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第二章 旅は道連れ

12 異世界は動物の色も不思議ですね

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「信じられない!
何考えてんだよ!」
飛んで行った洗濯物は、チャックが回収して来てくれました。
いや、失敗しましたね。
今度は箱が何かに入れてから試してみましょう。
今日は生温いドライヤーで、気長に乾かすしかないですね。

少しずつ乾かしていって、なんとかなったのは昼過ぎです。
干して乾かすよりは早かった……のでしょうか?
気を取り直して出発ですよ。


空を飛ぶチャックの先導で、道無き道を進みます。
しかしながら、背丈の高い草を木刀ならぬ木の枝で、払いながらの道行は、思ったほど進みません。
もっと森の奥深くに入れば、陽が届かないので下草もそんなに生えていないでしょう。
森の端辺りは木がまばらなので、雑草がとても元気です。
何とか日暮れまでには草の背丈が低い場所へ辿り着きたいですね。
でないと焚き火もできません。

それにしてもチャックは物知りですね。
「あ、その白い草の下に甘い実がなってるはずだよ、下の方を見て」
「その茶色い葉っぱは甘くて美味しいよ」
甘いものばかりですが、食べ物はありがたいです。
しかし(正しい意味でも)道草を食ったお陰で、背丈の低い草のエリアに入ったのは、すっかり陽が落ちてからでした。

ずっと飛び続けて疲れたチャックは、今は私の背中です。
私がチャックを背負い、リュックはチャックが背負っています。
このまま横になれば『親亀の背中に子亀を乗せて~』みたいですね、ふふふ。

木の繁っているこのエリアは、太い樹々が多いですね。
両手を広げたより直径の方が長い木が、沢山生えています。

焚き木をする為に、土魔法である程度の範囲の地面を攪拌して地面を出し、火事を起こさない対策としました。
草を刈るより手っ取り早かったからの撹拌でしたけど、地面が湿っぽくなってしまい、チャックの視線が冷たいです。

焚き火にあたりながら、採取して来た草や実を食べ、タブレットを確認します。
地図などがないかと思い、画面に【地図表示】と書き込もうとしたら、画面真ん中の下に緑色の丸が点滅していました。
何かと思い押してみると

【ポイントが貯まりました 交換可能です】
と出ています。
その右には
【交換品の表示】
と有りましたので、それを押して画面を開いた時、


  ズザザザザーーー
 ベキベキベキ

奥の方から大きな音が響いて来ました。
何か重い物が落ちる音です。
このまま音の元を確かめないのも怖いので、私達は音のした場所へ行ってみることにしました。

音のした場所には不思議な形の樹が生えていました。
一本の樹なのでしょう、王冠の様に等間隔で太い幹が、円を描くように真っ直ぐに伸び、中央が窪んでいます。
木の枝葉は上部にしかなく、外から見ると蓋をするように、中央へ向かい伸びていて、遠くから見ると東屋の様に見えます。

その中央の窪みに、大きなスイカ……ではなく、緑色をした虎がこちらに背を向け丸まっていました。

私達が近づくと、顔を上げこみらを見ながらグルグルと、唸り声を上げましたけれど、立ち去る気配がありません。

「血の匂いがするよ」
シャツの裾を引っ張り、背後に隠れているチャックが私に告げます。
怪我をしているのでしょうか?
離れていても血の匂いがするほどの怪我なら大変です。
私はタブレットを開き、先ほどちらりと見かけた景品の、【回復】のボタンを押しました。
これで回復魔法が使えるようになった筈です。

「君怪我をしているんだよね?
僕は回復の魔法を使える筈だから、怪我を治してあげたいんだけど、近づいていいかな。
怪我を治す以外何もしないから」
話しかけますけど、警戒を解いてくれません。

「血が出る様な傷だと、バイキンが傷口から入って、破傷風にでもなったら歩けなくなるよ。
木の上から落ちたんだよね?
木の破片が入ってても大変だし、治療させてくれないかな」

なるべく優しい声で話しかけながら、じわじわと近づいて行きます。
威嚇の鳴き声は徐々に小さくなっていったので、きっと通じたのでしょう。
驚かせない様に、ゆっくりと近づきました。
近づくと、頭上の枝から、手のひらサイズのウリのような実が稔っているのが見えます。
あの実を食べるのに幹を登り、落ちたのでしょうか。

以前テレビでヒョウやチーターが、木に登っている映像を見た覚えがあります。
虎も木を登るのですね。

側まで寄り覗いてみると、右前脚が20センチ程切り裂かれて、肉が見えています。
落ちる時に枝に引っかけたのでしょう、とても痛そうです。
切り傷ですか…まずは傷口を洗い流して消毒しないといけませんね。

「傷口をきれいにしますから、染みるかもしれませんけど、我慢して下さいね」
水遣りで優しく傷口を流します。
それから消毒、イメージは、子供の頃からお世話になった、シュッとやってあわあわな消毒薬……

「マキ●ン」

傷口にあわあわが立ちます。
……どこから来ているのでしょうね?
大変染みる様で、虎はグルグル唸っています。

次は傷を塞ぐですか…縫合は無理ですし、そうですねえ、傷口をピタリとくっつけて、上に絆創膏を貼りそのまま時間が経って塞がる……というイメージはどうでしょう?
名付けるなら……

「傷パッチ」

唱えておいてなんですが、何と申しましょうか、若者言葉で「これじゃない感がスゲー」とでも言うのでしょうか。

まあ、傷口はイメージ通りに塞がっているようですから、気にしないでおきましょう。
ただ、手当てを受けている虎が、傷口と私を何度も見比べていますし、背中に張り付いているチャックが、
「ホント、何なんだよ、わかんないよこの人の魔法、普通ヒールとかハイヒールじゃない?
単純に回復とか、治癒とかじゃないの?
訳わかんないよ、ホント」
怒った口調でぶつぶつ言っていますけれど、聞こえなかったことにしましょう。

だって魔法はイメージが大切なのですよね?
回復や治癒は言葉の意味はわかりますけれど、イメージができません。
回復で治ったイメージはできても、どうやって回復するかが大切なのだと思うのですよ。

それに、悪役(ヒール)でなぜ治るのですか?
女性用靴(ハイヒール)でどうやって傷が塞がるのですか?
余計に怪我しますよ、アレは一種の武器ですからね。

傷を塞ぐならやっぱり傷パッチですよね。
それなら塞がるところまでイメージできますから。
なのでこれからも私は傷パッチ派です。




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