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 「こんにちは、アンジュ様。今日から1週間ここで訓練するように国王陛下から仰せつかりました。ノーランと申します」
 な、なんでー!
 目の前で騎士服に身を包み、頭を下げている男性を見て心の中で絶叫した。
 この人、どこからどう見てもノア王太子殿下ではないか。いや、普通の人が見たらただの信心騎士だと思うかもしれない。王太子のさらさらとした色素の薄い茶髪は黒髪へと変わり、光を反射して輝く茶色の瞳は深い紫色に変化している。
 ただ、一挙手一投足を観察することが求められる騎士、しかも一つの騎士団を預かる私が見逃していいはずはない。声も意図的に高くしているが、容易にノア様であることは想像できる。
 「よろしく、ノーラン。では最初に面談があるから、近くの個室に来てもらいましょうか」
 とにかく、誰かに見られる可能性を少しでも減らさなくては。平然を装い、人気のない部屋へと促した。
 ノア様は口をはさむことなく従ってくれたので一安心だ。先に部屋の奥に案内し、座ってもらう。
 そしてノア様と向かい合うように私も腰かけた。
 人目につかないことが重要だといっても、未婚の男女が密室で会話するのは好ましくない。そう考え、部屋の扉は半分開けておく。ノア様の姿は私の体で隠れるため、問題ないだろう。170㎝という高身長を幸運に思ったのは今日が初めてかもしれない。
 「それで、ノーラン。あなたは第3騎士団の騎士団員見習いということで良いのかしら」
 あくまで何も知らないふりをしよう。ノア様の目的を探ることが先決だ。
 「ふーん。知らないふりするんだ。せっかくアンジュの好みの男になろうと思ったのに。それとも僕が誰か築いていないのかな」
 しかし、頬を膨らませてすねたような返事が返ってきた。
 どういうことだ。ま、まさかこの前の私の発言がまずかったのか。
 「あ、あの。あなたはノア王太子殿下ですよね。なぜ、ここにいらっしゃるのですか?」
 誰が聞いているかわからない。警戒しながらささやくように彼の名を口にしてみる。
 「そうだよ、アンジュ。やっぱり築いてくれたんだね」
 ノア様もささやき返す。しかも身を乗り出し私の耳元で。油断していたところに、彼の吐息が耳に触れ体がびくりと震えてしまう。こ、こんな戦術は聞いたことがない!まさか、ノア様は色仕掛けに対抗する訓練のためにやってきたのだろうか。落ち着け、落ち着くんだ。思考が宙に浮遊するのをやっとの思いで押さえつける。
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