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第二章 旅は道連れ

97 いつの間にやら社長?

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お稲荷さんはポチさんが北海道出身と伺ったので、酢飯の俵型と、自分が馴染みの三角の五目飯の2種類を作りました。

「これ酸っぱいけど美味しい」
「お腹が膨れるよね。
オレはこっちのとんがった方が好きかな」
チャックとシナトラが、フォークに刺したお稲荷さんを食べながら話しています。
三角形と言う言葉はないのでしょうか?
確かにとんがった形と言えますけど……。

「これは両方ともオイナリサンさんなのですか?
形と中身が違いますけど」
齧った断面を見比べながらアインが尋ねて来ます。

「妻から聞いた話なのですけど、東と西……えー…場所によって形と中身が変わるそうです。

私の住んでいた国の神様で、五穀…米や麦などの穀物を司る神様の神使……お使いの狐を稲荷と呼ぶそうです。
その神様とお使いの稲荷にお供えとしてよく使われていたそうで、この料理をお稲荷さんと呼ぶ様になったとか?

形は穀物の神様だから、米俵……わからないですよね。
私の住んでいた国でお米を入れていた袋?入れ物?を俵と言うのですけど、その形を模したものです。
三角形…とがった形はお使いの狐のミミを模していると聞きました」

これが正確なのかはわかりませんが、私は妻からそう聞きました。
ていうか説明が難しい!
通じない言葉が多すぎる!

「キツネ…?
それはジョニーの居た国の独特の動物なのですか?」

ああ、そこから通じないのか!
ていうか、絶対この世界にも狐は居る!
呼び名が【なんとか犬】になっているだろうけど、絶対に居る!
筈!

鷲掴んだフォークを使いにくそうにしながら、ルシーが尋ねて来ます。
「じゃあこの四角いのもオイナリサンなの?」
おーい!三角は無くても四角は有るんかい!!

いやいや、落ち着け俺、深呼吸だ、深呼吸。

「豆が入っておるな。
これはこれで美味い」
「ちょっと変わってるし、これも食べただけでは真似できない味だわ。
これも特産品にしたいわね」
ブルースとランさんにも。
そうですよね、この風味は普通に煮た豆を入れただけでは出ませんからね。

「お気に召していただいて何よりです。
チーズを入れても美味しいんですよ、巾着納豆」
「え⁈」

ネタバラシをしたらランさんが固まってしまいました。

大豆で作った油揚げに、大豆で作った納豆と薬味を入れて、大豆油でこんがり焼いて、大豆醤油をくるり。
大豆尽くしの一品です。

「あんな悪魔の食べ物が……美味しい…ですって………」
何やらショックが激しい様ですね。

「ナットってそんなに美味しくないの?」
興味を持ったシナトラの前に、青い扉のチルド箱から出した納豆をそっと置いてみます。

「「「くさっっっ!!!!」」」

興味津々に覗き込んでいたブルース達が飛び退きました。

「父ちゃん、これ腐ってるよ!」
「確かに腐っていますね。
糸を引いています」
鼻を押さえ、恐る恐るフォークで納豆の粒を持ち上げたアインの眉間には皺が寄っています。

「腐っていると言いますか、発酵させた食品ですよ。
目に見えない微生物…小さな小さな生き物が働いて、体に良い物に作り替えてくれる?そんな感じです。

味噌や醤油を作る原料も発酵させた麹を使いますし、皆さんの好きなチーズも発酵食品ですよ」

チーズだって慣れないとあの香りは臭く感じると思います。
納豆だって、慣れれば美味しそうな匂いと感じられると思うのですけど……。
まあ、無理には薦めません。

「…………これはナットーじゃない…これはナットーじゃない…これはナットーじゃ……………………。
よし、このキンチャクマメも特産品にしましょう」

何やらブツブツと自分に言い聞かせていたランさんですが、納豆から目を逸らせ、豆と言う事で折り合いをつけたと言うか、自分を誤魔化したと言うか。
まあ、口は挟みません。

そういえば、先程からポチさんは一言も発せず、黙々と食べて来ますね。

「お口に合いましたか?」
「味噌汁は?」
「お出汁が用意できませんでしたので、今日はないです」
「麻婆豆腐」
「色々調味料が足りません」
「イカ飯」
「イカが有れば作れますね」
「松前漬け」
「それも材料次第です」
「ゴッコ汁」
「何ですかそれは?」

単語と言いますか、食べたい物しか出て来ませんね。

「豆腐ハンバーグとかも作れましたかね。
後はメインではないですけど、焼き豆腐を入れてすき焼きとか…」
「すき焼き!!!」
「料理名は分かりませんけど、豆腐と山芋をフライパンで焼いて出汁醤油を回し掛けて刻み海苔をパラパラと……」
「食べたい!!!!!」

「お出汁さえあれば味噌汁だけではなく、肉じゃがなどの煮物もできますよね。
今日作った物も、旨さが増すと思います。
がんもどきも色々な組み合わせで煮物にできますし、まずはお出汁ですね。
3、4日後にはできますよ、お出汁」
「ああああああああ~~~~~」
ポチさんが物凄く気落ちしています。
言っていて自分も食べたくなりました。

お出汁が出来上がるのが楽しみですね。
しかしこれはお出汁が出来上がるまでここに滞在するという事ですよね。
明日にはアインに商業ギルドへ行ってもらうとして……ん?

「ねえアイン、明日の商業ギルドって、私は行かなくて良いのですか?」
私の考案……ではないですね、伝えたレシピの登録ですけど、本人がいなくて大丈夫なのでしょうか。
疑問に思って尋ねると、アインがニッコリ微笑んで爆弾発言をかましやがりました。

「ええ、私はジョニーの【サーベラス商会】の従業員として登録していますから、代理人として契約ができるのですよ」

「は⁉︎⁉︎」

「勿論登録後の利益はジョニーに全て行きますのでご安心下さい」

いや、そこじゃねえ!
俺の商会?アインが従業員?
何も聞いてないぞ、そんな話!
なんだよ、その『イタズラが成功しました』みたいな笑顔は!

「一番最初に商業ギルドで登録する時に、ジョニーはこれからも色々情報を登録する事になるでしょうし、いずれそれを商いにする事もあるかも知れません。
ですから最初から商会として登録しておけば手間が省けますでしょう?

商会名はパーティ名と同じでも良いかと思いましたけど、【ブラック】と付くのは如何なものかと思いまして、【サーベラス】にしました」

「何も聞いてないんだけど?」
と言った俺に、アインはしれっと、
「カードを見れば記載されています」
と返して来た。

ポーチからギルドカードを出してみて、よくよく見てみると、確かに裏に書いてあったよ、【サーベラス商会 代表】ってね。

「あ、僕のカードにも書いてるよ、サーベラス商会従業員って」
「オレのも」
「皆気付いておらんかったのか?
我は知ってたぞ」

え?俺、知らない間に商会の代表……社長になってたの?
パーティーリーダーで、社長……………マジかよ…。

俺……私はガクリと膝をついてしまいました。






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