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なぜか突然婚約破棄を突き付けられました
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「アイリス・クローム伯爵令嬢、今この場において私アルゴン王国第一王子ヒース・アルゴンとのこここ婚約をを、ははは破棄する。」
鳥がさえずり、花が咲き乱れる先ほどまでは穏やかだった四阿がこのヒース第一王子の発現で凍り付いた。
鳥はさえずるのをやめ、そよいでいた柔らかな風も動きを止める。
いつもなら、王子の洒落た発言にすべてのものがとらわれたのだろうと冗談交じりに言うであろうクローム伯爵令嬢アイリスは、突然婚約破棄を突き付けられ他ことで口を開くこともままならない。
しかし、とっさに持っていた扇で顔を覆ったのでヒースはそれに気がつくこともなく話をつづけた。
「私は真実の愛を見つけたのだ。君も私から解放されて、好きな男と一緒になればよい。ふ、不貞を働いていた君なら造作もないだろう」
そんなの嫌だ。
これが、もちろん不貞など働いていないアイリスの抱いた最初の気持ちだ。
だが、それを言ってはこの王子の思うつぼだと思いなおし、どうすれば婚約破棄をされづに済むか考えた。
まず、自分はヒースに溺愛されていると思い込んでいたことから見直さなければならないだろう。
そう、今だって彼の膝の上に横座りさせられている。
両想いの婚約者ならば何らおかしいことではないが、婚約破棄を告げる体制ではないはずだ。お茶会の回数を重ねるごとにこの体制を要求されていたので疑問も持たずにいたが、絶対に可笑しい。
そこでアイリスは最初からヒースとの逢瀬をふりかえってみた。
今までヒースが不満を漏らしたことは一度もなかった。
それどころか、王家のものは侯爵家以上のものとのみ婚約を許されるという慣習を破ってまで婚約を申し込んできたのは彼のほうだ。
正式に婚約してからは贈り物も定期的に届いたし、こうやって王宮で週に二回お茶もする。
そんな誠実な態度を示され、黒髪黒目のがっしりとした美丈夫であり、王位を継ぐヒースが自分を好いているなどとかけらも思わなかったアイリスも徐々に心を開いたのだ。
彼女にとってヒースは初恋の相手だった。だからこそ、アイリスもその愛にこたえようと必死に王妃教育を受けて、非の打ちどころのない令嬢になれるよう努めた。
そのおかげで、最初は王子に取り入った身分もわきまえない娘としてさげすまれていた彼女も、今では社交界の花と呼ばれている。
それに、ヒースは一時の感情でこのような発言をする愚かな王子ではない。他に思い人ができたとしても、きっちりけじめをつけて婚約解消という形をとるだろう。少なくとも余計な恨みを買うほどの余裕は持ち合わせていないはずだ。
さらに、嘘をつくときには必ずどもる癖があるのだ。何かを隠しているに違いない、自分を自ら貶めるようなまねをしなければならない理由を。
アイリスはそれを聞きださないことには何も始まらないと決心し顔から扇を取り払ってヒースを見つめた。。
鳥がさえずり、花が咲き乱れる先ほどまでは穏やかだった四阿がこのヒース第一王子の発現で凍り付いた。
鳥はさえずるのをやめ、そよいでいた柔らかな風も動きを止める。
いつもなら、王子の洒落た発言にすべてのものがとらわれたのだろうと冗談交じりに言うであろうクローム伯爵令嬢アイリスは、突然婚約破棄を突き付けられ他ことで口を開くこともままならない。
しかし、とっさに持っていた扇で顔を覆ったのでヒースはそれに気がつくこともなく話をつづけた。
「私は真実の愛を見つけたのだ。君も私から解放されて、好きな男と一緒になればよい。ふ、不貞を働いていた君なら造作もないだろう」
そんなの嫌だ。
これが、もちろん不貞など働いていないアイリスの抱いた最初の気持ちだ。
だが、それを言ってはこの王子の思うつぼだと思いなおし、どうすれば婚約破棄をされづに済むか考えた。
まず、自分はヒースに溺愛されていると思い込んでいたことから見直さなければならないだろう。
そう、今だって彼の膝の上に横座りさせられている。
両想いの婚約者ならば何らおかしいことではないが、婚約破棄を告げる体制ではないはずだ。お茶会の回数を重ねるごとにこの体制を要求されていたので疑問も持たずにいたが、絶対に可笑しい。
そこでアイリスは最初からヒースとの逢瀬をふりかえってみた。
今までヒースが不満を漏らしたことは一度もなかった。
それどころか、王家のものは侯爵家以上のものとのみ婚約を許されるという慣習を破ってまで婚約を申し込んできたのは彼のほうだ。
正式に婚約してからは贈り物も定期的に届いたし、こうやって王宮で週に二回お茶もする。
そんな誠実な態度を示され、黒髪黒目のがっしりとした美丈夫であり、王位を継ぐヒースが自分を好いているなどとかけらも思わなかったアイリスも徐々に心を開いたのだ。
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そのおかげで、最初は王子に取り入った身分もわきまえない娘としてさげすまれていた彼女も、今では社交界の花と呼ばれている。
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さらに、嘘をつくときには必ずどもる癖があるのだ。何かを隠しているに違いない、自分を自ら貶めるようなまねをしなければならない理由を。
アイリスはそれを聞きださないことには何も始まらないと決心し顔から扇を取り払ってヒースを見つめた。。
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