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覆水盆に返らずとは言いますが
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あまりに必死な様子に驚いたのだろう。吉弘は切れ長の黒目を見開いてじっと舞花を見下ろしている。
――くっ! い、居た堪れない! 恥ずかしい……!
しかしここで引き下がる訳にはいかない。ただでさえ、『大昔の幼馴染』という薄く古い過去と、世話好きでお人好しな吉弘のお節介で何とか繋がっている間柄である。ここで舞花が踏ん張らず、何も言わずに帰してしまったら疎遠になってしまう可能性が高い。
折角自覚した初恋を、みすみす逃してなるものか!
そんな決意を抱き、キッと吉弘を見上げる。
しかし惚れた弱みか何なのか、相変わらず花を背負った煌めきに目が潰れそうだ――が、何がなんでも負けるわけには行かない。
ムッと眉間に皺を寄せて見つめ続けていると、吉弘は何を感じたのか目元を覆って「はーーーーっ」とやけに長く重い溜め息を吐いた。
「……分かったよ。今日は帰らねぇから、んな顔すんな」
「そんな顔って」
「無性に構いたくなる顔」
何だそれは。どんな顔だ。
内心首を傾げた舞花の上に、呆れたような、諦めたような吉弘の声が降ってくる。
「上目遣いの涙目で耳まで真っ赤にしやがって何だお前それ。どういうつもりだ本当に」
「えっ」
「可愛いっつってんだよ。……俺じゃなかったら襲われてたぞ」
やっぱり何だそれは。どんな顔だ。さっぱり分からない。
しかし好きな人に『可愛い』と言われて初恋に浮かれた舞花が脳内で小躍りする。ただ一点、引っかかることは――
「――吉弘は、襲ってくれないの?」
「あ゛?」
あっと口を抑えてももう遅い。思わず口から零れ出た言葉は元には戻らない。
舞花が恐る恐る吉弘を伺うと、目元覆った指の間から黒黒とした瞳がジロリと舞花を睨んでいた。
火種を孕んだ木炭のような目。じっとりとして、それでいて熱い。感じたこともない剣呑な視線に、舞花の背筋が一瞬で凍りつく。
「わはっ! あははごめん今のナシ忘れっ――――ぁ」
重苦しくなった空気から逃げるように、明るい口調で冗談にしようとした次の瞬間。
空回りしようとした舞花の唇は、覆い被さってきた吉弘によって塞がれたのだった。
――くっ! い、居た堪れない! 恥ずかしい……!
しかしここで引き下がる訳にはいかない。ただでさえ、『大昔の幼馴染』という薄く古い過去と、世話好きでお人好しな吉弘のお節介で何とか繋がっている間柄である。ここで舞花が踏ん張らず、何も言わずに帰してしまったら疎遠になってしまう可能性が高い。
折角自覚した初恋を、みすみす逃してなるものか!
そんな決意を抱き、キッと吉弘を見上げる。
しかし惚れた弱みか何なのか、相変わらず花を背負った煌めきに目が潰れそうだ――が、何がなんでも負けるわけには行かない。
ムッと眉間に皺を寄せて見つめ続けていると、吉弘は何を感じたのか目元を覆って「はーーーーっ」とやけに長く重い溜め息を吐いた。
「……分かったよ。今日は帰らねぇから、んな顔すんな」
「そんな顔って」
「無性に構いたくなる顔」
何だそれは。どんな顔だ。
内心首を傾げた舞花の上に、呆れたような、諦めたような吉弘の声が降ってくる。
「上目遣いの涙目で耳まで真っ赤にしやがって何だお前それ。どういうつもりだ本当に」
「えっ」
「可愛いっつってんだよ。……俺じゃなかったら襲われてたぞ」
やっぱり何だそれは。どんな顔だ。さっぱり分からない。
しかし好きな人に『可愛い』と言われて初恋に浮かれた舞花が脳内で小躍りする。ただ一点、引っかかることは――
「――吉弘は、襲ってくれないの?」
「あ゛?」
あっと口を抑えてももう遅い。思わず口から零れ出た言葉は元には戻らない。
舞花が恐る恐る吉弘を伺うと、目元覆った指の間から黒黒とした瞳がジロリと舞花を睨んでいた。
火種を孕んだ木炭のような目。じっとりとして、それでいて熱い。感じたこともない剣呑な視線に、舞花の背筋が一瞬で凍りつく。
「わはっ! あははごめん今のナシ忘れっ――――ぁ」
重苦しくなった空気から逃げるように、明るい口調で冗談にしようとした次の瞬間。
空回りしようとした舞花の唇は、覆い被さってきた吉弘によって塞がれたのだった。
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