【完結】追放された嫌われ魔法使いは、拾った毛玉を盲愛する

飛鳥えん

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魔法使いの手料理【2】

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「……ちょっとお待ちなさい、あなた、歳はいくつです」
「正確には分からないですが……多分12歳くらいです。野良獣人の寿命は30歳くらいですが、僕は獣医の見立てだと骨も丈夫じゃないし同い年の獣人と比べて身体が小さいので……寿命の短い劣等種だろうって。だから商品には初めからならないと言われました」
それでも、人の子より体力もあるし狩りもできる。言ってからはっとした。
レネは金貨を払って毛玉……ユシウスを買ったのに、それがほかの個体より寿命が短いとなれば粗悪品をつかまされたのと同じだ。まさかそれが分かった途端、返品されやしないだろうか。
(黙っておけばよかった……!)
レネの爪ががりっと机を引っ掻き、表面に傷跡が付いた。人間の爪で出来たと思えない抉れ方にゾッとした。
「……10年なんて、わたくしにとってちょっと午睡して起きた程度の感覚です。……なんてこと」
最後の一言のあと、舌打ちをする。怒っているのか。あの変な黒い靄は見えないが、ユシウスは恐ろしくなって下を向いた。
いきなり肩をがしっと掴まれた。
うわ、と声が出る。
確かめるようにそこを叩くとレネはさっさと羊皮紙にインクを走らせた。ユシウス、らしき公用語のあとに少し隙間を空けてもう一語。
「何です」
「レネ様、後ろに書いてあるのって」
「あなたに苗字はないから、仕方なくわたくしのものを使うのです。ないとこの先不便ですからね」
やっぱり、ユシウス・ザラと書いてあるのだ。ユシウスは困惑とともに胸の奥が痺れた。不便だなんてそんなの嘘だ。奴隷に苗字は無いのが普通のことなのだから。同じ家に住んで、同じ名前を持って……そんなのまるで。
(自惚れるな、立場をわすれるな)
「わたくしの買った所有物なのですから、持ち物には自分の名前を書いておくものです」
ユシウスは頭の中をスッと冷やすことができて、ほっと胸を撫でおろした。よかった。レネの方から釘を刺してもらえて、身分不相応な勘違いをせずに済んだ。
「はい、僕はレネ様に買っていただいた奴隷ですから」
レネは羊皮紙を丸めると、テーブルの上にぞんざいに放った。
そしてスープの成れの果てが入った皿をぐいとユシウスの方へ押しやった。
ユシウスの背中を冷や汗が伝った。
「え、っと。レネ様?」
「私の分もお食べなさい。あなたが痩せているのは栄養不足です。食べて肥え太りなさい」
「肥える必要はないかと……それにレネ様のお腹がすいてしまったらいけません、僕は自分の分だけで手一杯っじゃなくて十分ですから」
「……いいから早くしなさい」
低い声で命じられたら、どうしようもない。
恐る恐る引き寄せた皿の中のスープはなぜか気泡が浮いて、ぱちんとはじけると独特の臭気がした。
(なんで毒の沼みたいになってるんだ。それにどうしたらこんな色になるんだ)
匙で少しだけすくってみる。レネは見張るようにこちらに顔を向けたままだ。やがて意を決して一口に運び、
「うぐっ」
涙目になりながら何とか飲み込んだ。
(えぐみがっ、腐った生ごみと泥を煮詰めて砂糖をふったみたいな……凄いぞ、ただ不味い物なら人間でも作れるけど、これはそんなもんじゃない)
改めて魔法使いレネリウスに畏怖の念を感じながら、ユシウスはゆっくり意識を手放した。
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