スパダリ族はお断り!

赤井茄子

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それなら、いいかなぁ○

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 舞花を押し倒した吉弘は、何を思ったのか。真っ赤になった彼女の右耳に唇を寄せる。

「舞花……」
「ぁっ、何を……ひぁんッ!」

 右耳に軽くキスした後、舌先で耳殻をゆっくりとなぞる。辿り着いた耳朶を甘噛みされ、舞花の背筋に何か電流のような感覚が走り抜けていった。ぞわぞわするような、ゾクゾクするような初めての感覚に、頭の中は大混乱である。

「んっ、んぅ……あ、ぁっ」
「好きだ……舞花、好き」

 耳元で囁かれる睦言、低く甘やかな声音。
 その合間にも、温かく湿った舌が耳穴を蹂躙する。鼓膜に濡れた音が響き、舞花の全身がビクビクと跳ねた。グチュ、と音がする度に勝手に体が跳ねて、口からも変な声が出て止まらない。

「可愛い声で啼きやがって……誘ってんのか?」
「ぁあっぅ、ぁ、あ、ちがぅうう……っ!」

 恋人いない歴=年齢。姉と二人でカツカツの生活を送ってきた舞花はこれまで付き合ったこともないし、誰かに恋したこともない。なので当然恋人もいなかったし、男女の経験も全くない。
 そんな超級の恋愛初心者に、『耳攻め』は刺激が強すぎる。舞花はクラクラしながら必死で体を動かそうと頑張るものの、吉弘にやんわりと押さえつけられて何の抵抗にもならない。

 ――な、何これ、なにこれ……!?

 混乱と、不安と、初めての感覚への戸惑い。それがどんどん内側で膨らんで、焦茶色の瞳がみるみる潤んでいく。

「何泣いてんだよ」
「っだ、誰のせいだと……!」
「ん、俺のせいだな」

 涙ぐんだ彼女の目尻を、かさついた指が拭う。滲んだ視界の端では紫色の花が咲き誇り、何だか幻想的である。そして、ダイアモンドも霞むほどのキラキラを纏いし吉弘は、荒い息を吐きながら……見たことがないほど真剣な目で舞花を見下ろしていた。

「なぁ、舞花。俺はお前に惚れてるが、泣いてる相手に無理強いしてぇわけじゃねえ」

 太く骨ばった指が、舞花の頬を撫でる。そして、熱い吐息を漏らす唇を親指でゆっくりと押し開く。
 震える舌先を指の先で軽く擽りながら、吉弘は続ける。

「すぐ返事くれとか、結婚してくれとは言わねぇよ。今は、キスだけでいい」
「キス、だけ?」
「誓ってキスだけだ。……それともやっぱり、俺とは嫌か?」

 お酒と耳責めのせいで回らない頭で、舞花はぐるぐると考えた。お礼、そうだった。これは、吉弘に何かお礼するために始まった行為だった。
 もちろん、スパダリ族への苦手意識も山のようにあるが……キスの相手は、吉弘だ。

 ――それなら、いいかなぁ。

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