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7話:束の間
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「ふぅー」
目を瞑り、大きく息を吐く。
「村田主任、お疲れ様です」
隣の受付に立っていた部下が声をかけてくる。
「あー、ありがとう」
「ちょっと大変な案件でしたね」
「ちょっとぉ? メチャクチャ大変だったよー」
「でも苦労した甲斐があったじゃないですか」
「あったかな」
思い当たる節が無さ過ぎて首を傾げた。
「不正転生ブローカーの仲間だって疑いが晴れたじゃないですか」
「あー、そうだね」
泉ちゃんの相手が大変で忘れてた。
「あの警備主任も酷いですよね。村田主任があんな奴らの仲間だって疑うなんて」
「ちゃんと仕事してから言ってほしいよね」
「まったくですよ」
「もう終わった事だからいいけどね」
「あれ? 終わったんですか?」
「怖いこと言わないでよ。転移させたんだから終わったよ」
「でも、すごい顔で絶対に戻ってくるって言ってましたよ」
部下は、冗談混じりなのか笑いながら言っていた。
「まあ、またこっちには来るだろうけど、ここだけでいくつ窓口があるか知ってるよね?」
「そうですよね。転生ポータルもいくつもありますし、その中でまたoneに戻ってきて村田主任の前に現れるなんてあり得ませんよね」
「そうそう。ほら、新しい人きたよ」
「こちらへどうぞー。ようこそ、転生ポータルoneへ」
部下は、営業スマイルで仕事へと戻った。
私もちゃんと仕事しないとね。
案内主任の仕事は窓口業務だけではない。
カウンターから出て広いロビーの見回りに向かった。
沢田泉が転生してからしばらくの時間が経った。
「不正転生ブローカー、なかなか捕まりませんね」
「はぁ、本当にね」
「あっでも、警備主任が変わったので今度こそ捕まるんじゃないですか?」
「そうだといいんだけどねー」
沢田泉と同じように騙されてやってきた人の相手は、正しくやってきた人よりも手間がかかる。できれば相手にしたくない。
「あっ。ようこそ、転生ポータルoneへ」
部下の方に新たな転生者が訪れ、村田も視線を前へと戻した。
「うわっ!?」
いつから居たのか、目の前には、茶色の小汚いマントにフードを目深に被った転生者らしき人が立っていた。
「あ、あー、ようこそ、転生ポータルoneへ」
笑顔を引きつらせながら営業スマイルで対応する。しかし、小汚い人は無言のまま立ち尽くしていた。
「あのー、転生希望の方ですよね?」
「ふふふ・・・・・・あはははっ」
おそるおそる声をかけると、急にお腹を抱えて笑い始めた。
怖ッ。通報しよ。
「あっ! 待って待って! 通報しようとしないで」
「え?」
心を読まれた・・・・・・ワケないよね。
「相変わらずだね」
この人も不正に来ちゃった人かな。
不正転生ブローカーからの転生者は、心の準備をせずに無理やり連れ去られる事もあってか、だいたいが挙動不審だ。
「へー、ここってこんな色んな人がいたんだー」
キョロキョロする小汚い人は、挙動不審のお手本である。
めんどくさいけどしょうがない、頑張ろう。
「転生の手続きを進めてもよろしいですか?」
「うーん・・・・・・うん。お願いします」
これまでと打って変わって深々と頭を下げてくる。コロコロと急変する態度に気味悪さを感じた。
「・・・・・・はい。それでは、身分証明書と転生理由書を出していただけますか?」
持ってないと思うけど。
「はい。これでいいんでしょ?」
小汚い人マントの下から書類一式を取り出し、カウンターの上に置いた。
「ありがとうございます。確認させていただきます」
書類へと視線を落とした村田は驚愕する。
「沢田・・・・・・泉・・・・・・さん?」
小汚い人はフードの中でにんまりと笑った。
つづく
目を瞑り、大きく息を吐く。
「村田主任、お疲れ様です」
隣の受付に立っていた部下が声をかけてくる。
「あー、ありがとう」
「ちょっと大変な案件でしたね」
「ちょっとぉ? メチャクチャ大変だったよー」
「でも苦労した甲斐があったじゃないですか」
「あったかな」
思い当たる節が無さ過ぎて首を傾げた。
「不正転生ブローカーの仲間だって疑いが晴れたじゃないですか」
「あー、そうだね」
泉ちゃんの相手が大変で忘れてた。
「あの警備主任も酷いですよね。村田主任があんな奴らの仲間だって疑うなんて」
「ちゃんと仕事してから言ってほしいよね」
「まったくですよ」
「もう終わった事だからいいけどね」
「あれ? 終わったんですか?」
「怖いこと言わないでよ。転移させたんだから終わったよ」
「でも、すごい顔で絶対に戻ってくるって言ってましたよ」
部下は、冗談混じりなのか笑いながら言っていた。
「まあ、またこっちには来るだろうけど、ここだけでいくつ窓口があるか知ってるよね?」
「そうですよね。転生ポータルもいくつもありますし、その中でまたoneに戻ってきて村田主任の前に現れるなんてあり得ませんよね」
「そうそう。ほら、新しい人きたよ」
「こちらへどうぞー。ようこそ、転生ポータルoneへ」
部下は、営業スマイルで仕事へと戻った。
私もちゃんと仕事しないとね。
案内主任の仕事は窓口業務だけではない。
カウンターから出て広いロビーの見回りに向かった。
沢田泉が転生してからしばらくの時間が経った。
「不正転生ブローカー、なかなか捕まりませんね」
「はぁ、本当にね」
「あっでも、警備主任が変わったので今度こそ捕まるんじゃないですか?」
「そうだといいんだけどねー」
沢田泉と同じように騙されてやってきた人の相手は、正しくやってきた人よりも手間がかかる。できれば相手にしたくない。
「あっ。ようこそ、転生ポータルoneへ」
部下の方に新たな転生者が訪れ、村田も視線を前へと戻した。
「うわっ!?」
いつから居たのか、目の前には、茶色の小汚いマントにフードを目深に被った転生者らしき人が立っていた。
「あ、あー、ようこそ、転生ポータルoneへ」
笑顔を引きつらせながら営業スマイルで対応する。しかし、小汚い人は無言のまま立ち尽くしていた。
「あのー、転生希望の方ですよね?」
「ふふふ・・・・・・あはははっ」
おそるおそる声をかけると、急にお腹を抱えて笑い始めた。
怖ッ。通報しよ。
「あっ! 待って待って! 通報しようとしないで」
「え?」
心を読まれた・・・・・・ワケないよね。
「相変わらずだね」
この人も不正に来ちゃった人かな。
不正転生ブローカーからの転生者は、心の準備をせずに無理やり連れ去られる事もあってか、だいたいが挙動不審だ。
「へー、ここってこんな色んな人がいたんだー」
キョロキョロする小汚い人は、挙動不審のお手本である。
めんどくさいけどしょうがない、頑張ろう。
「転生の手続きを進めてもよろしいですか?」
「うーん・・・・・・うん。お願いします」
これまでと打って変わって深々と頭を下げてくる。コロコロと急変する態度に気味悪さを感じた。
「・・・・・・はい。それでは、身分証明書と転生理由書を出していただけますか?」
持ってないと思うけど。
「はい。これでいいんでしょ?」
小汚い人マントの下から書類一式を取り出し、カウンターの上に置いた。
「ありがとうございます。確認させていただきます」
書類へと視線を落とした村田は驚愕する。
「沢田・・・・・・泉・・・・・・さん?」
小汚い人はフードの中でにんまりと笑った。
つづく
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