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番外編
マクシム氏は如何にして美貌の変態となりしか※
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マクシム・レイドンは、自分の顔が美しいと知っている。その美貌が齎す恩恵と弊害を一身に受け、彼は実に麗しい男に成長した。しかし、その内側は実にドロドロとしていて醜悪な形をしていると自負している。
彼は、彼の外見に勝手に夢を見て、本質を垣間見た瞬間幻滅する女が嫌いだ。その最たるものは、親戚のおば様であった。彼女は会う度に、「いつ見ても綺麗な子」「うちの子にほしいわ!」と甲高い声で叫び、熱苦しく抱き締めてくる。……しかし、マクシムが蟻の巣に水を流し込んで遊んでいたり、泥だらけになって近所の悪ガキと犬を追いかけていると、血相を変えて叫ぶのだ。「あなたはそんな子じゃないでしょう!?」「こんなに綺麗なものを汚すなんて!!」その女の目には、恐らく彼が陶器の人形に見えていたのかもしれない。彼を美しく飾り立て、一緒に『お出かけ』することを何よりも好んだ。
マクシムは生身の人間だ。人形でも装飾品でもない。
そのことを、誰よりも分かってくれたのは祖母であった。祖母は、幼いマクシムを見ながら常々言い聞かせていた。
「アンタは、あの男にそっくりだよ。予言してやる…アンタは絶対にあの男みたいになるってね」
祖母の語る『あの男』とは、祖母の夫……つまりマクシムの祖父に当たる人物である。因みに、祖母は下町の出身で少しぶっきらぼうな物言いをする人だった。それも、マクシムにとっては新鮮で、彼女の前でだけは自分を曝け出して甘えることができたのだった。
「おばあちゃん、僕おばあちゃんとずっと一緒に居たい」
マクシムが瞳を潤ませて見つめても、祖母はフンと鼻をならして彼の言葉を吹き飛ばしてしまう。……両親も含め周囲の人間は、マクシムがこうやってお強請りすれば何でも叶えてくれるのに、祖母は頑としてその願いを叶えてはくれなかった。
「悪いね坊や。アタシの全部はあの男が予約済なのサ。アンタにやれるもんは殆どないんだ」
そう言って、マクシムの口に大きな飴玉を放り込んでくれる。
「何もやらない」と言いつつ、そうやって甘やかしてくれる不器用な祖母が………やっぱりマクシムは大好きだった。
「こんなババァじゃなくてサ、マクシム。アンタは、アンタだけの『只一人』を見つければいい」
「………僕だけの、ただひとり?」
目を見開いたマクシムを尻目に、祖母は暮れなずむ空を見上げ目を細めた。
「そうサ。アンタが大人になった時、心の底から欲しいと思える人がきっと現れたら………ソイツがアンタを気にいるかは分からんがね」
何せ、アンタは『あの男』にそっくりだから。
苛立った声音に愛おしさを滲ませて、祖母は語る。祖父の性格、祖父にされたこと、祖父が彼女に遺したモノ、そして祖父との約束を。
『アレは最悪だった』
『ひどいもんサ』
『ヤツには本当ドン引きしたね!』
――――それらは全て、祖母から祖父への愛の言葉だ――――小さなマクシムは、何故かそう感じていた。
そしてマクシムが七歳の時、祖母は虹の橋を渡っていった。ベッドで寝たきりになっても尚、祖父への悪態をついていた……祖母らしい最期だ。祖母の遺体は荼毘に付された後、遺言通り骨を粉々に砕かれ、祖父の骨が入った壷の中に納められた。壷の中で混ざり合う、祖父と祖母の骨が、マクシムには究極の愛のカタチのように感じられた。
「僕も、僕だけの人と骨まで混じり合いたいな」
その小さな呟きを聞いた例のおば様が、何やら甲高い声で叫んでいたが……もう、全く気にはならなかった。
こうして小さなマクシムは、確実におかしな方向へと歩み始めたのだった。
歩き出したといっても、別段何があるわけでもない。マクシムは、年を重ねる内にその麗しい顔で変態性を上手く隠し生きる術を身につけた。やがて、ガールデン家の従僕として就職した後は、元々仕事との相性も良く異例の速さで執事に抜擢された。仕事は楽しく、気の合う仲間にも出会えて、マクシムの人生は順風満帆だった……恋愛方面以外は。
基本的に、マクシムは来るものを拒まず去るものを追わない姿勢で恋愛をしている。……そんな関係が『恋愛』と呼べるかは、甚だ疑問だったが、モテることはモテた。
