【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

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第二章 旅は道連れ

43 虐めているわけではないのですよ

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マジックバッグの中身の不用品を全て売り払い、宿へと戻るとデジャヴ?
ベッドの上に荷物を広げているのはシナトラですね。
見てみると、広げられているその八割が酒瓶です。

「だから、こっち側のがごはんで、こっち側が飲み物、んで、そっちがおやつなの」
「……………………………………………」
「……ごめんなさい」
アインの無言の圧に、シナトラがすごすごと酒瓶を差し出しています。

「………ではこれだけは持ってて良いです。
次の町まで補充は却下します」
手渡された3本の酒を大事そうに鞄へとしまっています。
「次の町に着いたらもっとくれる?」
「一日一本なら許可しましょう」
「はぁ~い」
渋々ですが、返事をしていますね。
やはり虎だから、お酒が好きなのでしょうね。

「それからチャック」
おや?チャックも、余分な物を買ったのでしょうか?
「中のモノを出しなさい」
「……………」

アインに言われたチャックが懐から出したモノは……赤い毛玉?
「……元の場所へ戻しても、今更でしょうね」
ため息混じりのアインの言葉がわからずに、首を傾げてしまいます。
アインの言葉から浮かんだのは、万引き?まさかチャックが?毛玉を?

「数日はこの町に居るかもしれませんけど、すぐに旅に出るのですよ。
それを連れて行くのですか?」
連れて行く?
あの毛玉は生き物なのでしょうか?

「ジョニーからも言ってください。
そんなに小さな命を連れて歩けないと」
やはり生き物みたいですね。
私は近づいて、チャックの手の上の毛玉を覗き込みむした。

「あ、」
その3センチほどの毛玉は、ふくふくと膨らんだスズメの雛でした……真っ赤だけど、模様はスズメです。

「こいつまだ巣立ちも済んで無いのに、巣から追い出されたんだ。
このまだとすぐに死んじゃうよ?」
「子育てを放棄する動物は少なく無いです。
あなたはその全ての面倒を見ると言うのですか?」
「そんなわけないじゃん!
でも…コイツは……」

一瞬口籠もった後、顔を下げて小さな声で呟きました。
「コイツ、魔力持ちで色が違うから、巣から出されたんだよ……。
まだ生まれて間もないから、まともに魔法なんて使えていないだろうに、追い出されたんだよ」

そう言えば、魔力を持つ動物は、普通と違う色になるんでしたっけ?
チャックは魔力の循環が上手くいかなくて、魔法がまともに使えなかったから、群を出てきたんでしたよね。
もしかして、自主的に出てきたのではなくて、追い出されたのでしょうか?
この毛玉が自分と重なって見えるのでしょうか…。

「小さな仔だし、連れて行っても良いのではないですか?」
「小さいからこそ、危険なのでしょ?」
私の問いにアインが問い返してきます。
確かに旅に連れて行くには小さ過ぎますけど、このまま置いていく方が危ないですよね。

「亜人化しなければ、懐の中やカバンの中など隠れることもできますし、餌も満足にとれない程の小ささですよ?
連れて行く方が安全だと思います」
「………亜人化しなければ言葉は通じませんよ」
「言葉が通じなくても、チャックなら同じ鳥類ですから、意思の疎通はできるでしょう」

ね? とチャックを見ると、大きく頷きました。
「まだ孵化して一週間くらいだけど、何となく何を考えてるかわかるよ」
「一週間⁈
え?生まれたて⁈」
「小型の鳥は孵化して二週間も経たないうちに巣立ちをしますよ。
巣立ちをしても暫くは親鳥が、餌のとり方や危険な物などを教えたりしますけど」

そう言えば軒下に巣を作ったツバメも、卵が孵ったかと思ったら、あっという間にいなくなりましたよね。
どうも人間の感覚で考えてしまうのは変えていかないといけませんね。

「色違いの生き物は、他より成長が遅くなる事も多いです。
個体差は有りますけど、小型の生き物は特に成長が遅くなりがちですね。
ですから、この雛も他のきょうだいとの成長の差で、親鳥が見放したと言う事もあるでしょう。
魔力持ちになるのは本人のせいではないのにね」
アインの言葉にチャックは項垂れてしまいました。
横で聞いてる私ですら、罪悪感が。

アインは一つため息をついてから、再度口を開きました。
「………わかりました、チャックがきちんと面倒をみるのなら、連れて行くことを許可しましょう」
なんとアインが折れてくれました。
チャックもホッとしたのか体の力を抜き、顔を上げました。
掌の中の毛玉はわかっていないのか、先ほどから毛繕いに余念がないです。
そしてシナトラが……

「でもさ、この群のリーダーって父ちゃんなんだろ?
父ちゃんが良いって言えばそれで決まりなんじゃないの?」
空気を読めよ!

「いや違うぞ、シナトラ。
僕は知らないことばかりで教えを乞う立場なんだから、アインが色々決めてくれないと、困るのはこっちなんだから」
それに魔王様だし。

「この世界の事はアインとブルースの知識がないとやっていけないんだから、これからも色んなことを二人に決めてもらう場面も出てくるから、シナトラもその指示に従うんだぞ」
「はーい」
軽く返事をするけど、本っっっ当、良く考えて喋って欲しいもんです。

「アインも、わからない事だらけな私ですけど、これからも色々ご指導、ご鞭撻をお願いします」
見捨てられると困るのです。

タブレットで調べれば良いでしょうけど、あれはこちらが分からないものを書き込んで答えが出るのであって、何がわかっていないかがわからない現状では、指摘してくれる人がいないと困るのですよ。

「確かに群…集まりの中心はジョニーですね。
しかし私がここに居るのは、貴方に知識を与える為ですから、これからも積極的に口を挟んでいきますよ」

それで良いのですね?と聞かれましたので、頷きます。
「勿論です。
頼りにしていますので、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」

私達はニッコリと笑い合いました。
子供の言葉に寛容な方で良かったですよ。
しかしシナトラ、本当に空気を読んで、よく考えてからものを言って下さいよ………。


 




ーーーーー〈切り取り線〉ーーーーー

今更かもですけど、ジョニーの一人称は、子供の前だと【僕】で自分的に目上の人相手だと【私】になっています。
本人が慌てている時などはたまに入り混じりますけど、会社員として長年勤めていた感覚で、ゆるりと公私を無意識で分けている感じです。

女性は【私】で全ていけますけど、年配の男性だと、使い分けないといけませんからね。
間違えて取引先で【俺】なんて言ってしまったら………。
逆に家族の前で【私】と言えば、奥さんや娘さんから苦笑されそうです。





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