【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

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第二章 旅は道連れ

68 指名依頼なんですって

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「いらっしゃいませ、ユユグルギルドへようこそ。
依頼書と冒険者カードをお預かりいたします」

カウンターの犬ミミ(洋犬系の垂れたミミ)のお姉さんの言葉に、マジックバックに手を入れようとしたら、ブルースが、

「パーティでダンジョン依頼を受ける、俺のカードでも良いか?」
「はい、リーダーの方のカードでなくても、メンバーの方のカードで大丈夫ですよ」
とニッコリ笑ったお姉さんは、依頼書とブルースのカードを受け取りました。
受け取りました………受け取ってカードを目にしたお姉さんは、椅子を倒して立ち上がりました。
ガターーン!!と大きな音がギルド内に響きます。

「ち、ち、…ちょっとこちらへいらしていたたたた」
ギルド中の視線が集まる中、お姉さんはカウンターから出てきて、ブルースの腕をぐいぐい引っ張り奥へ連れて行こうとして、倒れた椅子に脛を打ち付けてしまいました。

「大丈夫ですか?」
「痛いです、けどそれどころじゃ無いんです。
あなた方パーティメンバーですよね?
一緒にいらしてください」

事情はわかりませんが、必死の形相に頷く以外の選択肢はありませんでした。


こちらでお待ちくださいと、応接室へ通された私達は、とりあえずソファーに腰掛け待つことに。
3分もしないうちにお姉さんがモヒカンヤンキーな若者を連れて部屋へ戻ってきました。

部屋に入るなり、モヒカンヤンキーはニヤリと笑って口笛を吹きました。
「ヒュー、強者のオーラビンビンじゃん?
救世主キタコレ」

ニヤニヤしながら、私たちの向かいのソファーに腰掛けて、一旦俯いたかと思うと、次に顔を上げた時にはひどく真面目な表情をしていました。

「ようこそユユグルギルドへ。
私はギルドマスターのシーシャムです。
貴方が王様トカゲだとお伺いし、是非とも指名依頼を受けていただきたいのですが、話を聞いていただけますか?」
おお、言葉遣いも声のトーンも先程と違います。
きっとこちらは仕事用の顔ですね。

見た目は二十歳そこそこなのにギルドのトップだとは、とても優秀な方なのでしょうねぇ。
モヒカンですが。

「指名依頼だと?
我は有象無象のランク6だぞ」
「でも王様トカゲなのですよね?」
「間違いでは無いが、今我はランクアップを急いでおる故、数をこなさねばならる。
よって指名は断る」

ギルドマスターとはこのギルドの一番偉い人ですよね?
それなのに話を聞かずに断るブルース、流石です。

「ランクアップですか?
何か理由でも?」
「プライベートだ」
「思いっきりプライベートだんぐっ」
シナトラの口を塞いだチャック、相変わらずナイスです。

「………では、この依頼を受けていただけて、達成したなら、私の権限でランクアップを約束しましょう」
「我だけでは無い、皆同じ条件だ」
「勿論、依頼はダンジョンについてですので、パーティで受けていただくこととなります。
なので当然パーティメンバーの方も一緒にランクアップ致します」

いくつか討伐依頼をこなして、ダンジョンへも何度か挑戦しないといけないのに、それをトップの権限でスキップさせてもらえるのですか。
こちらとしてはありがたいですけど、ギルドマスターとは権力が有るんですね。

「……そこまでの依頼なのか?」
確かに、こんなに好条件なら、依頼も難しいのじゃ無いのですか?
私達に達成できるのでしょうか?

「……………この依頼を引き受けるパーティがいないのです。
報酬を上げるのにも限界がありますので」
「……詳しく聞こう」

ギルドマスターの話では、二月(ふたつき)ほど前から土属性のダンジョンに、今まで見たことのない新たなモンスターが発生したそうです。
そのモンスターは繁殖力が高く、ダンジョン内はそのモンスターに占領されてしまったとか。
しかもそのモンスター、はちあった冒険者が何体か倒したそうなんですけど、魔石を落とさないらしいです。

魔石も落とさない、数が多い、しかも雑食で、ダンジョン内のモンスターを食べ尽くした後は、共食いをしている……と。
おぞましさに討伐をする冒険者がいなくなったそうです。

魔石を落とさない=収入が無い、経験を積もうにも、モンスター自体は強く無いので戦闘の経験にもならない、しかも不気味とくれば、誰も依頼を受けたくないでしょう。

ギルドとしても回収された魔石を買い取り、それを販売して成り立っているのだから、回収見込みのないダンジョンに出せる予算はそう多く無いので、尚更依頼の受け手が居ないとの悪循環。

「王様トカゲなら、離れた場所からブレスで一掃できますよね?
皆さんまとめてランクアップしますから、受けていただけませんか?
この国では需要が少なくても、魔石は取り引き材料として一定数必要なんです。
このまま放置もしておけません」
どうかお願いしますと、テーブルにつくほど頭を下げるししゃも……シーシャムさん。

ブルースはその下げられた後頭部をじっと見ながら考え込んでいます。
どうするつもりでしょう。






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