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第二章 旅は道連れ
63 新たな地でバス探し
しおりを挟む翌朝、ネグさんが見張り台で結界の部分解除をしてくれるそうなのでお任せして、私達とホルさんは結界の近くで待機です。
「本当にお世話になりました。
そしてこれからもどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、ヤギの乳も無駄に捨てずに済むし、他国との交渉の面倒が無くなるのはありがたい。
交渉相手によっては本当に鼻持ちならない奴や、油断できない奴がいるからな。
息子も責任のある役目を貰って、自信を持てるようになったしな」
まだ12歳の三男さん、末っ子で甘えん坊な三男さん、声の可愛い三男さん。
ふふふふふ。
「『子供と念話、楽しいな』とか思ってんじゃねえよ」
「おや、顔に出てましたか?」
「デレデレだよ、父ちゃん」
あ、ホルさんも若干引いていますね。
「スサくんに宜しくお伝えください」
顔を引き締めて言ったのですけど、ホルさんは引いたままです。
「おーい、解除できたぞー」
ネグさんの言葉に、私はそそくさと結界向こうに向かいます。
「で、ではまた」
「「「「あっ!」」」」
後ろから皆の声が聞こえるより先に、私は見えない壁にぶつかり跳ね返され、ひっくり返っててしまいました。
「え?解除できたんじゃないんですか?」
後ろ手をつき体を起こしながら尋ねます。
顔が熱いですね、きっと赤面しているに違いありません。
「部分解除だからな、こっからそこまでのスペースだけだ。
目印に作り物の花が地面に刺してあるだろ」
言われた場所を見てみると、野に咲く花の中に、不自然に風に揺れない花が有ります。
大きな馬車が一台通れるくらいのスペースですかね。
「な、成る程です、お騒がせしました」
シナトラに助け起こされ、チャックが背中に付いた草を払ってくれています。
「ぶつからないよう、手を引いてやろうか?」
笑いを堪えた顔でブルースが言ってきます。
「…………結構です」
なんとも締まらない別れとなりました……。
結界の外は荒野が続き、遠くに森が見えます。
どうやら結界の近くの魔素は、結界内に吸い寄せられているようで、周辺の植物は育ちにくくなっているそうです。
魔素はあり過ぎれば動物が魔獣化するし、無ければ植物が育ちにくくなるそうです。
程々の匙加減は自然任せとは、なんとも厄介なものですね。
荒野を2時間ほど歩き、森に着いた私達ですが、それまで無言だったブルースが一言漏らしました。
「……飽きた」
何を言っているのかとアインが問いかける前に、ブルースが振り返り不満を漏らします。
「久しぶりに沢山歩くのは楽しかったが、もういい加減歩くのも飽きたぞ。
元の姿に戻るのがダメなら、何か乗る物を探そう」
確かにブルースに乗ったのと、カカルの民のところで馬と荷車に乗ったくらいですもんね。
以前なら、車、バイク、自転車、電車、バス、飛行機……いろんな乗り物が有りましたし、若い頃はバイク、結婚してお金を貯めてからは車移動が多かったですよね。
こんなに歩くことなんてなかったです。
「山のこちら側なら乗り物のバスとかですかね?」
「バスか、バスならジョニーも大丈夫であろう。
よし、探すか」
どうやらバスがこの世界にも………あるワケ無いですよね。
「父ちゃん、【ばす】って何?」
「私が知っているのは、沢山の人を一度に運ぶことのできる、大きな乗り物ですね」
「オレ知ってる。
じいちゃんが昔乗って旅した事あるって言ってた。
ジョニーの言うように、大きくて一度に何人も運ぶ事ができるって」
え?本当にバスなんですか?
森の中を歩きながらバスを探しました。
「大きな乗り物だからな、木と木の間隔が狭い場所は通れぬ。
この森の様に木の間隔が広い場所で見つかる事が多い」
とのブルースの説明で、1時間以上移動しながら探して見つけました。
「アレがバスだ」
「正確に言いますと、あれは『ゾウオニバス』ですね」
見つけたのは象の集団でした。
その中で一際大きな像が3頭、その背中には緑のタライの様な物が。
ああ、背中にオニバスが付いている象なのですね。
「カメバスより乗れる人数は少ないが、速さはゾウバスの方が早いから、あれにしようか」
象より大きいカメって、ガメ●ですか…。
「珍しくゾウケシもいますね」
少し小型な象の背中に人が一人座れる様な花…ひなげしの花が咲いていますね。
「あれは一人乗りだけど、座り心地は最高だぞ。
ジョニーはアレにするか?」
えええー、オレンジとピンクの中間色の花の中に座る私……罰ゲームですか?
「そうですね、バスも一度に全員は乗れませんし、私とブルースとシナトラがバスに乗って、ジョニーがゾウケシ、チャックは空を飛びながら見張りを、疲れたらジョニーの膝の上でどうでしょう?」
「膝の上って、そんな子供じゃあるまいし」
アインの提案に言い返すチャックでしたけど、
「魔素の補充にもなりますし、見張りをして下さると安心できますね」
とのアインの言葉に、
「安全のためなら仕方ないよね。
それに見張りをするなら魔素の補充もしないとだし、仕方ないな」
と、言いくるめられました。
「チャック兄ちゃん父ちゃんに甘えたくても、素直に甘えられないから、ナイスなアイデアだよね」
シナトラ……チャックに聞こえてなかったから良かったですけど、口に出しちゃダメですよ。
チャックを膝抱っこできるのは私もやぶさかでは有りませんが、【お花の椅子】…これはゾウケシというより【道化師】なのでは?
迷った挙句に、チャックを抱っこに負けてしまいました。
ゾウオニバスはブルースとアインが、ゾウケシは私が交渉することになりました。
交渉内容は周りにに教えない方がいいと言うことで、念話での交渉です。
さて、上手く交渉できるでしょうか。
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