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第二章 旅は道連れ
25 ツッコミ要員は一人です
しおりを挟む「さて、では折角ですので、【マジックバック】を鞄に付与して、荷物を片付けてはどうですか?」
アインに言われましたけど、そうですね、明日の朝にはこの神殿(?)を出ますから、今夜のうちにマジックバックとやらを作って(?)荷物を移し替えておけば、身軽に旅ができますね。
「それで、どうすれば良いんですか?」
物知りなアインに尋ねると、
「え?知りませんよ」
と言われてしまいました。
「私【時空魔法】使えませんし。
知識として【時間】や【空間】というモノは知っていますけど、その概念は分かりませんし」
「だから珍しい魔法なのだと言っただろ」
はて、ブルースはそんな事言いましたかねえ?
アインにも分からないことが有るのですね、などと、当たり前なことに今気づきました。
この世界のことなら知らないことはないのだとばかり思っていましたよ。
とりあえず、分からないことはタブレットで教えてもらえますよね。
タブレットで調べたところ、マジックバックにしたい鞄に魔力を流しながら、この鞄は別の空間に繋がっているとイメージする事、そのイメージはあやふやではなく、しっかりとイメージする事、だそうです。
私はイメージしてみました。
カバンの中に物を入れると、入れられた物は、だだっ広い空間にふよふよ浮いています。
それを取り出すにはあのポケットの様に、手を入れゴソゴソしながら欲しい物を思い浮かべると、ふよふよ浮いている物が、自然と手に吸い寄せられ、鞄から手を出すと、その手には欲しい物が握られている、そして『チャララランランラ~ン』と音楽……は要らないですね。
子供っぽい考えに思わずクスッと笑ってしまいました。
後は魔法を発動する為の名前ですね。
四次元…はまずい気がしますので、【異次元カバン】ですかね……いえ、咄嗟に出し入れする事も考えると、短い方が良いのでしょうか?
もしかしてこれも秘密にしないといけないのかも知れませんし、そのままズバリ【異次元】などと言って物を出すとバレますよね?
短くて、人にバレない様な名前……よし、決めました。
私は飲み物の入ったカップをウエストポーチに近づけながら、決めた魔法名を声にします。
「入れる【ダス】」
ウエストポーチに触れるか触れないかの所で、手にしたカップが消えました。
成功したのでしょうか?
ウエストポーチの上部の蓋…かぶせとか言いましたかね、それを開けて手を入れてみると、中に入れたナイフと小袋と手拭いが手に当たります。
カップは有りません。
手をそのままポーチに入れたまま、次の呪文を唱えます。
「カップを出す【ダス】」
すると、ポーチに入れた手が、何の抵抗も感じなくなり、すぐにカップが掌に触れました。
そのまま引き抜くと、中身の入ったままのカップがスルリと出てきたでは有りませんか!
中身も溢れていませんよ、ポーチから出す時に横向きになっていたのに。
不思議ですねえ。
「できました」
覚えやすさで決めましけど、入れた物を『出す』とは、親父ギャグですね。
思わず笑顔になりながら、皆に顔を向けると、4人とも変な顔をしています。
「………いや、規格外だとは分かっておったが…」
「こんな短時間で習得できる物でしたかねえ、【時空魔法】って」
「ジョニー父ちゃん今のって凄い……んだよね?」
規格外だなんて、ブルース、何度も言い過ぎではありませんか?
それよりシナトラの『ジョニー父ちゃん』は呼ばれると嬉しいもんですね。
先日その呼び方は…と禁止しましたけど、もう父ちゃんで良いです。
「いや、まずはその発動呪文に突っ込もうよ!
