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第二章 旅は道連れ

51 チャックの武器

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「よし、明日の昼にはこの町を出るぞ」
ノックも無しにドアを開けて、ブルースが部屋に入って来ました。

「お帰りなさい。
明日って、武器はそんなに早く仕上がるんですか?」
ベッドに腰掛けていた私の横に腰を下ろし、肩を組んできます。
「ああ、あいつの武器と違って、我のは剣の大きさと多少の形状が変わるだけだからな。
たいして時間はかからぬそうだ」

アインの武器は普段は棒の様な物で、鞭と槍になるのですから、よくわからないのですけど何やら複雑なのでしょう。
ブルースの武器は、恐竜でも狩れそうな大きな剣が、普通に騎士が持っていそうな剣に変わる、剣から剣ですから、簡単…なのですかね?
ブルースが嬉しそうで何よりです。

「そうだ、チャック、お前に土産も持ってきてやったぞ」
言いながら取り出したのは籠手に…いや、グローブと呼ぶんでしたかね、15センチ程の爪の付いた武器でした。
クローでしたっけ?

「お前の握力だと、ナイフよりこちらの方が良いだろう。
付与魔法で、長さを変化できるようにしてあるから、短くも長くもできるぞ。
毒液を魔法で生成して爪に塗るのも良いしな。
特殊金属だから軽くて丈夫だぞ」

受け取ったチャックから借りて持ってみました。

丈夫な金属と聞いたので、チタンかな、と思ったのですけど、もっと軽いです。
えーと何でしたっけ?はにかむパネルでしたかね、ああいった感じの金属なのでしょうか。

長さは今は20センチ弱と言った感じですけど、最大50センチ程になるそうです。
最小で5センチくらいまで短くなるそうなので、短くして近寄り、獲物に振りかざす直前でぐわっと伸ばすとか、隠し武器のように使うのですって。

「素早さと小回りのきくあなたですから、クローは相性が良いと思いますよ。
長さ調整の付与があるのなら、飛んでいる時も邪魔にならないでしょうし」
戸口に立つアインも納得の武器の様です。
チャックに戻すと、彼は手に嵌めて使い心地を確かめてから、ブルースに頭を下げました。

「ナイフよりも使いやすいみたい、ありがとう」
素直に礼を言うチャックに、ブルース達はニッコリ微笑みます。
「男なら自分で戦いたいよな。
そいつでお前の大切な家族を守ってやれば良い」

現状、チャックは戦闘にあまり参加はしていないのです。
上空から投石したりはしていますけど、獲物と対峙する事はしていません。
それを不満に思ってはいても、体の大きさや筋力を考えると、やはり前衛に出るとことは、周りが遠ざけます。
王様トカゲやモリオオネコや魔王、鉄パイプをぶん回す私達の中で、小さなナイフで戦うと言うことは難しいですから。

それでも、自分も前に出て戦いたいと思うプライドを、ブルース達はちゃんとわかってあげていた様です。

私は自分の武器を手に入れたことに浮かれて、気付いてあげる事ができませんでした。
長年生きているだけあって、周りのことに目が行き届いている二人に、頭が下がる思いです。

「よく丁度いいサイズが有ったね。
チャック兄ちゃんちぃちゃいのに」
だからシナトラ一言余計なんだって!

「ああ、それはな、爪だけでなく、グローブの部分にもサイズ自動補正の付与が付いてあるのだ。
だからこの先身体が成長しても長く使う事ができるぞ」
付与とは何でもありなんですね。

「私の武器を作って下さった知人の弟子がこの町に居るのですよ。
その知人が先日この町に立ち寄った時に、特殊金属を幾つか分けてもらえたそうで、クローはその金属に合った武器を作っていたうちの一つです。
それをブルースが見つけて、グローブの部分にサイズ自動補正を付けてもらったのですよ」
「その知人の方も付与師の方なのですか?」
「いえ、彼女は錬金術師です」

知人の方は女性のようですね。
「錬金術師ですか、確か調合のスキルを上げていくと発生するのでしたよね?」
「そうですね、一般的には薬草を専門で調合して、薬師になる方が多いですけれど、彼女は金属の調合を得意としていましたので、錬金術師になりました」

「お前の棍棒ももっと重量感のある物や、強度のある金属を使って作ると良いかもしれぬな」
ブルースが言いますけど、棍棒ではなく鉄パイプです。
重さも有ってこそです。

それに鉄でできているから鉄パイプなので、違う金属なら名前が変わってしまうではないですか。
超合金パイプとか?

その後も武器や素材、付与師や錬金術師の事などを色々話しているうちに日も暮れて、宿に併設されている酒場で夕飯を取った後、早々に部屋へ戻って早めに休むことにしました。
部屋から出るとやはり臭いが………。



「マスクなんてないのですかねぇ」
ベッドの中でティちゃんに話しかけます。
隣ではチャックが寝たふりをして話を聞いています。
瞼がピクピクしているからバレバレですよ、ふふふ。

《この世界は顔を隠すのは犯罪者か、諜報活動をしている人だけだから、めっちゃ怪しまれるよ。
『表情を読まれない様にしてるなんて怪しい奴め!』ってね 》

「それは困りますねぇ。
でもこれから人族が増えていくと、これ以上の強烈な………」
言葉にする前に想像してしまい、続きが出てきません。

《そんなに気になるなら、顔の周りに風魔法を展開して臭いを吹っ飛ばせば良いんじゃないの? 》

あ!そうですよ!
臭いが気になるなら、換気をすれば良いのですよ!
何でこんな単純なことに気づかなかったのでしょう。

イメージは…スペースシャトルの乗組員の防護服?を全身に纏い、小さなファンを付けて、空気を常に循環させる………

「換気」

魔法をかけて部屋を出てみます。
よし、なんの臭いも気になりません。
明日から、皆にこの魔法をかけてあげましょう。
これで臭いに敏感なシナトラもブルースも、安心して町に滞在できる様になりますね。

「さすがティちゃんですね、ありがとう」
私はお礼を言ってベッドへ戻り、安心して眠りにつきました。


翌朝、シナトラとブルースにとても感謝されました。
アインも
「我慢できなくはないのですけど、これはとてもありがたいです」
と、喜んでくれました。
昨夜起きていたチャックだけは、驚きもせず、当たり前のように魔法を受けてましたけどね。
何も言わないですけど、抑えきれない表情が語っていますよ。
素直になれないお年頃って、可愛いですよね。






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