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第二章 旅は道連れ

98 ポチさんとお話し

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取り敢えずのところ、チキンの照り焼きとサバ味噌、お稲荷さん、巾着納豆改め、巾着豆を特産品にするそうです。
でもお出汁が出来上がればもっと増えると思いますけどね。

食事の後、勧められて風呂を借りました。
この世界に来て初のお風呂です。
温泉旅行とかには、妻とよく行っていましたけど、正直なところ湯船に浸かるのはあまり好きではないのです。
家でもシャワーで済ますことが多かったですし、浸かってもすぐ上がるカラスの行水でした。

子供の頃父親とお風呂に入っていたのですけど、父親が熱いお風呂が好きで、何度のぼせかけた事やら。
百まで数えるのが苦痛で仕方なかったです。
それがトラウマになっているのでしょうか、一人で入る様になってからは湯船に浸からない事が殆どでした。

今回もざっと全身を洗って、折角ですから浸かりましたけど、さっさと上がります。
脱衣所には浴衣が置いてありましたので、ありがたく借りました。

浴衣を着て居間(応接室なのでしょうけど、どう見ても居間です)へ行くと、ポチさんに
「もっとゆっくりしてくればよかったのに」
と言われ、コップに入った牛乳?を渡されました。
「本当はビン入りのコーヒー牛乳か、フルーツ牛乳がいいんだけどね」
それは否定しません。

「どうよ、久々のお風呂は?
異世界あるあるで風呂がないから、転生者の使命として作ったよ、お風呂」
「そうなのですか、お疲れ様です」
私には分かりませんが、異世界に転生や転移をしたなら、やらなければならない事がある様ですね。

「そう言えばジョニーさん達って、皆体臭薄いけど、もしかしてお風呂入ってたとか?」
「いえ、私以外がクリーンの魔法を使えますので、それをかけてもらって身綺麗にしていますよ」
これは隠す事でもないので正直に話すと、
「クリーンか…それもありがちだけど、やっぱりお風呂だよね、日本人なら」
「……ソウデスネー」
私の年代で風呂が好きでは無いと言うのは珍しいですけど、ポチさんはどんだけ風呂好きなんでしょうね。



「折角だからもっと話したいんだけど、いいかな」
私と違って昔(前世)の事は秘密にしているポチさんからすれば、気兼ねなく話せる相手は貴重なのでしょう。
信用するしないは置いておいて、話には付き合う事にしました。

私は家族に秘密は無いですから、自由に以前のことも、能力のこともオープンにしていますけど、彼は家族の前でも気を使いながら話をしているそうですので、少しばかり同情します。

ポチさんの部屋へ行き、畳の上に行儀悪くゴロンと俯けで横になり、折った座布団を胸の下に置き、楽な姿勢で話をしました。

「しかしご家族の方にも秘密にしているのでしたら、どうして加工品が作れるのかと、疑問に思われなかったのですか?」
加工品がだけで無く、農作業の効率化や、肥料などのこの世界には無い知識を、前世を隠したままなんて。
誰にも何も言われなかったのでしょうか。

「それは簡単。
『夢の中に神様が出て来て、この世界のために食の文化を広げなさいって、色んな事を教えてくれたの』って最初に言ったよ。
まあ、信じてもらえなかったけどね」

確かに子供がいきなり『神様からお告げがありました』なんて言っても誰も信じないでしょうね。

「まあ、さっきも言ったけど、実際に色々やって、家族に試してもらって、そのうちに【お告げ】を信じてもらえる様になったけどね」
「信じてもらえるまで一人で頑張ったのですね」
しみじみと言ってしまった私の言葉に、まぁね、と彼は軽く答えます。

「ぶっちゃけ、全部ぶちまけようかと思ったけど、それって色々破滅フラグに繋がりそうだし。

貴族とか国とかに色々利用されるのは、異世界モノのセオリーじゃん?
でも実際は農業以外は役立たずってバレたら、それこそ使い捨てよろしくポイ捨てされそうじゃん?

だからヒ・ミ・ツ。
何かあった時、自分だけじゃ無くて家族や周り巻き込むのは嫌じゃん?
だから黙ってんだ」

言葉遣いはさておき、セオリー云々も一先ず置いといて、彼はキチンと考えることが出来る方の様ですね。

今時のワカゾーの、ヘラヘラと笑って『失敗は全部他人のせい、成功は自分の手柄、自分は何も間違っていない』と言う考えを、いくら言い聞かせても直そうともしなかった新人達とは違いますね。

いや、本当に毎年毎年大変だったんですよ、新人研修。
何度殺意が湧いたことやら……あ、話がずれていますね。

「でもさ、この世界って、俺の知ってるファンタジー世界と全然違うんだよね」
「そうなのですか?」
「うん、コレでも小説読む派だったから、異世界モノは沢山読んだよ。
で、だ、異世界モノと言ったら【中世ヨーロッパ】なんだよ、8割がた」
「【中世ヨーロッパ】ですか?」

そんなこと言われても、見たことないから分かりませんね。
イメージですと、映画とかで見た19世紀のロンドン?
レンガの建物、ガス灯、馬車、蒸気機関車、ペストのマスク、沈む大型客船に切り裂きジャック。
………何か違いますね。

「何で鉄が有ってガラスが無いの?
記憶が蘇ったのが冬で、窓に藁を詰めて塞いでるのを見た時、思わず【アルムの山小屋かよ】って突っ込んじゃったよ」
ああ、それは私も分かります。
妻と一緒に見てましたから。
山のお友達の家に初めて行った時の、主人公の涙に釣られ泣きそうになりましたね。

「それに何、あの雑な動物の分け方!
ワイバーンが飛びトカゲってのはまだ我慢できる。
でも何でドラゴンが王様トカゲなんだよ!
ドラゴンはドラゴンだろ?
いくら王様って付いても、トカゲって言われると、ガクーーーって最強さがガタ落ちじゃん」
まあ、それも同意できますね。

「虎がモリオオネコだっけ?
ならライオンは襟巻きネコかよ」
あー、それっぽいですよね。

「虫も似たような感じですよ。
カブトムシはオオツノですし、クワガタはフタツオオツノでした」
「は?ならアトラスカブトムシとかどうすんの?」
「きっとミツオオツノとかでしょうね。
因みにゴキブリは初めクワガタだと思われていました」

何それイミフなんだけど、と頭を抱えるポチさん。
本当にこの世界の生き物はよく分かりませんよね。

「でもまあ、よくよく考えたら、動物とか昆虫とかって、詳しく調べる学者とか居ないと、全て未知なる生き物かもしれないよね。

DNAとか詳しく調べる事もできないんだし、知っている動物の新種とか思っても仕方ないのか?」
「確かにそうですね。
詳しく調べる方が居ないとわからないですよね。
私だってカパピラ?カピパラ?とモルモットが同じ生き物だって言われても信じられなかったですから」
「カピバラね。
そう言う調べる人…学者とかが居ないんだよね、この世界って。
でもそのうち興味を持って調べる奴か、また俺達の世界から神様が連れてくるかもね」

あり得ますよね。
でも、今の見たままの呼び名も覚えやすくていいのでは、と思う気持ちもありますけどね。





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