【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

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第二章 旅は道連れ

20 魔王様も規格外ですね

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たった今『真名は迂闊につけてはならない』と言う話をしたばかりなのに、真名を付けろと言うヨルゼル氏の矛盾に首を傾げます。

「貴方には名前が有りますよね?
それに真名は危ないのではないのですか?」
「そうですね、でも私は貴方の真名を聞いてしまいましたし。
それにこれからもあなた方に知恵を授けるのも楽しそうですしね」
「楽しそう……ですか?」

不思議そうな顔をしてしまったのでしょうか、ブルースが口を挟んできました。
「我もソイツも寿命が長い故、退屈を感じているのだよ。
面白そうな事が有ればノルだろ?」

聞くところによりますと、ブルースは亜人でも特殊なドラゴン…王様トカゲなので、四桁近く寿命があるそうです。
ヨルゼル氏も、魔族ですが、一度真名を得たので、魔力の貯蔵量が増え、寿命もブルースに近いくらいに伸びているそうです。
魔力量が増えた事で、魔族を束ねる立場、魔王をやられているそうなのですよ。

「魔族の王様ですか…、その王様が私と行動を共にしてもいいのですか?」
「その為の真名ですよ」
「此奴ほど魔力が有れば、真名を得る事で、分裂ができる故、一人はこのまま魔族の王を、一人は我等と共に行動ができるのだ」
「分裂ですか?」
「私達魔族は他の生命体の様に、異性と交わって子孫を残しません。
体内に貯めた魔力で分裂する事で増えます。
分裂して別の命を歩みますが、元は一つの魂ですので、思考などを共有することもできますし、なかなか便利なのですよ」

タブレットで『魔力をどうにかして子孫を増やす』と言うのは分裂することだったのですね。

「勿論、魔力も魂も分けるので、魔力が豊富で強い魂(いし)が無いとできません。
一度分かれてしまうと、別の生を歩むのですけど、意思と魔力は共有できるので、寿命も伸びるのですよ。
魔族の寿命は魔力量で決まりますから」
意思を共有ですか、テレパシーと言いますか、双子のシンパンジー?とか言うやつですかね、随分と独特な種族なんですね。
「それに一番必要なのが真名となるのです」

『魂を別の相手に寄り添わせ、真名を付けることによって相手の中に存在を固定し、それを上回る魔力で、同一の別存在を確立する………』
と言われましたけれど、よくわかりません。

「因みに、そんな規格外な事ができるのはソイツだけだぞ」
「自分の意思で元の姿と人の姿を変化させられる貴方に言われたく有りません」

ブルースが元の姿に変化して空を飛んだ事は、やはり普通ではないそうです。
どうやら【以前名を持ち、人の姿で暮らした後、名を返されて王様トカゲの姿に戻ったことにより、溢れる魔力で人の姿から王様トカゲの姿に戻れる】のだそうです。
説明を聞いてもよく分かりませんが…。

とにかく王様トカゲから人の姿に戻る引き金として、名付けた私が名前を呼ぶ必要があるそうです。
但し、名付けで亜人になっているのに無理やり魔力で元の姿に戻っているだけなので、長時間元の姿のままでいると、大変なことになるそうです。

「名前がトリガーですが、それは名付けたジョニーさんにしかできない事です。
貴方に呼ばれなければ王様トカゲの姿のままで、魂に刻まれた姿と現実の姿の矛盾により、どちらの姿も保てなくなるでしょう」
「姿が保てなくなる?」
想像ができずにブルースを見れば、彼は肩を竦めて、
「砕け散るか溶けてなくなるか」
表情を変えずに言いますが、私の方が驚きです。

「そんな危ない橋を渡っているのですか?」
私がうっかり真名をつけてしまっただけでも、操られるかも知れなくて危ないのに、この場所まで私を運ぶ為に命の危険まで侵していただなんて。
血の気が引いてきます。
きっと今私は青い顔をしているでしょう。

「元の姿に戻ったからと言えども、すぐさま危険になるわけではない。
それよりコイツに早く引き合わせたかったしな。
何よりこれからも我は元の姿に戻るぞ。
我のことが心配なら、離れずにいつでも名前を呼べる場所にいろ」
「それは勿論です。
でも自分から危険な事はしないでください」
私が心配しているのに、ブルースとヨルゼル氏は顔を見合わせて笑っています。

