【完結】先だった妻と再び巡り逢うために、異世界で第二の人生を幸せに過ごしたいと思います

七地潮

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第二章 旅は道連れ

13 二人目の家族

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傷口の塞がった虎がゆっくりと立ち上がります。
おお、大きいですねえ。
間近に虎を見たのは初めてですけど、虎は肉食獣なのですよね?
もしかして食べられてしまうのでしょうか?
それにしても……

「とても綺麗ですねえ…ため息が出ます。
野生の肉食獣の美しさとは、何と素晴らしいものなのですね。
このどっしりとした足で大地を蹴り、走る姿は神々しくもあるのでしょう。
それに見ていると触りたくなるその毛艶、きっと素晴らしい手触りなのでしょうね。
鳥しか飼ったことが無いのですが、犬や猫も飼ってみたかったですねえ」

思わず言葉が口を突いて出ました。
野生の動物はとても生命力に溢れていて、とても美しいです。
それにこれほど間近で見る機会はありませんでしたからね。
食べられるかもしれないという恐怖より、美しさにため息しか出ません。

私の言葉がわかったのか、虎はまるで猫が顔を洗うように、前脚で顔をグリグリしています。
どうやら怪我はすっかり癒えたようですね。
しかしまあ、この大型肉食獣の可愛い仕草がなんとも……こう言うのは『ギャップ萌え』とか言うやつですかねえ。
……背中から呆れた気配がしますけれど、気にしません。

私がニコニコと虎を観察していると、彼(彼女ですかねえ)は近寄って来て、なんと、頭を私にすり寄せるでは無いですか!
可愛すぎです、思わずその大きな頭を撫でました。
おお、凄いですよ、これぞまさしく『ビロードの手触り』です。
もしやこれが、会社で若い女性が毛玉のキーホルダーを触りながら言っていた『もふもふ』と言うやつですか!

私が毛並みに沿って撫でると、体中ですり寄ってきます、本当に可愛いですねえ。
虎が近づいてくるのと同時に背中から離れ、距離を置いたチャックが大きな声をあげました。

「ああ!こいつマーキングしている!」

マーキング……気に入った場所や物に、匂いをつけて自分のものと主張する、とか言う行動ですよね?
私はこの子に気に入られたのでしょうか?
それなら私の家族になってくれないでしょうかねえ。
こんなにカッコよくて可愛い子が家族になってくれると、とても喜ばしいことなのですが。

「ねえ君、良ければ僕の家族にならないかい?
チャック…あの子のように亜人になって、僕と一緒に行かないかい?」
頭を撫でながら言うと、一層強く体を擦り付けてきました。
これは了承の意味で良いのでしょうか。

「それじゃあ名前をつけて良いかな?」
「グルルル…」
「そうだね、虎縞だからマイケル……いや、もっと強そうな名前がいいかな………」
虎ですこら、タイガーマス…いえ、それはあまりにもですね。
ではやはりあれですか。
フルネームはやはり長いですから…

「シナトラ、君の名前は(フランク)シナトラだ」

名前を口にすると、チャックの時と同じように、虎の体がぽうっと光り、滲み、人の形になって行きます。
光が収まると、そこには二十歳(はたち)くらいの、緑色の髪の毛に黒いメッシュの入った男性が立っています。

「うわー、僕人になっちゃったよ、凄くない?
二本足で立ってるよ!遠くまでよく見えるよ、凄くない?
あ、鳴き声じゃない、これ人の言葉になってるの?
ねえねえ、僕の言葉通じてる?」

…なんと申しましょうか、どっしりと構えていて、とても威厳がありましたので、年齢の行った方かと思っていましたけれど……言動が幼い?

「ねえねえお兄さん!僕ちゃんと喋れてる?」
「あ、ああ、人の言葉を喋っていますよ」
動揺しているのでしょうか、普段の言葉遣いと、外での言葉遣いが混じってしまっていますね。
深呼吸でもして少し落ち着きましょうか。

「お兄さんありがとね、怪我治してくれて。
木から落ちるなんて思ってなかったよ、痛かったー」
離れて様子を見ていたチャックが背後に戻って来て、私の背中から顔を出してシナトラに話しかけました。

「おい、お前、酒の木から落ちたのか?」
「そうだよ、実がなってるから食べようと思ったのに、酸っぱかったー!」
「お前バカか?
まだ熟してないから酸っぱいに決まってるでしょ!」
「えー、知らなかったんだもん、前食べた時は美味しかったから、おんなじ味かと思ってんだもん。
酸っぱいなんて知らないし」

話しかけていると言いますか、喧嘩を売っています?

「お前まだ子供だな?」
「子供じゃないよ!独り立ちしたんだもん!」
「じゃあ生まれて何年だ?」
「もう一年だよ、僕大人じゃない?」
「やっぱり子供じゃん、オレ生まれて5年だよ!」
ふふーんと胸を張るチャックが可愛いですねえ。

しかし見た目ですと、チャックは10歳くらいに見えて5歳、シナトラは二十歳半ばに見えて1歳ですか。
動物の年ですから、人間の年齢に直すと違ってくるでしょうけれど、生まれて1年と5年では、やはりチャックの方が年上で間違い無いですね。

三人で焚き火の場所まで戻ります。
鍋に魔法で水を出し、火にかけて温めたまではいいのですが、コップが一つしかないですねえ。
回し飲みでいいでしょう、体が温まればいいのですから。

「そもそもあんた回復なんて使えたの?」
チャックに聞かれましたので、私はこれまでの経緯を二人に話して聞かせました。

死んでしまったのに第二の人生を歩む羽目になった事、妻に再び会う為にポイントを貯める事、幸せになるとポイントが貯まる事、そのポイントの景品交換で、新たな能力がもらえる事。

「チャックと家族になれて幸せだなと思ったら、初めてのポイントが貯まっていました」
そう告げると、チャックの顔が赤くなりました。
「そ、そりゃあオレが居れば幸せに感じるのは当たり前だよ、オレってとっても凄い奴なんだから」
「ふふふ、そうですね」

「でも、あんたの場合まず最初に料理ができるようになった方が良かったんじゃないの?
だって人間って確か果物だけじゃ生きていけないって聞いたけど」
やはりチャックは物知りのようです。
「そうですね、次にポイントが貯まったら、料理ができるようにしますね。
ありがとう、チャック」
「べ…別に当たり前のことだし?
礼なんて言われるような事じゃないし?」
本当に微笑ましい。

そんな私達のやり取りを、シナトラが見つめています。
何か言いたい事が有るのでしょうか。





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