上 下
7 / 10

7話:束の間

しおりを挟む
 「ふぅー」
目をつむり、大きく息をく。
 「村田主任、お疲れ様です」
隣の受付に立っていた部下が声をかけてくる。
 「あー、ありがとう」
「ちょっと大変な案件でしたね」
「ちょっとぉ? メチャクチャ大変だったよー」
「でも苦労した甲斐があったじゃないですか」
「あったかな」
思い当たる節が無さ過ぎて首をかしげた。
 「不正転生ブローカーの仲間だって疑いが晴れたじゃないですか」
「あー、そうだね」
泉ちゃんの相手が大変で忘れてた。
 「あの警備主任も酷いですよね。村田主任があんな奴らの仲間だって疑うなんて」
「ちゃんと仕事してから言ってほしいよね」
「まったくですよ」
「もう終わった事だからいいけどね」
「あれ? 終わったんですか?」
「怖いこと言わないでよ。転移させたんだから終わったよ」
「でも、すごい顔で絶対に戻ってくるって言ってましたよ」
部下は、冗談混じりなのか笑いながら言っていた。
 「まあ、またこっちには来るだろうけど、ここだけでいくつ窓口があるか知ってるよね?」
「そうですよね。転生ポータルもいくつもありますし、その中でまたoneワンに戻ってきて村田主任の前に現れるなんてあり得ませんよね」
「そうそう。ほら、新しい人きたよ」
「こちらへどうぞー。ようこそ、転生ポータルoneへ」
部下は、営業スマイルで仕事へと戻った。
 私もちゃんと仕事しないとね。
案内主任の仕事は窓口業務だけではない。
カウンターから出て広いロビーの見回りに向かった。


 沢田泉が転生してからしばらくの時間が経った。
「不正転生ブローカー、なかなかつかまりませんね」
「はぁ、本当にね」
「あっでも、警備主任が変わったので今度こそ捕まるんじゃないですか?」
「そうだといいんだけどねー」
沢田泉と同じように騙されてやってきた人の相手は、正しくやってきた人よりも手間がかかる。できれば相手にしたくない。
 「あっ。ようこそ、転生ポータルoneへ」
部下の方に新たな転生者が訪れ、村田も視線を前へと戻した。
 「うわっ!?」
いつから居たのか、目の前には、茶色の小汚いマントにフードを目深に被った転生者らしき人が立っていた。
 「あ、あー、ようこそ、転生ポータルoneへ」
笑顔を引きつらせながら営業スマイルで対応する。しかし、小汚い人は無言のまま立ち尽くしていた。
 「あのー、転生希望の方ですよね?」
「ふふふ・・・・・・あはははっ」
おそるおそる声をかけると、急にお腹を抱えて笑い始めた。
怖ッ。通報しよ。
 「あっ! 待って待って! 通報しようとしないで」
「え?」
心を読まれた・・・・・・ワケないよね。
 「相変わらずだね」
この人も不正に来ちゃった人かな。
不正転生ブローカーからの転生者は、心の準備をせずに無理やり連れ去られる事もあってか、だいたいが挙動不審だ。
 「へー、ここってこんな色んな人がいたんだー」
キョロキョロする小汚い人は、挙動不審のお手本である。
めんどくさいけどしょうがない、頑張ろう。
 「転生の手続きを進めてもよろしいですか?」
「うーん・・・・・・うん。お願いします」
これまでと打って変わって深々と頭を下げてくる。コロコロと急変する態度に気味悪さを感じた。
 「・・・・・・はい。それでは、身分証明書と転生理由書てんせいりゆうしょを出していただけますか?」
持ってないと思うけど。
 「はい。これでいいんでしょ?」
小汚い人マントの下から書類一式を取り出し、カウンターの上に置いた。
 「ありがとうございます。確認させていただきます」
書類へと視線を落とした村田は驚愕きょうがくする。
 「沢田・・・・・・泉・・・・・・さん?」
小汚い人はフードの中でにんまりと笑った。


つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

学園一のイケメンにつきまとわれています。

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 主人公・文月栞(ふみづき しおり)は静かに暮らしたい――。 銀縁の(伊達)メガネとみつあみにした黒髪で、地味で冴えない文学少女を演じ、クラスの空気となりたい栞。しかし彼女には壮絶な過去があった。 何故かその過去を知る『学園一のイケメン』の異名を持つ曽根崎逢瀬(そねざき おうせ)に妙に気に入られてしまい、彼女の目立ちたくない学園生活は終わりを告げる!? さらに『学園で二番目のイケメン』や『学園の王様』など、学園の有名人に次々に囲まれて、逆ハーレム状態に!? 栞の平穏無事になるはずだった学園生活は、いったいどうなってしまうのか――? みたいな、女性向け逆ハーレム系恋愛小説。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

春の雨に濡れて―オッサンが訳あり家出JKを嫁にするお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。なお、本作品はヒロイン目線の裏ストーリー「春の雨はあたたかい」のオリジナルストーリーです。 春の雨の日の夜、主人公(圭)は、駅前にいた家出JK(美香)に頼まれて家に連れて帰る。家出の訳を聞いた圭は、自分と同じに境遇に同情して同居することを認める。同居を始めるに当たり、美香は家事を引き受けることを承諾する一方、同居の代償に身体を差し出すが、圭はかたくなに受け入れず、18歳になったら考えると答える。3か月間の同居生活で気心が通い合って、圭は18歳になった美香にプロポーズする。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

処理中です...