【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

文字の大きさ
上 下
61 / 206
第二章 旅は道連れ

61 お薬を手に入れました

しおりを挟む
シナトラ待望の酒の木は、木の実が中央の窪みの部分に落ちていて、そこで自然に皮が溶け、中の果汁…つまり酒が溜まっていました。
近づくだけで凄い匂いです。

その酒を馬に括り付けていた樽や水筒に入れ、皮が溶けていない実は掬い取ります。
この皮もおつまみとして、宴の肴として並んでいて、大根の粕漬けみたいな味で美味しかったです。

それらを大量に戴けたので、お礼を告げてチルド庫へ。
飲みたい飲みたいと騒ぐシナトラを宥めて先に進みます。

到着した先にいた動物は、想像通り鹿と言っても普通の鹿だけでなく、ヘラジカと、あちらはきっとトナカイですね。
馬は(この場所では)普通サイズの馬と、あの小さいのはロバですよね。

「おお、これは見たことのない魚だな。
そっちのやつと、それと、乾燥したやつを貰おう」
ババ様の弟さん、族長と呼ばれているご老人も、ババ様達と同じように魚を喜んでくれました。

魚貝類の代わりに仕入れたのは、ヘラジカやトナカイのツノで作った細工物と、ツノで鞘と柄を作った小振の石のナイフ、それと薬です。

「若い鹿のツノはいろんな病気の薬の核になる。
精がつくからな。
特に男性に需要のある薬には不可欠だ。
まあ、お前達にはまだまだ関係なかろうがな」
ああ、そっち系の薬に鹿のツノとか、アザラシの何ちゃらを使うと、うっすらと聞いたことがあります。

「後は小馬の皮から作った血の薬だ。
特に女性に需要がある」
説明しながら小さな巾着をテーブルの上に並べられました。
二つ合わせて乗せても、掌に収まる大きさです。

「カカルの民の薬だと認められれば、この小袋一つで羊千匹の値段がつく」
羊千匹がどの位の価値かのかは分かりませんけど、凄いと言うことだけは伝わってきました。

「それくらいの価値はあるだろうな。
薬の作り方は同じでも、材料が違えば効能もちがうだろう」
「そうですね、この平原は魔素の濃度が少し濃いですから、薬を作ればよく効く物ができるでしょう」

ブルースとアインの言葉に、族長は頷きました。
「神な魔王様が我らの先祖様に加護を与えてくださった時に、この地も祝福を受けたのだろう。
家畜はよく育つし、我らも怪我をすることはあれど、病に侵される事はないと言ってもいいからな。
男も女も生涯現役と言って良いほど頑丈で、薬要らずだから、薬を作っておる一族は今は我らのみ」

「そんな貴重な薬をいただいて良いのですか?」
他では手に入らないとてもよく効く薬だと言われると、価値の凄さがわかってきます。

「薬は先祖の仕事を忘れない、伝統作業を伝えるために作っておるだけだからな。
たまたま他で高値で売れるから、ごく稀に他国に売って、その金を平原の全ての一族の為に使っておる。
つまり金が必要でない時は、在庫として貯まるだけなんだな。
だから是非神の国…魔王様の国から来たあなた方にもらって欲しいのだ」

そう聞くと、東の魔王とは縁もゆかりもない……いえ、現在の東の魔王は家族ですけど、コニーも紡がれた血族では無いですから、私達が恩恵に預かって良い物なのでしょうか?

躊躇っていると、アインが
「それではありがたく頂戴いたします」
と、受け取ってしまいました。

「貴重な品ですので、使い道は良く考えさせていただきます」
「思慮深そうなあなた方ですから心配はしておらんよ」

族長は朗らかに笑っていますけど、初対面の人間をそこまで信用していいのでしょうか?
西から来たというだけで?

疑問が顔に出ていたのでしょう、はははと笑った族長が、いたずらっ子のような顔で笑いました。
「実は鑑定とまではいかぬけど、私は相手の種族がわかるんだよ。
西の魔王様と王様トカゲが目の前に揃っているのだから、いい関係を築くのが、我らカカルの民の生き延びる道だろう」

「我は相手が向かって来ぬ限り、物騒な事はせぬ」
族長の言葉に鼻を鳴らすブルース。

「魔王と言いましても、私は山の西のさらに西を治めているのですけどね」
「今も統治なされているのですか?
成る程、噂に聞く分裂をなされたのか?」
「感知したところ、魔族は住んでいる気配はありませんのに、よくご存知ですね」
「知識は宝ですから、伝えられていること、他国から仕入れたこと、一族をまとめる者にしっかりと引き継がれておりますよ」
「素晴らしいですね、カカルの民の方々は」
「ありがとうございます」

握手を交わす二人を、まるで劇でも観ているような感覚で眺めます。
魔王に助けられた一族の末裔だから、魔王は信用できるとの考えなのでしょうか?
そんなに簡単に信用して良いのですか?
魔王だからと言って、全てが良い魔王だとは限らないじゃないですか。
悪い魔王だったら、薬目当てで侵略したり、他国に薬と情報を売ったりとか、何をしでかすかわからないじゃないですか。

そんな事を考える私の方が捻くれているのでしょうか?

「大丈夫ですよ、歳をとった分人を見る目も培ってますから。
あなた方は我らカカルの民に害を及ぼす事はないでしょう」

いけませんね、若い人はするりと受けいる事ができても、大人(自分の親世代の年代)はつい穿った見方をしてしまうのは、私の悪い癖です。
好意は好意として、素直に受け入れられるようにならないと。

「難しく考えないで、ありがとでいいんじゃない?」
私がぐるぐるしているのを感じたのか、チャックが小声で告げてきます。

「そうですね、色々と貴重な物をありがとうございます。
大切に使わせていただきますね」
素直にお礼を言うと、それで良いと、テーブル越しに頭を撫でられました。
頭を撫でられるなんて何十年ぶりでしょう。

「色々考えてしまうこともあるだろうがな、人生は案外単純なものだ。
それを単純でなくするのは、自分の中で難しく考えるからだ。
何か単純でなく感じたら、周りの者に声にして言えばいい。
お前の周りに居るのは信じるに足りる者なのならな」

以前にも何度か似たような事を言われたことがあるような。
自身もそれに似たようなことを、新人達に言ったことがある言葉に、私は素直に頷きました。

定年間近まで社会人をやってきた筈なのに、最近ちょくちょくと若造の頃の自分が出てきている気がします。
もしかして、見た目年齢に引きずられているのでしょうか?





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移したよ!

八田若忠
ファンタジー
日々鉄工所で働く中年男が地球の神様が企てた事故であっけなく死亡する。 主人公の死の真相は「軟弱者が嫌いだから」と神様が明かすが、地球の神様はパンチパーマで恐ろしい顔つきだったので、あっさりと了承する主人公。 「軟弱者」と罵られた原因である魔法を自由に行使する事が出来る世界にリストラされた主人公が、ここぞとばかりに魔法を使いまくるかと思えば、そこそこ平和でお人好しばかりが住むエンガルの町に流れ着いたばかりに、温泉を掘る程度でしか活躍出来ないばかりか、腕力に物を言わせる事に長けたドワーフの三姉妹が押しかけ女房になってしまったので、益々活躍の場が無くなりさあ大変。 基本三人の奥さんが荒事を片付けている間、後ろから主人公が応援する御近所大冒険物語。 この度アルファポリス様主催の第8回ファンタジー小説大賞にて特別賞を頂き、アルファポリス様から書籍化しました。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...