婚約破棄はお受け致しますけど、謝罪は致しませんわ

七地潮

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あら、これでも甘いと思いますわよ

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「ユリエッタ・ラグゥェル!
そなたはこの私、第一王子の婚約者と言う立場に相応しくない!
よって婚約破棄を申しつける!」

卒業式後のダンスパーティーで、卒業生やその保護者の集まるパーティー会場の中央で、この国の第一王子が、婚約者の公爵令嬢に向かって声を上げている。

その王子の後ろには、フルフルと震えるピンク色の髪の女性が一人。

その二人に向き合っているユリエッタは、扇で口元を隠し、おっとりと言葉を発する。


「あら、わたくし殿下やそちらの……えーと、すみません、最近殿下とよくご一緒にいらっしゃる方ですよね?
お名前を伺っても?」
「惚けるな!
お前はこのザットーイネに数々の嫌がらせをしているだろう!」

フルフルと震えるピンク…ザットーイネは、目に涙を浮かべて、『私、頑張って言います!』とばかりに、胸の前でぎゅっと両手を握り、震える声を出す。

「ユリエッタ様…あなたのした事わぁ~、全てホーヤネン君に聞いてもらいましたぁ~」
謝ってくらさぃ~」
「そうだ!謝れ!
まあ、私は謝ったくらいでは許すつもりはないがな!」

扇で隠してため息をついたユリエッタが、呆れた様に告げる。

「先ずは殿下、一々怒鳴らなくとも聞こえます」

(そやな)
会場中が心の中で頷く。

「それと、アザトイナさん?」
「ザットーイネですぅ~」
「あらごめんなさい、名は体を表すのかと思いましたわ」

(そやな)
頷く人々。

「え~、なんか難しい事言って話し逸らしてませんかぁ~。
それより謝ってくらさ「まず!殿下の事を君呼びするのはどうかと思いますよ」」

「ふぇ~~~ん、ホーヤネンく~ん、また酷いこと言われたのぉ~。
話も途中だったのにぃ~」
「よしよし、ザットーイネ、後でうーんと慰めてあげるから、今はこいつを断罪しような」
「え~~、ホーヤネンくんのぉ~、エッチ~」



(何言ってんだこいつら)
(あ、こいつらやってんな)
(語尾伸ばすのがウザい)
(いつまで続けるんだ?帰っていいかな?)
(え?コレで第一王子?)
(大丈夫、第二王子はまともだ)
(あー、廃嫡コースだね)
(追放もアリかもな)

会場中の心の声の一部でした。

話を3人に戻します。



「言いたい事はありますけど、婚約破棄は了承いたしました。
しかし謝罪は申し上げる必要を感じません」
「ザットーイネが謝れと言っているのだから、謝れ!」
「何もしていないのに何故謝るのですか?」

(どう考えても冤罪だよね)
王子達による茶番だと、皆理解しています。

「いっぱいいっぱい意地悪な事言ってイジメてきたじゃないですかぁ~、酷いですぅ~、うぇ~~ん」

(アイツしばいてもいいか?)
(いや、我慢しろ)
(どの道冤罪が晴らされた後は罰せられるから)
(陛下が居たら話は早かったのにな)

国王陛下は卒業式に出席した後、自分が居ると気を遣い楽しめないだろうと城へ戻ったので、この場には居ない。
優秀である第二王子も卒業生ではないのでここには居ない。

それをわかっていての婚約破棄騒動だ。
この騒ぎを収められるのは、ユリエッタ様だけだな、と皆の視線が集まる。



「意地悪な事…ですか………。
例えばそうですね…、王都新聞にあなたの誹謗中傷を記事にする様に言ったり、王都中のドレスショップに、あなたからの依頼を断る様にしたり……」
「え?いや、男爵家のくせにとか言ったりドレスにワインをかけたりとか」

「歩いているところに頭を目掛けてレンガを落としたり」
「いや、落とすのは噴水だし」

「口にする全てのものに毒を混入したり、馬車の車輪に細工をしたり、お屋敷に勤めている全ての方を、公爵家の息のかかった者と入れ替えればできるわね」
「え?ちょっと」

「あら、それよりお屋敷に火をつける方が簡単かしら?」
「何いいこと思いついちゃった、みたいな言い方してんのよ!
せめて町で暴漢に襲わせるでしょ!」
「あらあら、暴漢なんて不確実な。
暗殺者にしておかないと、失敗した時にこちらが責められますわ」
「こっわ!なにこの犯罪者!」

(確かに怖い)
(怖い…けど)

「あら、これでも次期王妃の予定でしたのよ。
やるのなら中途半端ではなく、やり切らなければならないわ。
証拠を残すなんて事をすれば、わたくしや公爵家のみならず、王家にも迷惑をかけることになるのですから」

(((そやな)))

青い顔をして、本気で震えるピンクと第一王子。

「なんなのよ!逆ハー狙わずに来たのに、なんでハッピーエンドにならないのよ!
イジメもして来ないけど、同じ転生者って訳じゃ無いみたいだし。
大体悪役令嬢ってこんなのじゃないでしょ!
こんなのって極悪令嬢じゃん!」

会場中の誰にも通じない事を叫ぶピンク。

(語尾伸びてないじゃん、やっぱり養殖アザトじゃん)
(そんな事だろうと思ってた)
(でもあの震えはガチだね)
(((だよねーー)))

「こ……こんな恐ろしい女と一緒になんてなれるか!!」
「あら、恐ろしいだなんて。
王族たる者、このくらいで震えていてどうするのです。
………【まだ】王族なのですから、背筋を伸ばして下さいな」

冷たい眼差しに、一層と震える王子。

ユリエッタはパンと扇を閉じると、会場を見回して声を上げた。

「さあ、皆様、余興は終わりの様ですわよ。
パーティーを続けましょう」

会場中から拍手が湧く。

「この結末は後日、王宮から通達があると思います。
それまでしばしお待ちを」

ドレスのスカートを摘み、見事なカーテシーを見せるユリエッタの後ろで、逃げる様に別々に会場を出ていく男女が居たが、その後二人の姿を王都で見る事はなかったそうだ。




婚約破棄ひお受け致しますけど、謝罪は致しませんわ






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