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謝罪とこれから(3)
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「この李蘇芳、謹んで申し上げます。殿下に対するこれまでのご無礼、到底お許しいただけるものでないことは重々承知しております。このうえ、信を得るなどおこがましいことは存じておりますが、どうかこの身に贖罪の機会を賜れるなら、この蘇芳、身命を賭してこれより御身にお仕えし、必ずや殿下をお支えし、お守りするとお約束いたします」
どうか、殿下。
膝をついて拱手したまま、言葉に力を込めて、相手の反応をうかがう。
少年の大きな瞳の奥で、瞳孔がぎゅう、と広がった。
(……やったか?)
「……今までの蘇芳殿と、最近の蘇芳殿は、まるで別人のようにみえます」
花鶏はまるで自分自身に言い聞かせるように、ゆっくり言葉を発した。
本心ではずっと気になっていたけれど、言い出せなかった。そんな感じだった。
「今までずっと、僕はひとりでした。母上が会ってくれなくなって、あっ、姉上が死んで……っ」
ひっく、花鶏の喉から痙攣したような音がした。涙の膜が盛り上がって、ゆらゆら大きな目のふちが揺れた。
「やさしかった使用人が僕を無視して、さむくて、おなかがすいて。そうしてずっと一人でいたら、江雪さまが僕を
助けてくださった」
だからどんなにおかしいと思っても、ここでの暮らしまで失えば、またあの廃宮に戻されたらと思うと、考えないようにすることでしか、耐えられなかった。
「どうしてもっと早く、ぼくにっ……やさしくしてくれなかったのですか」
ぼろり、と涙の膜が盛り上がって決壊した。白い頬の上に、大きな水滴が転がって、布団の上に置いた小さな拳の上にぽたぽたと落ちていく。
蘇芳は自分の体がいつのまにか石ように固まって動かないことに気付いた。
「ふっ、う、いまだって……あなたのことを信じたほうが楽だってわかってるけどっ。僕はっ……だれでもいいからやさしくされたい!もうひどいことはされたくない。でも、いままでのことがあるのに、どうやって信じたらいいのか分からない。もしかして今もわざと僕をだまして、あとでわらってやろうって……遊んでいるんじゃないかって、どうしても考えてしまって……!」
ひっく、としゃっくりが止まらくなったように、幼い肩は震えている。顔はさっきから真っ赤になっていた。
「……だって本当に、あなたはいきなり別人みたいになってしまったんだもの」
やさしいのがこわい。うれしいのに、また前みたいな、ひどいあなたに戻ってしまったらこわい……と、少年は泣きながら言った。
どうか、殿下。
膝をついて拱手したまま、言葉に力を込めて、相手の反応をうかがう。
少年の大きな瞳の奥で、瞳孔がぎゅう、と広がった。
(……やったか?)
「……今までの蘇芳殿と、最近の蘇芳殿は、まるで別人のようにみえます」
花鶏はまるで自分自身に言い聞かせるように、ゆっくり言葉を発した。
本心ではずっと気になっていたけれど、言い出せなかった。そんな感じだった。
「今までずっと、僕はひとりでした。母上が会ってくれなくなって、あっ、姉上が死んで……っ」
ひっく、花鶏の喉から痙攣したような音がした。涙の膜が盛り上がって、ゆらゆら大きな目のふちが揺れた。
「やさしかった使用人が僕を無視して、さむくて、おなかがすいて。そうしてずっと一人でいたら、江雪さまが僕を
助けてくださった」
だからどんなにおかしいと思っても、ここでの暮らしまで失えば、またあの廃宮に戻されたらと思うと、考えないようにすることでしか、耐えられなかった。
「どうしてもっと早く、ぼくにっ……やさしくしてくれなかったのですか」
ぼろり、と涙の膜が盛り上がって決壊した。白い頬の上に、大きな水滴が転がって、布団の上に置いた小さな拳の上にぽたぽたと落ちていく。
蘇芳は自分の体がいつのまにか石ように固まって動かないことに気付いた。
「ふっ、う、いまだって……あなたのことを信じたほうが楽だってわかってるけどっ。僕はっ……だれでもいいからやさしくされたい!もうひどいことはされたくない。でも、いままでのことがあるのに、どうやって信じたらいいのか分からない。もしかして今もわざと僕をだまして、あとでわらってやろうって……遊んでいるんじゃないかって、どうしても考えてしまって……!」
ひっく、としゃっくりが止まらくなったように、幼い肩は震えている。顔はさっきから真っ赤になっていた。
「……だって本当に、あなたはいきなり別人みたいになってしまったんだもの」
やさしいのがこわい。うれしいのに、また前みたいな、ひどいあなたに戻ってしまったらこわい……と、少年は泣きながら言った。
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