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協力者(1)
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(うぅ、……気持ちわる)
内心の思いをそのまま反映して、うぇ、とえづいた。
盥に覆いかぶさって口に指を突っ込んでは、吐く。水を飲む、また指を突っ込む。
これの繰り返し。
やっと胃の中が空っぽの状態になると、ぐったりと寝椅子の上に上半身を突っ伏した。
(まあ、ここまでする必要はないんだけど)
江雪邸を辞してから、自宅に帰るなりそうぜずにはいられなかった。
花柳草は常習性が低い。だから摂取自体をやめれば、その効果は徐々に身体の外へ排出されるし、一度口にしたくらいではそもそも影響がない。
それでも、現代人の感覚をすると、自分の体内に”ヤク”があるなんて気持ち悪い。
結局、無理にでも吐き出す方を選んだ。
水差しの水で口をゆすぎ、げっそりした顔で髪を結っていた組紐を解く。
はらりと解放された長髪が背中に落ちた。
(あの子はどれくらいの期間、薬を飲んでるんだっけ?)
ざっと指を折って計算してみる。
(えっと。俺がこの世界に来たときは10歳で、江雪に引き取られて半年だから……)
およそ3か月から5か月といったところだろうか。
それが短いのか長いのか、正直蘇芳には判然としなかった。
ゲームの中では特に言及されていないが、普通に考えれば継続して薬を盛られていたろうから、18歳かそこらまでは薬物患者だったということになる。
それを思えば、まだこの時期から量を減らせたのはましな方だろう。
ー量を減らす。
これが蘇芳の当面の目的だった。
薬をやめさせたいのはやまやまだが、すぐには実行できないと思ったのだ。
(江雪の部下がいる前で変な動きなんてしたら絶対すぐばれる)
これが一番の障害だった。
毒見役を自分が引き受けるまでは予定していたが、いざ飲んでみて蘇芳は思った。
(うん、普通。普通の味、ほんとに普通)
これを毒だと騒ぎ立てるのは無理がある。しかも遅効性だ。
(もういっそ、これ俺が全部飲んで空の杯をこの子に渡すとか?)
いや無理だ。
(この子は江雪を疑ってないし、そんなことしたらさすがに不信がって江雪にチクるだろ)
花鶏の中では江雪が味方、蘇芳が敵なのだ。これに関しては余計なことをして足を引っ張りやがってと入れ替わるまでの蘇芳をぶん殴りたい。
蘇芳との関係性がプラスといかずせめてゼロだったら、花鶏に江雪の真意を伝えて二人で協力して状況を打開できたかもしれないのに。
(いや、落ち着け俺。まだチャンスはある。むしろ今までどん底だった分、ここからの蘇芳は花鶏にとって好感度プラスにしか転じないぞ)
ちょっと無理やりに自分を励まして、とりあえず蘇芳は3分の2の量、薬を飲んだ。
毒見役は通常一口だけ口をつけるし、何なら同じ食器は使わず新しいものを注ぐが、そんなことをしたら意味がない。
蘇芳は自分が飲んだ杯をそのまま花鶏に差し出した。
有無を言わさず
「さ、殿下。問題ないようです」
花鶏が隔離幽閉されており宮廷作法に明るくないのが幸いした。
身辺警護もなく、使用人も最低限の人数で済ませており、その者たちも花鶏に対する関心が薄い。
これも蘇芳には好都合だった。
花鶏は流れに押されるようにぽかんとして、残り少しになった薬を呑み、それを見届けた蘇芳は今度こそ江雪邸を辞した。
とりあえず当面はこの手でいこう。
凌げるところまでは毒の摂取を減らして、花鶏の健康状態を改善することが課題だ。
「……と、いうわけなんだ。とりあえず上手くいったが、ここからが正念場というやつだ。お前も気合を入れてくれ」
吐いて少しだけ気分がましになった蘇芳は、元気づけるようににっこりと笑顔を向けた。
その先には、先ほど吐いていた蘇芳よりなお顔色を悪くした早蕨が、呆然と佇んでいる。
「なにが、というわけなんですか……」
内心の思いをそのまま反映して、うぇ、とえづいた。
盥に覆いかぶさって口に指を突っ込んでは、吐く。水を飲む、また指を突っ込む。
これの繰り返し。
やっと胃の中が空っぽの状態になると、ぐったりと寝椅子の上に上半身を突っ伏した。
(まあ、ここまでする必要はないんだけど)
江雪邸を辞してから、自宅に帰るなりそうぜずにはいられなかった。
花柳草は常習性が低い。だから摂取自体をやめれば、その効果は徐々に身体の外へ排出されるし、一度口にしたくらいではそもそも影響がない。
それでも、現代人の感覚をすると、自分の体内に”ヤク”があるなんて気持ち悪い。
結局、無理にでも吐き出す方を選んだ。
水差しの水で口をゆすぎ、げっそりした顔で髪を結っていた組紐を解く。
はらりと解放された長髪が背中に落ちた。
(あの子はどれくらいの期間、薬を飲んでるんだっけ?)
