【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

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第二章 旅は道連れ

59 カカルの民

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遥か昔、馬で駆けて続けても20日以かかるほどの広大な地全てが、遊牧民が暮らす土地だった。

西には高い山脈、南へ進むと海、北へ進むと大きな渓谷が有り、東にずっと行くと砂漠に出ると聞くが、広大な地を持つ彼らは興味がなかった。
いくつもの部族が、家畜の餌を求め自由に移動しながら暮らしていても、すれ違うことも稀なほど、彼らの地は広かった。

ある時、大きな渓谷を超え、広大な土地を我が物にしようと侵略者が押し寄せて来た。
勇猛な彼らは立ち向かったけれど、時間をおき東からも同時に侵略を受けることになる。

彼らは強かったけれど、圧倒的に数が少なかった。

戦力差に、次第に土地は奪われて行く。
勿論大事に育てた家畜も奪われる。
戦えない女子供も襲われ、攫われ、奴隷とされるか、殺されるか、慰み者にされてしまう。

彼らはどんどん追いやられて、全て彼らのものだった土地は七割がた侵略者の物となっていた。

このまま自分達は滅びるのかと諦めかけていた時、西の山脈に新たな力の波動を感じた。

背後まで取られては、もうなす術もないと諦め切った彼らの前に、一人の男が降り立った。

「我はあの山に住むと決めた。
そのうち山の向こうに国でも築こうかと思っておる。
だがこちら側が少々煩そうてのんびりできぬ。
主らはもっと散らばっていたろう、なぜ集まって来ておるのだ?」
男が問いかけてくる。

「我らは集まって来た訳で場ありません。
数年前から我らの住む土地を、他所から来た者達に力任せで奪われて、ここまで追いやられてしまったのです」
集まった部族の中で、一番歳をとった老人が答えると、男の問いはさらに続いた。

「なぜ抵抗せぬ、主らは弱いのか?」
「弱くはありません!
しかし、我ら一人で数十人相手にしているのです。
数が違いすぎて相手にならないのです」
「魔法で蹴散らせば良い」
「我らは強化魔法しか使えないのです」
「ならば結界を張れば良い」
「結界とは何でしょう?」
「ふむ、この地には結界魔法はないのか。
ならば我が教えてやっても良い。
但し条件がある。
我は静かに暮らしたいし、無益な殺生を好まぬ。
故に煩い奴らが山を越えてこない様に食い止めてくれ」

そう告げると男は全ての民に魔法をかけた。
魔法を浴びた彼らの姿はふたまわり大きく強くなり、体の底から力が湧いてでた。
そこに強化魔法をかければ、一人でも十人程なら相手にできるだろう。
魔法を浴びた女性には、それ迄使えなかった魔法が使える様になっていた。
風の魔法と結界魔法だ。

力を手に入れた男性達は、敵を押し返し、幾ばくかの土地を奪い返したところで、女性達が結界魔法を展開し、結界の中から風魔法で敵を追い払った。

結界は強力で、どんなに優れた魔法使いでも破る事はできず、敵方はこれ以上の侵略を諦めた。

長い年月が経つうちに、お互いの利害が一致し、交易が行われる事となり、今でも結界は展開しているが、友好な関係を築いている。



「我らのご先祖に力を与えてくれた方を神と呼ぶのは当たり前じゃろう。
勿論本物の神ではないと分かっておるぞ。
だからと言って敬わない道理はなかろう。
長い年月が経っておるから、その方ももういらっしゃらないだろうが、その方の血族や仲間の方々も、我らにとっては尊い存在なのだよ」

ババ様と呼ばれたご老人の話を聞きながら、お茶を飲んでいます。
ああなるほど、東の魔王の言っていた契約とこの話が繋がるのですね。 

魔王が神様ですか。
ついつい『悪魔信仰』などと浮かんできましたけど、この世界での魔王は悪魔ではないですから、この考えは不遜ですね。

「魔王さんって凄い人だったんだね」
「は?」

だからと言って神だと思っている存在を魔王だってバラすのはどうなんですか⁈
失言をしたシナトラの後頭部をチャックが叩いています。
でも、口から出た言葉は無かったことにはなりません。
「魔王?」「魔王だって?」と、テントの中に居た人々が呟いています。
ああ、本当にシナトラの失言癖はどうにかしないといけませんね。

「なんと、かのお方は神ではなく魔王でしたか!」
ああ、お婆さんショックで倒れなければいいのですが。
ハラハラして言葉を探していると、

「魔法や魔族を司る王だからこそ、ご先祖全てに魔法を行き渡らせることが可能だったのですね」
「神の奇跡と言われてそんなものかと思ってだんだけど、魔王だったら凄い魔法を使えるの納得だな」
「何代辿っても魔法が使える魔法だなんて、魔王様だからこそできたんだろうね」

おや、魔王への反応が、想像していたのと違いますね。
実際魔王であるアイン達に会っているのに、どうしても【魔王】と言う言葉には、悪いイメージが染み付いていましたけど。
シナトラだけではなく、私もいい加減考えをこちらの世界の常識と合わせないといけませんね。

私が1人反省をしていると、感極まったババ様が、震える声で
「これからは神の山ではなく、魔王の山と呼ぶ様に、全ての部族に伝えるのじゃ!
魔王の山と、魔王の国……おお、おお、ワシの生きている内に真相が明らかになるとは、長生きはするもんじゃのう」

嬉しそうに笑いながら涙を流すババ様を見ながら、魔王の山と言う言葉に、果たしてこの世界の常識とかセンスとかに合わせる事はできるのだろうかと、不安に思った事は誰にも言えません。





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