【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

文字の大きさ
上 下
20 / 206
第二章 旅は道連れ

20 魔王様も規格外ですね

しおりを挟む
たった今『真名は迂闊につけてはならない』と言う話をしたばかりなのに、真名を付けろと言うヨルゼル氏の矛盾に首を傾げます。

「貴方には名前が有りますよね?
それに真名は危ないのではないのですか?」
「そうですね、でも私は貴方の真名を聞いてしまいましたし。
それにこれからもあなた方に知恵を授けるのも楽しそうですしね」
「楽しそう……ですか?」

不思議そうな顔をしてしまったのでしょうか、ブルースが口を挟んできました。
「我もソイツも寿命が長い故、退屈を感じているのだよ。
面白そうな事が有ればノルだろ?」

聞くところによりますと、ブルースは亜人でも特殊なドラゴン…王様トカゲなので、四桁近く寿命があるそうです。
ヨルゼル氏も、魔族ですが、一度真名を得たので、魔力の貯蔵量が増え、寿命もブルースに近いくらいに伸びているそうです。
魔力量が増えた事で、魔族を束ねる立場、魔王をやられているそうなのですよ。

「魔族の王様ですか…、その王様が私と行動を共にしてもいいのですか?」
「その為の真名ですよ」
「此奴ほど魔力が有れば、真名を得る事で、分裂ができる故、一人はこのまま魔族の王を、一人は我等と共に行動ができるのだ」
「分裂ですか?」
「私達魔族は他の生命体の様に、異性と交わって子孫を残しません。
体内に貯めた魔力で分裂する事で増えます。
分裂して別の命を歩みますが、元は一つの魂ですので、思考などを共有することもできますし、なかなか便利なのですよ」

タブレットで『魔力をどうにかして子孫を増やす』と言うのは分裂することだったのですね。

「勿論、魔力も魂も分けるので、魔力が豊富で強い魂(いし)が無いとできません。
一度分かれてしまうと、別の生を歩むのですけど、意思と魔力は共有できるので、寿命も伸びるのですよ。
魔族の寿命は魔力量で決まりますから」
意思を共有ですか、テレパシーと言いますか、双子のシンパンジー?とか言うやつですかね、随分と独特な種族なんですね。
「それに一番必要なのが真名となるのです」

『魂を別の相手に寄り添わせ、真名を付けることによって相手の中に存在を固定し、それを上回る魔力で、同一の別存在を確立する………』
と言われましたけれど、よくわかりません。

「因みに、そんな規格外な事ができるのはソイツだけだぞ」
「自分の意思で元の姿と人の姿を変化させられる貴方に言われたく有りません」

ブルースが元の姿に変化して空を飛んだ事は、やはり普通ではないそうです。
どうやら【以前名を持ち、人の姿で暮らした後、名を返されて王様トカゲの姿に戻ったことにより、溢れる魔力で人の姿から王様トカゲの姿に戻れる】のだそうです。
説明を聞いてもよく分かりませんが…。

とにかく王様トカゲから人の姿に戻る引き金として、名付けた私が名前を呼ぶ必要があるそうです。
但し、名付けで亜人になっているのに無理やり魔力で元の姿に戻っているだけなので、長時間元の姿のままでいると、大変なことになるそうです。

「名前がトリガーですが、それは名付けたジョニーさんにしかできない事です。
貴方に呼ばれなければ王様トカゲの姿のままで、魂に刻まれた姿と現実の姿の矛盾により、どちらの姿も保てなくなるでしょう」
「姿が保てなくなる?」
想像ができずにブルースを見れば、彼は肩を竦めて、
「砕け散るか溶けてなくなるか」
表情を変えずに言いますが、私の方が驚きです。

「そんな危ない橋を渡っているのですか?」
私がうっかり真名をつけてしまっただけでも、操られるかも知れなくて危ないのに、この場所まで私を運ぶ為に命の危険まで侵していただなんて。
血の気が引いてきます。
きっと今私は青い顔をしているでしょう。

「元の姿に戻ったからと言えども、すぐさま危険になるわけではない。
それよりコイツに早く引き合わせたかったしな。
何よりこれからも我は元の姿に戻るぞ。
我のことが心配なら、離れずにいつでも名前を呼べる場所にいろ」
「それは勿論です。
でも自分から危険な事はしないでください」
私が心配しているのに、ブルースとヨルゼル氏は顔を見合わせて笑っています。