ざっと指を折って計算してみる。
(えっと。俺がこの世界に来たときは10歳で、江雪に引き取られて半年だから……)
およそ3か月から5か月といったところだろうか。
それが短いのか長いのか、正直蘇芳には判然としなかった。
ゲームの中では特に言及されていないが、普通に考えれば継続して薬を盛られていたろうから、18歳かそこらまでは薬物患者だったということになる。
それを思えば、まだこの時期から量を減らせたのはましな方だろう。
ー量を減らす。
これが蘇芳の当面の目的だった。
薬をやめさせたいのはやまやまだが、すぐには実行できないと思ったのだ。
(江雪の部下がいる前で変な動きなんてしたら絶対すぐばれる)
これが一番の障害だった。
毒見役を自分が引き受けるまでは予定していたが、いざ飲んでみて蘇芳は思った。
(うん、普通。普通の味、ほんとに普通)
これを毒だと騒ぎ立てるのは無理がある。しかも遅効性だ。
(もういっそ、これ俺が全部飲んで空の杯をこの子に渡すとか?)
いや無理だ。
(この子は江雪を疑ってないし、そんなことしたらさすがに不信がって江雪にチクるだろ)
花鶏の中では江雪が味方、蘇芳が敵なのだ。これに関しては余計なことをして足を引っ張りやがってと入れ替わるまでの蘇芳をぶん殴りたい。
蘇芳との関係性がプラスといかずせめてゼロだったら、花鶏に江雪の真意を伝えて二人で協力して状況を打開できたかもしれないのに。
(いや、落ち着け俺。まだチャンスはある。むしろ今までどん底だった分、ここからの蘇芳は花鶏にとって好感度プラスにしか転じないぞ)
ちょっと無理やりに自分を励まして、とりあえず蘇芳は3分の2の量、薬を飲んだ。
毒見役は通常一口だけ口をつけるし、何なら同じ食器は使わず新しいものを注ぐが、そんなことをしたら意味がない。
蘇芳は自分が飲んだ杯をそのまま花鶏に差し出した。
有無を言わさず
「さ、殿下。問題ないようです」
花鶏が隔離幽閉されており宮廷作法に明るくないのが幸いした。
身辺警護もなく、使用人も最低限の人数で済ませており、その者たちも花鶏に対する関心が薄い。
これも蘇芳には好都合だった。
花鶏は流れに押されるようにぽかんとして、残り少しになった薬を呑み、それを見届けた蘇芳は今度こそ江雪邸を辞した。
とりあえず当面はこの手でいこう。
凌げるところまでは毒の摂取を減らして、花鶏の健康状態を改善することが課題だ。
「……と、いうわけなんだ。とりあえず上手くいったが、ここからが正念場というやつだ。お前も気合を入れてくれ」
吐いて少しだけ気分がましになった蘇芳は、元気づけるようににっこりと笑顔を向けた。
その先には、先ほど吐いていた蘇芳よりなお顔色を悪くした早蕨が、呆然と佇んでいる。
「なにが、というわけなんですか……」
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