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第二章 旅は道連れ
88 世間知らずな娘さん
しおりを挟む光が収まると、そこに居たのはボッキュッボンの美女でした。
キラキラ輝く髪は薄く輝く透き通る水色、瞳は空の色で、私より少し背の高い、派手な感じの美女です。
薄くて白いワンピースの様なものを身に纏っています。
素っ裸でなくて良かった。
「これが私の人としての姿?
……これ邪魔なんだけど」
言いながら両手で自分の胸を鷲掴む美女。
「なんか重いし、下が見えないし、これいらない」
多分………これはかなりの数の女性を敵に回す言葉ですよね。
「それなら布を巻いて潰すことをお勧めしますよ。
その姿になる前もとてもスタイルがよろしかったですから、人の姿になってもそれなりの形になったのだと思います」
王様トカゲにもスタイルの良し悪しが有るんですね。
などと思っていた私の肩を、後ろから歩いて来たアインが、ポンっと叩きます。
恐る恐るそちらを見ると『後で詳しく説明していただきますからね』と笑っていない目で見られました。
怖い。
「この出っ張りがスタイルの良い証か何かなの?」
「そうですね、一般的ではありますが、胸の大きな女性は異性にモテますから」
「この肉の塊が?」
「男性には無いものですし、同じ女性からも羨望されるでしょうね」
「ふーーーーん」
鷲掴んだ胸をモミモミしながら喋るのはやめてほしいです。
目のやり場に困りますから。
「但し、嫉妬されることもあるでしょうから、胸については人前で口にしない方が良いと思いますよ」
うんうんと頷く私とブルース。
女性の嫉妬は怖いですからね。
「感触はふにふにしてて面白いけど、邪魔は邪魔だから布で潰すのが良いわね」
やっと胸から手を離してくれました。
しかしですね、散々ムニムニコネコネクリクリしていたので、こう…物理的反応と言いますか、薄手のワンピースに二つ…………ゴホン。
アインもブルースも気にしていませんけど、シナトラがガン見です。
勿論チャックからシバかれてますけどね。
疲れました……あれから一悶着あったんですよ。
アインが手渡した布で胸を潰そうと、ワンピースを脱いでスッポンポンになるわ、腰まである髪を「邪魔」と毟ろうとするわ、着替えにとアインが自分の予備の服を渡したのに、これも「邪魔だから着ない」とごねるし…………。
兎にも角にも、スッポンポンの美女が大暴れなんですよ。
確かに王様トカゲは服を着ませんよ?髪の毛も無いですよ?
でも人の形を取るなら服を着ないと目のやり場に困りますし、髪の毛を毟って坊主な美女なんて、気が触れてると思われますよ。
今はこんこんとアインとブルースが人化するなら最低限は必要な常識を教え込んでいます。
目に焼き付いて離れない揺れる乳、細いウエスト、そして………ダメだダメだ!
思い出すんだ俺!妻の笑顔を!
どんな美女より妻が一番!
客観的に顔やスタイルが劣ろうとも、俺にはアイツが一番なんだから!
ブルブルと頭を振っていると、出発の準備をしているチャックとシナトラの姿が目に入りました。
私も準備しましょう。
「そう言えば二人とも、一般的な常識は最初から知っていましたよね?」
ふと思って尋ねると、
「オレは爺さんに色々聞いてたし」
「僕も父ちゃんが元亜人だったらしいから、母ちゃんが色々知ってた」
何それ、初耳なんだけど?
「うーん、多分ブルースのおっちゃん達と一緒に冒険者やってた一人だと思う。
僕も会ったこと無いんだけど、母ちゃんが言ってた。
王様トカゲの居る冒険者達が依頼で森に入って来て、モリオオネコの母ちゃんに一目惚れして、子孫を残す本能に目覚めちゃったとかで、モリオオネコに戻ったんだって。
で、母ちゃんと暫くいて子供が出来たらどっか行っちゃったって。
それからずっと後でもう一回会った時に僕ができたんだって」
んん?虎の寿命ってそんなに長かったですかねぇ?
ブルースが冒険者辞めたのが30年前で、シナトラは生後一年と言うことは、父トラも母トラも少なくても30年以上生きている、となりますよね?
私の疑問が顔に出ていたのでしょう、チャックが教えてくれました。
「亜人になると寿命は伸びるし、元の姿に戻ってもそのままだよ。
それと元亜人と番ったら、その相手も魔素の影響で多少だけど寿命が伸びるんだって。
うちの婆さんも長生きしたし、うちの一族も程度の差は有っても皆他のマネ鳥よりは長生きだよ」
「へえー、そんなものなのですか」
「だから人になったら服を着なきゃいけないし、ご飯食べるときは手掴みはダメ、飲み物もペロペロ舐めちゃダメだし、何をするにも手を使う!」
どう、凄いでしょう!とばかりの笑顔に、シナトラの頭を撫でてあげます。
「それに気に入らなくても食べる獲物以外は殺しちゃダメ。
これが一番大事、なんでしょ?」
おお、シナトラのお母さん、良い教育をしていますね。
とても助かります。
今ブルース達はそんなところまで教え込んでいるんですね。
「そう言えば、知識はあるのになぜチャックは最初、素っ裸だったんですか?」
シナトラ以上に人として生きていく上の常識を知っている筈なのに、なぜなのかとふと思い、聞いてみたんですけど、すっごい目で睨まれてしまいました。
「魔素が上手く扱えなかったからに決まってるだろ!」
「え?服が魔素に関係しているのですか?」
どうやら体を覆い守る毛や鱗が、魔素の働きで人の形になった時、服として現れるそうです。
へーーー。
ーーーーー〈切り取り線〉ーーーーー
ルシーの奇行は王様トカゲの思考が抜けきらないからです。
動物の気持ち(考え)が強く、服を着たりなどが意味不明と思っています。
トカゲに服を着せるような物ですからね、邪魔とか鬱陶しいとか思うのは、人としての考えが定着するまでは難しいと思って下さい。
私たちがいきなり犬になって四つん這いで片足あげてようをたせと言われても、羞恥心やなんやかやでムリだと思う……そんな感じで捉えていただけるとありがたいです。
ルシーはまだ暫く人としての感覚が付かないです。
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