出すダスって何だよ!」
チャックは相変わらずですねえ、ええと、突っ込み要員とか言うポジションなのでしょうか。
「魔法の呪文は覚えやすいのが一番かと思うのですが。
それに人前でうっかりマジックバックの魔法を持っているとバレないためにも、変えた方が良いと思ったのですが」
アインに「どうなんでしょう」と尋ねたところ、やはり人にはあまりバレない方が良いそうです。
「しかし、マジックバックは【付与魔法】になりますから、一度かけてしまうとそのままそのカバンはマジックバックになるはずなのですが…」
「 ? 普通にカバンの中身も出せますよ?」
ホラ、とナイフを取り出します。
それを見たアインは、こめかみに指を当てて眉間に皺を寄せました。
「どうやらジョニーのイメージで条件付けされた様ですね。
普通ならマジックバックになったカバンは、それまでの用途で使うことはできないはずです。
(貴方の頭の中は)どうなっているのでしょう?」
「ええと、そうですね…」
私はナイフを鞘から取り出し、ポーチに近づけて、呪文を唱えます。
「ナイフを入れるダス」
ナイフは異次元へ移動した様ですね。
そしてポーチに普通に手を入れます。
ポーチの深さは10センチも有りません。
広げた手のひらの半分程入った所で、ポーチの底に当たり、それ以上は入りません。
「このポーチだと、ここまでしか手が入らないんですけど……」
皆が現状を見たのを確認して、次の呪文を唱えます。
「ナイフを出すダス……ほら、出そうとすると、カバンの中が異次元に繋がるようで、手がどこまでも入っていきます」
言いながら手をグンと差し込むと、掌にナイフの持ちで…ハンドル部分と言うんですかね、そこが手に触れました。
ナイフを握り、更に手を差し込みますと、なんと腕の付け根まで入りましたよ。
不思議なのはもちろんですが、見た目的にシュールですよね。
4人がとても引いてる気がします。
まあ、ここまで手を入れる必要は無いですよね。
目的の物はすぐに掌に収まる様ですから。
私は手を引き抜き、ナイフを異次元から回収しました。
「うん、ちゃんと刃が当たることなく出せましたね。
これは便利そうです」
先程も、カップの中身は溢れなかったし、ナイフは鞘から出しているから、手を切る事もあるかと思ったのですが、安全性も問題ない様ですね。
私が納得しているところに、シナトラの絶叫が響きました。
「こ、怖いよ!ジョニー父ちゃん!
カバンに食われるかと思ったよ!」
「ナイフを鞘から出してカバンに入れるなんて何してんの⁈
もし失敗してたら、鞄を突き破ってナイフが刺さったかもしんないじゃない!
それに見えないカバンの中で刃を握っちゃったらどうすんの⁉︎
ホント信じらんない!
何考えてんのさ!!」
チャックも顔を真っ赤にして詰め寄ってきます。
「あ~、其奴らの言う通りだな。
お前は何もかもいきなりすぎだと思うぞ」
ブルースも呆れ顔です。
それより何より……
「ジョニーさん、貴方が規格外なのは置いといて、いきなり実践するのはいかがなものでしょう。
それは実際にやってみなければ、成功しているかは分かりませんが、もう少し安全面を気にするべきだと思うのは、私のお節介なのですかねえ。
今の貴方の行いは、歩き始めた幼児が、剣を手に戦場に立つ様なものですよ。
もっと順を追うことはできなかったのですが?」
こ…怖いです。
部屋の温度が3度は下がった気がします。
私としては、安全面の確認も兼ねてでしたし、怪我をしても回復魔法でなんとかなると思ったのですけど、確かに周りのことは気にしていませんでしたね。
もしチャックが同じ事をしたら、危ないからと叱っていたかもしれません。
「すみませんでした……」
ここは私が悪いですから素直に謝ります。
妻にもよく怒られていたんですよね。
「貴方の行動力は素敵だと思うけど、思い立ったら即行動の前に、ちょっとだけでも考えて下さい。
無茶ばかりして、私の寿命を縮める気ですか?」
と……。
……もしかして、私が心労をかけたから病気になったのですかねえ……………。
あ、目の奥が熱くなってしまいました。
涙がこぼれないよう上を向くと、焦ったような声がかけられました。
「い、いや、落ち込むことは無い。
すぐさま魔法を行使できるお前は凄いやつだぞ」
言いながらブルースは肘でアインをつつきます。
「そうですね、以前暮らしていた世界の知識でしょうけど、複雑なイメージができているから、みた事もないような性能になっているのでしょうね。
凄いことは凄いですので誇って下さい。
でも他人に言いふらすのはダメですけどね」
焦ったようなアインの言葉に、涙を浮かべていたシナトラは、
「おお、魔族の王様にも認められる凄い魔法を考え出したって、ジョニー父ちゃんって凄いんだね」
アインにキツく言われたからショックを受けたというわけでは無いのですが、皆が私に気を遣っているのがわかります。
私は笑おうとしたのですが、
「それでも…危ない事をしたのはアンタなんだから、これからは気をつけてよね。
………オレ達家族のためにも無茶はダメだからね!」
チャックの言葉が、妻の言葉に重なって、私はチャックを抱きしめ、涙を流して泣いてしまいました。
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