平民騎士団長は恋を知らない~~ 王太子が私にぞっこんなんてしんじられません~~

青蘭鈴花

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 なんだか暖かいようで涼しくて気持ち良い。それに先ほどまで訓練していたというのに、汗の不快感も存在しない。というより、ここはどこだろう。
 見知らぬ部屋のベッドの上で目を覚ました私はぼんやりと考える。そもそも、訓練が終わってからここに来た経緯がわからない。うーんと伸びをして、記憶を整理していく。
 そうしてしばらくすると、ここが知らない場所ではないことがわかった。騎士団本部の救護室。訓練場から少し離れたところにあり、普段は訓練場のすぐそばの簡易的な救護室に訪ねることが多かったため、すぐには思い至らなかっただけで、れっきとした第3騎士団の施設だ。
 「ああ、良かった。目を覚ましたんだね。あまり無理をしてはいけないよ」
 枕元から声がする。その方向に視線を向けると・・・。光沢のある薄茶色の瞳と交わった。
 「お、王太子殿下。申し訳ございません」
 その正体を認識し、慌てて飛び起きた。もともと訓練で体力を消耗しているところに、王太子殿下が護衛も伴わず現れたことに衝撃を受け、倒れてしまっただけだ。体調には何の問題もない。
 「ああ、寝たままでかまわないよ。倒れてから心配で様子を見ていたけれど、迷惑だったみたいだね。申し訳ない」
  綺麗な傷かわしげな瞳に見つめられ、返答に窮する。
 「いえ、こちらこそ申し訳ございません。お気遣いありがとうございます。ところで殿下は、なぜおひとりで訓練場までやってこられたのですか?」
 やっとの思いで確認しておくべきことを、口にした。
 「ああ、それは君の様子が見たかったからだよ。元気にやってるかなってね。何人も護衛を連れていたら訓練の邪魔になると思って一人で来たんだ」
 屈託なく答える王太子に内心あきれてしまった。むしろ、護衛がいないほうが問題だ。
 「そうなのですね。しかし、軽率におひとりで行動されては困ります。これからは誰か友のものをお連れください」
 すっかり調子を取り戻し、騎士団長として進言する。
 「そうだね。軽率だった。いくら君と二人で会いたいからって騎士団に迷惑をかけるわけにはいかなかった」
 すまなそうに頭をかく王太子の、二人きりという言葉が反響する。なぜ、二人きり。
 そうか、騎士団長としての勤めを果たしているか確認するためか。ようは試験のようなものだ。クッキーだって毒見のやり方の確認に違いない。思いついて、安堵した。これなら対処できる。
 「もし、何か私の働きで気になることがあるのでしたら、何人見張りをつけていただいてもかまいません。この国で騎士となり、女性であるものが団長職についたのは初めてのことですから気にかかるのも承知いたしております。ですから、殿下ご自身で動くことは控えてください。どうしてもというならば、変装したうえで、護衛をつけて訪れてください。正体がわかってしまえば、良き団長を装うのも簡単です」
 これで万事解決だ。完璧な提案だろう。素直な王太子はきっと納得する。
 「アンジュはそういうのが好みなのか。なら、努力するが」
 予想とは違い、いぶかしげな声で回答が返ってきた。
 「はい、そのようにしていただけるとこちらも助かります」
 これ以上何か言ってややこしくしても仕方がない。そう、自分に言い聞かせて話を終わらせた。
 
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