「いや、すまぬ、お前を笑っているのではない。
普通なら我が元の姿に戻れると聞けば、人の姿より力も強いし空も飛べる、魔法もより威力があるから、どうやって上手く使おうかと考えるだろう。
なのにお前は我を心配する気持ちの方が強いのか」
「当たり前でしょう、貴方と私は家族…いえ、仲間でしょう?」
こちらは真面目に言っているのに、二人とも笑顔のままです。

「もう家族で良い。
命の危険など生きていればいつ襲い掛かってくるかわからぬ。
気の遠くなる様な長い寿命をなんの変化のないまま、ただ生きている苦痛を考えれば、例え寿命が縮まろうとも、刺激のある…そうだな、楽しい生き方を選ぶのは間違ってはおらぬだろう?」
「そうですよ、死んだ様にダラダラと命を繋ぐより、起伏の激しい生き方の方が素晴らしい生き様だと思いますよ」

言いたい事はわかりますけれど、楽しいとかだけで選んでいいのでしょうか?

「我が選んだ道だ、お前が責任を負う様なモノではない」
「そうそう、貴方が今のままなら、私達は皆幸せな気持ちで楽しく生きていけますよ」

あまり納得はしたく有りませんが、理解はできますので、私は受け入れることにしました。

いざ名前を付けようとして思い出したのですが、そもそも名付けとは、【動物を亜人にする】儀式(?)ですよね?
魔族の方は最初から亜人…人の形をしてますけど?
それに名前も有りますよね?
この名付けに意味があるのですか?

口に出して尋ねましたら、そもそも亜人化をされるのは、伴侶や子供を作る代わりに自分の眷属を増やすためのモノなんだそうです。
血の繋がりの代わりに、魂の繋がり……という感じなのでしょうか。
なので、生まれた時から真名を持っている人族は、真名の交換をして、強く結びつけるのだとか。
亜人の方々は、お互いの真名を付け合うそうです。

説明を聞き成る程と思いましたけれど、そうなるとこれは私とヨルゼル氏の結婚になるのでは?

「いえ、魔族は少々特殊ですから、真名が増えると真名の数だけ分裂するだけなんですよ。
他の亜人と違って結婚はしませんから。
他種族で言う結婚とは違い、分裂したいと考えている相手と真名を付け合う事で分裂し、種を増やします。
他種族の方が相手だと、結婚はしますけど、子供はやはり分裂で増やします。
その場合ですと、相手に魔力を渡して、魔力を混ぜ合わせ子供ができます。
魔力の塊ですから、相手の見た目を持った魔族になってしまいますけれど。
つまり、魔族の魔力を使う以上、魔族しかできないんですよね。
ですから、他種族の方と結ばれる魔族は殆ど居ません。
また、魔族同士で真名を付け合い分裂しても、本体の魔力によって分裂した方は子供のサイズになります。
大人と子供の意思を共有しますから、魔族は知恵者が多くなるのですよ」

話が長くなりましたね、とヨルゼル氏は笑います。
魔族とは本当に不思議な種族ですね。
まだまだこれから分からない事もたくさん出て来そうです。
知識を持ったヨルゼル氏の同行はありがたいですから、難しいことは後回しにしましょうかね。
名前……頭の良い方ですから、頭の良い偉人から付けましょうか…。

「では、貴方の名前は……どちらにしましょうかね……。
アイン(シュタイン)でどうでしょう?
元の世界の天才物理学者の名前です」

「天才の名前………ふふふ、私にピッタリですね」
どうやら満足していただけた様です。
これで私は四人の命を預かってしまった事になります。
皆を不幸にしない様、気を引き締めないといけませんね。

「他にも色々話したい事は有りますが、一旦休憩にしましょう。
そちらの子供が…」
言われて視線を向けると、ずっと大人しかったシナトラが机に突っ伏して寝ています。
「退屈だったんでしょうね。
何か上に掛ける物を持ってきましょう」
アインが部屋から出て行き、ブルースは伸びをしています。
チャックは話を聞いていた様で、何か考え込んでいます。

私は冷えたお茶でも喉を潤し、聞いた話を頭の中で整理をしました。




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