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02:求婚者

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 本当にやらかしやがった。
 シーズン開始を告げる大切な王家主催の夜会で、入場早々場を凍り付かせたバカドモへの感想はコレに尽きる。
 馬鹿だ馬鹿だと常々思ってはいたが、本当にバカだった。
 アレが王子とか、何かの間違いではないだろうか。
 淑女の手本とまで言われる礼儀作法や所作、国内外を問わない人脈、王家の妃として非の打ち所の無い知識と、美貌。
 そんな、誰もが傅く公爵令嬢である婚約者ではなく、あのような底辺を連れていることへの侮蔑と嫌悪。
 底辺を着飾らせている嘲弄と嗤笑。
 バカドモの存在そのものを否定する周囲など目に入っていないかのような態度に、会場中の貴族たちは第二王子の価値を無とした。

「救いようがないな」

 救う気もないが、と漏れた本音は確かに隣に佇む少女の耳に入ったであろうに、淑女の中の淑女とされる少女の表情は変わらない。
 淡い微笑みをたたえて、心の内を悟らせないのは流石と言えるが。

「早く消えればよろしいのですわ」

 コレでやっと解放されるのですもの、と隠さない本心を周囲に知らせることなく、ただ一人俺にだけ伝えてくる。
 愛しい少女のソレに微笑み、その細腰に手を伸ばしかけるも、

「ベルブラントさま、まだいけませんわ」

 ソレに気付いた少女自身に止められた。
 そう、『まだ』、だ。
 もう少しだけ、待たなければならない。
 この愛しい少女の全てを、手中に収めるために。

「アレが正式に発表してしまえば、後は任せてもらう」

 付入る隙すら与えず、この少女を公式に手に入れるための準備は既に出来ている。
 後は、あの無能がバカな行動を起こすのを静かに待つだけでいい。
 長年の我慢が、ついに報われる。

「私はこのエミリア・オーク男爵令嬢を婚約者としてここに宣言する!」

 国王陛下の開始の宣言よりも先に、バカドモの茶番が始まった。
 王家の方々は何を言っているのか初めは理解できなかった様子だが、徐々にその顔色が無くなり。
 会場の貴族たちは嫌悪もあらわに無能の第二王子と、たった今その婚約者だと決まった底辺の男爵令嬢を眺め。

「愛している、エミリア」

「私もです、リヒャルト様!!」

 茶番を繰り返すバカドモは、周囲など視界に入っていない様子で。

「やめないか、リヒャルト!!」

 国王陛下が止めるのも聞かず、全貴族の注目が集まる中、誓いの口付けまでを済ませてしまった。
 コレで、あの無能者と底辺の少女は婚姻する以外の道は断たれた。
 ああ、やっと、コレで。

「ヴィディリーア・シャス・ローデンス公爵令嬢。私の妻になっていただけますか」

 愛しい少女の正面で片膝をつき、左手をとって甲にキスを落とし、求婚する。
 我が国での正式な求婚は、王家主催の夜会で行われる。
 国中の貴族が揃う場であり王族も居る場であるので、すぐに周知させることができるのだ。
 決定権は女性側にあり、ココで断られた場合は今後一切同じ女性に求婚してはならないという不文律もある。

「ベルブラント・イファ・インクリース様の求婚をお受けいたします」

 淑女らしい淡い微笑みではなく、少女らしいほころぶような笑みとともにされた承諾に。
 わぁ、と、会場中が歓喜にわいた。
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