第二章 旅は道連れ
122 強くて丈夫なブルースさん
しおりを挟む「こちらへは依頼か何かでいらっしゃったのですか?」
アインが尋ねます。
この東の山はレミトンから随分離れていますからね。
「いや、レミトンからこっちに移って来たんだ。
どうも周りの目が…な」
これは……コメントのしようが無いですね。
「今はギルドの紹介で、この町のギルドで初心者の指南なんかをしながらボチボチやってんだ」
「しなんって何?」
シナトラが尋ねると、ラルーセンさんは顎を掻きながら説明してくれました。
「あー、この町は魔族が多いだろ?
だから必然的に魔法で戦う奴が殆どなんだ。
だからな、町を出て冒険者やる時にゃ、武器を持った奴とパーティ組む事もあるだろ?
だから武器を持つ奴と組んだ時の戦い方とかだな」
「やっぱり魔族の方ですと、武器より魔法で戦うのが主なのですか?」
別に声をひそめる事はないのですけど、小声でアインに尋ねます。
「そうですね、武器を使わないと言う事は無いですけど、やはり魔力が豊富ですから、魔法に偏りがちですね。
ましてや冒険者を始めたばかりの若者ですと、魔法が使えるのに、わざわざ武器を手にする事はない、と思い込んでいる方もいらっしゃるでしょうから。
周りを巻き込まない様に、実践を積むのを目的としているのではないのでしょうか」
成る程、強力な魔法が使えるのなら、わざわざ獲物に近付かなくても、遠距離から一撃!なんて事もできますからね。
ふむふむと頷いていると、会話が聞こえたのか、ラルーセンさんが補足をしてくれました。
「確かに魔法は凄い。
遠くから倒せるし、威力によっては一気に全滅させる事もできる。
だがな、魔法が効かない相手もいないとは言えないし、場所によって魔法を使うと危険な場合もある。
洞窟の奥で火の魔法を使うと息ができなくなるし、高熱の火に向かって水の魔法を使うと爆発するだろ?
だから必ずしも万能とは言えないんだよな」
そうですね、二酸化炭素中毒は危ないですし、火に水も危ないです。
頷く私の側でシナトラが、
「へー、爆発するの?見てみたい」
などと言って、チャックから叩(はた)かれています。
「それに魔力が豊富だと言っても、使っていればそのうち魔力切れを起こしますからね」
アインの言葉に大きく頷き、ラルーセンさんはシナトラに向かって言葉を続けます。
「お前は剣を使う様だけど、亜人なら魔法も使えるだろう。
周りの大人達に人を巻き込まない魔法の使い方をちゃんと教えてもらえよ」
「巻き込むとどうなるの?」
「他人を巻き込んだら捕まるし、最悪処刑される事もあるぞ」
「処刑!!」
シナトラが目を見開き、私の方を振り返ります。
「巻き込んだ相手による事もあるでしょうし、その人数、または巻き込まれた方の所属している国によっては、無いとは言えませんね」
私の代わりに答えてくれたアインを見ながら、
「僕魔法使わない!」
顔色を悪くしたシナトラが叫びました。
「魔法だけじゃ無いぞ、剣であろうと、他者を傷付けると処罰されるからな」
ブルースの追撃に、シナトラは腰の剣を取り外し、ポイっと投げ捨てました。
それを拾い上げながら、ブルースが続けます。
「魔法にせよ剣にせよ使い方次第だ。
どちらも他者の命を奪うし、己の命も危うくする。
だからこそ使い方を学び、鍛錬し、日々の精進が大切なのだ。
お前は狩りの実戦ばかりでそのあたりを学んでおらなかったな。
我もお前が使えるから疎かにしてしまった。
これは丁度いい機会だから、お前も此奴に指南してもらえ」
おお、ブルースがとても【大人】な発言をしています。
でも確かに、人になって早々に剣を手にし、狩りで経験を積んでいますけど、パーティとして連携し戦った事はほとんど有りませんね。
私自身もそうですけど、戦う手段の異なる相手との連携など、実際に体験してみないと、机上の空論ですよね。
「剣が我に当たっても問題無いが、他の奴だと腕がもげてしまう事も有るからな」
!!腕がもげるような事があったんですか!
「ああ、ブルースなら頑丈ですから、剣で斬ったくらいでは傷もつきませんけど、他の相手だと………」
そこで言葉を切らないで下さいアインさん!
「……あんたら大丈夫なのか?
一度パーティとしての基本から学んだ方がいいんじゃないか?」
会話を聞いていたラルーセンさんも、顔色が悪くなっています。
「そうですね、ディビッドへ弓を教える方もいらっしゃれば良いんですけど」
「大概の武器は引退した冒険者が講師としてギルドと契約しているから、問い合わせれば良いと思うぞ。
つうか、そういった事って、最初にギルド登録した時になんとかするんじゃ無いのか?」
「ごもっともな質問です。
彼は最近」
「とある事情で戦い方を変える事にした様なのです。
故郷を離れる事になり、私達に同行していますけど、ギルドへはまだ登録していないのですよ」
私の言葉にアインが被せて来ました。
……あ、『彼は最近亜人化したばかりなんですよ』と言いそうになっていましたね。
名付けで亜人化させる事が出来るのは、おおっぴらに言う事では有りませんでした。
最近名付けてばかりでしたから、うっかりしていました。
「そうか。
まあ、事情はそれぞれだからな。
ギルドは冒険者が、少しでも長く安全に活動を続けられるように色々やってるからな。
講習を受けるにせよ、武器の使い方を習うにせよ、問い合わせてみるのが一番だと思うぞ。
かくゆう俺も相談してここに移って来たんだ」
ほう、冒険者ギルドは福利厚生がしっかりとしているんですね。
商品の売買ばかりで、あまり…殆ど冒険者としての活動をしていませんから、冒険者ギルドへも足を運んでいないんですよね。
「では明日にでもギルドに顔を出してみますか?」
アインの提案に頷きます。
「ひとまず城へ向かいましょう」
このまま行くには時間が時間ですので、城へ行く事にしました。
「じゃあまた今度飲もうな」
手をあげてラルーセンさんは去っていきました。
私達は城へ向かいました。
10
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~
雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。
新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。
助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。
彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。
『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。
女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。
この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。
だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。
ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。
噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。
その資金源も目的もわからない。
不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。
その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。
だが、ジルドランは人間。娘は魔族。
血が繋がっていないことは明白。
いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる