魔女の弟子

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第6章 疾走

疾走⑤

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意識が落ちる寸前、周囲に緑の閃光が弾け、豪雨が叩きつけるような振動が私の身体を揺らした。
 私は深い眠りから目覚めたときのように重たい頭を振り、周囲の状況を確認した。
 先程まで目の前にいたミラルダは慰霊婢の位置まで後退しており、その周囲には、以前魔女集会を襲撃した際に見せた、黒い霧状の障壁が発生していた。
 
 「対応が遅くなってごめんね!ちょうど良い狙撃位置を探すのに手間取っちゃって。ミラルダのやつは私が牽制するから、今のうちに距離をとって!」
 エルマの声がした方向には、エルザが探索用に放つ使い魔に似た、小鳥の形をした光の塊が浮かんでいた。どうやら、エルマは使い魔に状況を探らせつつ、遠距離からミラルダを魔法で攻撃したようだった。
 私はすぐさま反転し、村の外れを目指して全速力で走り出した。先導してくれるエルマの使い魔を追いかけながら、後方から飛んでくるかも知れない、ミラルダからの攻撃への恐怖に、うなじのあたりがチリチリと疼いた。
 「暗い魂の人形たちよ、いずれ貴方たちの王となるあの坊やを追いなさい。手足は、無くても構わないわ。」
 魔法を使っているのか、ミラルダの声は耳元で囁かれているかのように鮮明に聞こえた。その指示が出るが早いか、続けざまに多数の鈍い機械音が響くのに次いで、空気を切り裂く気配が追いかけてきた。すかさず家屋の残骸の陰に飛び込んだ直後、大量の矢が突き刺さる音が鼓膜を叩いた。。
 思わず物陰から後方を振り返ると、奇妙な形をした石弓(クロスボウ)を持つ4体の幽鬼(ファントム)たちが急速に距離を詰めてきていた。
 石弓を連射しながら接近してくる幽鬼(ファントム)たちに、私は遮蔽物の陰から出ることができなくなってしまった。
「足を止めないで!動いて!」
 エルマの声が聞こえた直後に、幽鬼へ向かって、無数の緑の閃光が降り注いだ。幽鬼たちが"王の黒い手"で防御するために足を止めた所を見計らい、私は物陰から飛び出した。
 私は更なる恐怖に駆り立てられながら、なんとか村の端まで到達した。エルマの使い魔は村の外れの小高い丘に私を先導しようとしているようだったが、丘の中腹は身を隠すものが何もなく、格好の的になるのは明らかだった。思わず足を止めた私を、エルマの使い魔が叱咤した。
「私を信じて!何も考えずにただ走るのよ!!」
丘の頂上の位置から、空に向かって、一筋の光線が打ち上がった。その光線は私の頭上を越え、幽鬼たちの一団へと真っ直ぐに向かっていくと、無数の光の矢へと分裂した。激しい攻撃魔法の奔流に対して、ミラルダを含め、幽鬼(ファントム)たちは防御障壁を展開する際は足を止めざるを得ないようだった。私はエルマの援護を信じ、今度は振り返らずに、使い魔と共に一気に丘の中腹を駆け上がった。
丘の頂上には、大型の弓から、ひっきりなしに光の矢を放つエルマが立っていた。
「先に馬に乗って!逃げるわよ!」
エルマの攻撃を受けながらも、幽鬼たちはすぐ近くまで接近していた。
すでに射程内に入ったと判断したのか、幽鬼たちは石弓を放ってきた。馬上で思わず身を低くした私だったが、私に向かってくる黒い矢は全てエルマの放つ光の矢によって、空中で打ち落とされた。
「邪魔をしないでちょうだい、田舎者の狩人さん。この子は私と一緒に来る方が、大成するのよ?それこそ、この世界を変えてしまうほどにね。」
幽鬼たちの放つ黒い霧状の結界に囲まれながら、ミラルダは僅かに苛ついた声をあげた。
エルマは肩をすくめながら、余裕のある表情をしていた。
「貴女には悪いけど、この子を傷つけるわけにはいかないのよ。エルザから面倒見るように、しっかり頼まれてるからね。」
死人占い師は目を細めると、恨めしげにエルマを睨み付けた。
「そう、ならやっぱり力付くで連れていくしかないようね。貴女が死ぬことは残念には思わないわよ、エルマ。私は、」
ミラルダは片手を上げた。古い金属が擦れる音と共に、幽鬼たちは一斉に、黒い剣を抜いた。
「昔から貴女が嫌いだったもの。」
隊列を組んだ幽鬼たちは黒い剣の切っ先をエルマに向けると、ジリジリと包囲するように迫ってきた。
「そう、なんとなく思ってたけど、やっぱり私のこと、嫌ってたのね。」
エルマは大袈裟にため息をつくと、降参するように両手をあげて見せた。
「まぁ、私も残念だとは思わないわ。だって私たち、」
掲げたエルマの右手には、小さな白い石が握られていた。
「友達としての相性はとっても悪そうだもん。」
そう言うと、パキンと指を鋭く鳴らした。
幽鬼たちが一斉に飛びかかろうと身を低くしたその時、私たちと幽鬼たちの間の空間に、白い閃光が立ち上がった。
「『霊体召喚』!貴女、"楔石"を持ってるの!?」
白い閃光の中から立ち上がった4体の者は、人の形をしていた。
「ロザリィ!ミレーヌ!フェルミ!レイン!この前のお返しよ!遠慮なくやっちゃって!」
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