「いや、すまぬ、お前を笑っているのではない。
普通なら我が元の姿に戻れると聞けば、人の姿より力も強いし空も飛べる、魔法もより威力があるから、どうやって上手く使おうかと考えるだろう。
なのにお前は我を心配する気持ちの方が強いのか」
「当たり前でしょう、貴方と私は家族…いえ、仲間でしょう?」
こちらは真面目に言っているのに、二人とも笑顔のままです。

「もう家族で良い。
命の危険など生きていればいつ襲い掛かってくるかわからぬ。
気の遠くなる様な長い寿命をなんの変化のないまま、ただ生きている苦痛を考えれば、例え寿命が縮まろうとも、刺激のある…そうだな、楽しい生き方を選ぶのは間違ってはおらぬだろう?」
「そうですよ、死んだ様にダラダラと命を繋ぐより、起伏の激しい生き方の方が素晴らしい生き様だと思いますよ」

言いたい事はわかりますけれど、楽しいとかだけで選んでいいのでしょうか?

「我が選んだ道だ、お前が責任を負う様なモノではない」
「そうそう、貴方が今のままなら、私達は皆幸せな気持ちで楽しく生きていけますよ」

あまり納得はしたく有りませんが、理解はできますので、私は受け入れることにしました。

いざ名前を付けようとして思い出したのですが、そもそも名付けとは、【動物を亜人にする】儀式(?)ですよね?
魔族の方は最初から亜人…人の形をしてますけど?
それに名前も有りますよね?
この名付けに意味があるのですか?

口に出して尋ねましたら、そもそも亜人化をされるのは、伴侶や子供を作る代わりに自分の眷属を増やすためのモノなんだそうです。
血の繋がりの代わりに、魂の繋がり……という感じなのでしょうか。
なので、生まれた時から真名を持っている人族は、真名の交換をして、強く結びつけるのだとか。
亜人の方々は、お互いの真名を付け合うそうです。

説明を聞き成る程と思いましたけれど、そうなるとこれは私とヨルゼル氏の結婚になるのでは?

「いえ、魔族は少々特殊ですから、真名が増えると真名の数だけ分裂するだけなんですよ。
他の亜人と違って結婚はしませんから。
他種族で言う結婚とは違い、分裂したいと考えている相手と真名を付け合う事で分裂し、種を増やします。
他種族の方が相手だと、結婚はしますけど、子供はやはり分裂で増やします。
その場合ですと、相手に魔力を渡して、魔力を混ぜ合わせ子供ができます。
魔力の塊ですから、相手の見た目を持った魔族になってしまいますけれど。
つまり、魔族の魔力を使う以上、魔族しかできないんですよね。
ですから、他種族の方と結ばれる魔族は殆ど居ません。
また、魔族同士で真名を付け合い分裂しても、本体の魔力によって分裂した方は子供のサイズになります。
大人と子供の意思を共有しますから、魔族は知恵者が多くなるのですよ」

話が長くなりましたね、とヨルゼル氏は笑います。
魔族とは本当に不思議な種族ですね。
まだまだこれから分からない事もたくさん出て来そうです。
知識を持ったヨルゼル氏の同行はありがたいですから、難しいことは後回しにしましょうかね。
名前……頭の良い方ですから、頭の良い偉人から付けましょうか…。

「では、貴方の名前は……どちらにしましょうかね……。
アイン(シュタイン)でどうでしょう?
元の世界の天才物理学者の名前です」

「天才の名前………ふふふ、私にピッタリですね」
どうやら満足していただけた様です。
これで私は四人の命を預かってしまった事になります。
皆を不幸にしない様、気を引き締めないといけませんね。

「他にも色々話したい事は有りますが、一旦休憩にしましょう。
そちらの子供が…」
言われて視線を向けると、ずっと大人しかったシナトラが机に突っ伏して寝ています。
「退屈だったんでしょうね。
何か上に掛ける物を持ってきましょう」
アインが部屋から出て行き、ブルースは伸びをしています。
チャックは話を聞いていた様で、何か考え込んでいます。

私は冷えたお茶でも喉を潤し、聞いた話を頭の中で整理をしました。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...