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第二章 旅は道連れ
86 二人目の王様トカゲ
しおりを挟む「小娘、先程から何をこそこそしておる」
私が彼女に返事をする前に、ブルースが割り込んできました。
《あら、オジさんも王様トカゲなのね》
《初対面の奴にオジさん呼ばわりされたくないわ》
《あらだって、私まだ生まれて20年なんだもの。
魔素の量からみてオジさん500歳くらいかしら?》
《まだ446歳だ!》
ブルース…二十歳(はたち)から見れば、446歳も500歳もあまり変わらないと思いますよ。
《それより、何か理由があって私を探していたのですよね?》
話を戻しましょう。
《貴方を探していたというか、名付けが出来る無性人を探していたの。
南の方に一人いるって噂を聞いて、飛んできたんだけど、人の少ない場所を飛んだ方が良いじゃない?
だから砂漠の上を移動していたら、貴方達が見えて降りて来たの》
人に見られないに越したことはないなと、ブルースが頷いています。
その頷きを見て、彼女は話を続けます。
《オジさんにもわかると思うけど、王様トカゲって人に狙われるじゃない?
私、北で生まれたんだけど、北って戦闘狂が多いのよ。
いつでもどこかで国が争ってるの。
だから武器や防具になる王様トカゲって狙われるのよね》
戦争をしているのなら、強い武器や防具を手にしようと考えるのはあり得るでしょう。
そうすると爪や牙や鱗がそれらに役立ち、さらに一匹狩れば大量に素材が手に入る王様トカゲは、見つかれば問答無用で狩られるでしょうね。
《深い森に隠れ済んでたんだけど、ある国に見つかっちゃってね。
勿論追い払えるわよ?
だって私、王様トカゲなんだもの》
表情は分かりませんが、きっと得意顔なんでしょうね。
《でも、他の国にもバレちゃって。
流石の私でも幾つもの国から取り囲まれたらヤバいじょない?
だから逃げたんだけど、王様トカゲのままだとどこに行っても狙われるし。
ならば人になろうって考えるのが普通じゃない?》
彼女の考えはわかります。
どこに行っても狙われるのなら、その姿を変えようと思う事はあるでしょう。
しかし私は迷ってしまい、返事ができません。
《簡単に姿を捨てようとするな》
私の代わりにブルースが答えてくれました。
《うぬは若いからわからぬかもしれぬが、生まれ落ちたその姿に誇りを持て。
最強の生き物である王様トカゲの姿を簡単に捨てようとするな》
そうですよね、若い身空で簡単に元の姿を捨てるのはどうかと思います。
《名前を付けるのは簡単ですけど、その姿を捨てることになるのですよ?
戻りたいと思った時に私が存命なら良いですけど、もし私がその時にいなければ、二度とその姿に戻れないのですよ?》
ブルースは規格外だから姿を変えれますけど、普通は名前を返して契約を解かないと、ずっとそのままの姿です。
私が先に死んでしまったら、二度と元の姿に戻れないのです。
《我ら王様トカゲは数が少ない。
まして雌は希少だ。
お前が人となる事で更に数が減り、生まれて来たであろう子孫まで居なくなるのだぞ》
それも考えました。
王様トカゲ…ドラゴンなんてどう考えても数が少ないでしょうし、イメージ的にも男性が多い種族だと思います。
ブルースの言葉の様に女性が少ないのなら、彼女一人ではなく、彼女から生まれるであろう子供、その子孫までなくなると言うのは、少ない数が更に減ると言う事ですよね。
種族が滅びに向かう…とまでは言いませんが、簡単に名付けて良いのでしょうか、悩みます。
《そんなの…そんな事、私には関係ないわ!
なんで私が種族のために我慢しなきゃなんないの?
狙われるのが鬱陶しいから嫌なの!
ブレスで凍らせて殺せば一瞬で国を滅ぼす事はできるわ。
でもそうせずにいてあげてるのに、調子に乗って取り囲むのよ?
あそこから出ても、この姿でいる限り、どこに行っても狙われるじゃない!
なら全ての人を滅ぼすか、この姿を捨てるかしかないじゃない!》
彼女からすれば、人を殺すより、自分の姿を変える方が平和的な解決方法なのですね。
でも………。
《狙われない場所もあると思いますよ。
例えば人の住まない島もあるでしょう。
王様トカゲを守護神として祀っている国もあると思います。
それこそ、その強さとその翼で世界中を回り、安住の地を探す事も出来るのではないですか?
色々な場所を回ってみて、それからでも遅くないと思いますよ》
そう、北の地方だけで全てを捨てるのはもったいない事だと思います。
《そうだな。
現に西では結構自由だぞ。
我以外でも王様トカゲの姿のままのんびりと暮らしておる奴らは多い》
《何ですって⁈》
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◇
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