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第二章 旅は道連れ

39 子供とは空気の読めない存在ですよね

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依頼は荷物の検品まででしたけど、支払いの計算に四苦八苦していたので、計算も手伝いました。
だって足し算ですよ?
足し算引き算なら、余程の桁でない限り暗算ででもできるでしょう。
掛け算割り算になると筆算になりがちですけどね。
数学は全然出来ませんでしたけど、算数なら……分数辺りまでは得意でしたよ………ええ、その辺りまではね。


日暮れ前には全て終わり、ギルドへ達成報告へ向かいました。

ギルドへ着くと、皆さん仕事帰りなのか、結構混んでいます。
報告が済んだ冒険者の方々は、早々に酒場で飲んでいますね。
シナトラの目が酒場に釘付けです。
チャックは依頼ボードへ向かいましたので、私一人で列に並びました。

順番になり窓口へ行くと、受け付けに居たのは、昨日の年配の男性でした。
「あ、ブルースのお知り合いの職員さん」
私が言うと、年配の男性は吹き出しました。

「なんだよそれは。
そういやあ名乗ってなかったか?
俺の名前は、ガルガスって言うんだ。
まあ、よろしくな」
手を出されたので握手をしました。

「それで、昨日登録して何か依頼でも受けたのか?」
「ええ、依頼達成の書類をお持ちしました」

依頼達成の書類は、ギルドで依頼を受ける時に渡される書類で、依頼が終わった後に依頼主にサインと評価(○△✖︎)を書いてもらった物です。
これをギルドへ提出して、パーティの評価とするそうなのです。
その紙を3枚重ねて提出しました。

「お前らスゲーな、1日で3つ終わらせてきたのか。
町長んとこと商会なんて追加報酬払っても良いって追記があるぞ」
「満足していただけたのなら良かったです」
「じゃあ依頼達成の報酬は支払い窓口へ行ってカードを出してくれ。
ついでにランクアップもして行くか?」
「そうですね、お願いします」

私はシナトラとチャックを呼びました。
「ランクアップ出来るそうだから、カードを出して」
シナトラはゴソゴソとあちらこちらのポケットを探って、カードを取り出しました。
チャックはカードと一緒にボードから剥がしてきたのか、依頼書を5枚テーブルの上に置きました。

「これ、さっき回収した中にあると思うよ」
言われて見てみれば、採取の依頼書に描かれてある草や木の実は、草むしりや林からの帰り道で言われるままに回収した薬草や、木の実と同じ物ですね。

マジックバックに手を入れ、「この薬草とこっちの薬草とそっちの薬草、あとこの絵と同じ木の実」など、名前がわからないので、依頼書の絵を見ながら頭に思い浮かべると、キチンと絵と同じ薬草や木の実が出てきました。

「マジックバックか、初心者なのにいい物持ってるな。
どれ、ぱっと見間違ってない様だし、これは裏の買い取りカウンターに持って行ってくれ。
そこで買い取り完了書を持ってきてくれれば依頼完了だ」

どうやら仕事は完全分業制で、窓口の職員は査定…鑑定ができないので、買い取り窓口まで持っていかなければならないそうです。
逆に買い取り窓口の職員は、次から次へと持ち込まれる依頼品の鑑定や、買い取り品の鑑定と査定などで忙しく、依頼完了の手続きをしていられないので、書類にハンコを押すそうです。

それを持って支払い窓口で、依頼料や買い取りの代金を受け取って、受付で依頼達成の手続き……頭の中に『たらい回し』と言う言葉が浮かんできますね。
どの世界でもお役所仕事は似たようなものですねぇ。

私達はまず買い取り窓口へ行き、ハンコを貰い、支払い窓口で最初の3件の代金と、薬草などの代金を受け取り、再びガルガスさんの元へ。
そこで依頼達成手続きをした。

「ランク9はこのままやっといていいな?
ランク8の戦闘テストは明日でも大丈夫だぞ、予約しとくか?」
「戦闘テストは武器を準備しておかないといけませんよね?」
「そうだな、魔法職なら武器はいらねえけど、武器で戦うのなら、どんだけ武器が使えるかを見るんだから、武器は無いとな。
なんなら貸し出しもあるし」

どうやら武器を買うお金を貯める為にも、ランク8まで上げると言う方も少なくないそうです。
剣や槍はギルドで貸し出しもしていて、自分の武器を購入するまで、有料ですが借りると言う方法も有るそうです。
勿論壊したり無くしたりすると弁償ですけど。

最初に貸出品を使うことで、実際に武器を手に入れても粗雑に扱わなくなると、ギルドは積極的に貸し出しをしているそうです。
雑に扱ったり、武器の手入れを怠ると、危険性が増しますけど、わかっていない新人冒険者も多いようです。
壊れると弁償ですから、メンテナンスもきちんとやるようになるとか。

貸し出しだと弁償で済みますけど、頑張って貯めたお金で買った武器が壊れると、なかなか辛いですよね、気持ち的にもお財布的にも。
なのでギルドは積極的に貸し出すそうですよ。


私の武器は特殊ですし、明日には出来上がりますので、明後日に予定を入れてもらいました。
チャックとシナトラも、私と同じ日程にするそうです。

ギルドを出たシナトラは、
「もっと剣の練習しなきゃね」
と意気込んでいます。
「別に戦うわけじゃないんでしょ?
どれだけ武器が扱えるか見るだけって言ってたから、素振りでもしてれぱ充分なんじゃない?」
「そうですね、私も明後日武器が出来上がったら、久しぶりに素振りをしないと、鈍っているでしょうね」

ふふふ、早く専用武器を手に入れたいですね。


宿へ戻ると、一階の酒場でブルースが待っていました。
「おお、遅かったな、待っておったぞ」
「おっちゃんどうしたの?
僕もおっちゃんに用事があるんだ」
ご機嫌な様子のブルースに、シナトラが駆け寄っていきます。

「まあ、我の話を先に聞け」
言いながらブルースがカードを取り出しました。
「ほら、どうだ!もうランク8だぞ。
もう少し上げたかったが、討伐に出るには遅い時間だったからな。
今日のところはこの辺で勘弁してやったぞ。
明日にでもランク7…いや、6まで行くやもしれぬな」

満面の笑顔のブルースに、空気が読めないシナトラが、
「僕達もランク9の依頼まで終わったよ。
ランク8の試験も受けるかって言われたけど、父ちゃんの武器がまだだから、今度にしたんだ。
武器さえあればランク8だったんだから、僕達もおっちゃんと一緒だね」
……あ、ほら、ブルースの顔が固まってしまったじゃないですか。

「ぬぅ、しかしな、我は試験も受かっているのだぞ。
我の方が凄かろう」
「えー、でも試験?は武器が使えれば戦って勝たなくても受かるって聞いたよ?
だから明日剣の振り方を見てくれる?」
シナトラ…悪気がないのはわかりますけど、ブルースが凹んでいるのにも気付いて下さいよ。

「わ、我は明日も忙しいから、お前の面倒など見ておる暇がない」
「えー、剣の使い方教えてくれるって言ったのおっちゃんじゃん」
「ぐぬっ…基本は教えてやったろ、それで試験は受かる。
なにせ簡単な試験だからな」
「簡単だからおっちゃんもすぐに受かったんだ」
……シナトラ、もう口を閉じた方が…あ、チャックが物理的に口を塞いでくれました。







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