―――――しかし、誰と付き合っても心の底で『物足りない』と感じてしまう。
彼に恋する女たちは、皆彼が外見に沿う性格だと決めつけてやってくるのだ。彼も最初はそれに合わせてやるものの、やはり心は疲弊する。……だから一ヶ月くらい経つと、ほんの少しだけ本性を出し様子を見るようにした。どのように出したかは、想像にお任せする。
「ごめんなさい。私、貴方に夢見ていたのね」
勝手に夢を見て、勝手に夢から覚めて……彼女たちはマクシムの元から去っていく。その度に、マクシムの心は音を立てて軋んでいった。
「サラ・ノールと申します。リリアーヌ様付きの侍女としてこちらに参りました。宜しくお願い致します」
初めて見た時、『地味な女だな』と思った。ありふれた茶髪と、焦茶色の瞳……特別に整っている訳ではないが、不細工でもない平凡な顔立ち。その奥二重の瞳が、マクシムの美貌を見て驚愕に見開かれた。……そういう反応には慣れっこなので、マクシムは微笑んで返す。これで今まで出会ってきた女たちは大抵マクシムに好感をもってくれた。彼にとっては、好意を向けられることなど簡単なこと。
しかし次の瞬間、マクシムの全身に電流が走った。
先程マクシムの美貌に見惚れてた彼女の瞳に、驚くほど冷たい光が宿っていたからだ。こんな事態は今までなかった。爽やかな笑顔の下で盛大に取り乱しながら、しかしその平凡顔な女の瞳が、マクシムの脳髄に焼き付き、ゾクゾクとした熱い何かを体の奥底から引きずり出してくる。
「―――ライル様、花を摘みにいって宜しいでしょうか」
「うん?ああ、いいぞ。さっさと行って来い」
「ありがとうございます」
その女……サラとの顔合わせが済んで直ぐ、マクシムは急ぎ足でトイレに駆け込んだ。個室の扉を締め、ズボンを緩めると、昂ぶった愚息が飛び出して腹につくほど反り上がる。
今まで、それなりに女を経験してきたマクシムだが、愚息がこんな事態になったのは生まれて初めてだ。一先ず収めねばならない―――――彼は口元をハンカチで抑え、手袋を外した右手でゆっくりと愚息を扱き始めた。
――――――――冷たい瞳だった。
まるで、マクシムの美貌をゴミか何かのように見据えた焦茶色の瞳に、体がどんどん熱くなる。自身の醜悪な中身を視姦されているかのような錯覚に情欲が際限なく湧き上がる。マクシムはたまらず目を閉じて、先程の女……サラの全身を思い浮かべ、愚息を扱く右手に力をこめた。すると、今までの自慰では感じたことがないほどの快感が彼を襲った。
「はぁ、………あ、サラ」
名前を呼んで、頭の中のサラを押し倒す。彼女はマクシムを嫌がって、懸命に彼の下で足掻いている。キッと睨み上げてくる、彼女の冷たい焦茶色の瞳がさらにマクシムを駆り立てた。想像の彼女を舐め回し、その唇の中に舌をねじ込みながら……マクシムはハンカチの下で舌なめずりする。
「侵したい、犯したい、私を嫌がる貴女を、滅茶苦茶に欠片も残さず食い潰したい、サラ、サラ、サラ!!!!……………はぁ、ウッ!!」
二分後、身のうちで暴れ回る欲情を個室の便器に吐き出し、マクシムは溜息をついた。驚くほど量が出た。最短新記録だ。
……………この子種を、サラの中に注ぎ込んだらどんなに心地いいだろう?
そう考えた瞬間、マクシムの愚息はまた頭を上げ始めた。その正直な反応に苦笑しつつ、愚息を拭いて強引にパンツに押し込む。そうして、個室を出ようとドアノブに手をかけた瞬間――――久しく忘れていた、あの祖母の声が耳元で鮮明に響いてきた。
『アンタは、あの男にそっくりだよ』
『あの男はね、アタシが嫌がるほど喜んでやがった。マァ、嫌がってなくても喜んだがね。変態野郎だったよ、今考えてもサ』
『皆にチヤホヤされて来たから、アタシの塩っぱい反応が珍しかったんだろうけどね………でも度が過ぎてたよ。普通、お貴族様の執事の家系だか何だかの坊っちゃんが……パン屋の下働きなんか嫁にするかね?』
『ああ、マクシム。アンタはあの男にそっくりだよ。顔も、性格も――――アタシなんかを気に入る所も』
『でもね、アタシの事は諦めな。何せ、アタシの全部はあの男にやったもんでね……例え孫でも、分けたりしたら呪われちまう。ああ、忌々しい』
『だからマクシム、アンタはアンタの只一人を見つけておいでな。本当のアンタを許してくれるような、アンタ自身と引き換えに全部を差し出す奇特な人をサ………マァ、そんな奇特な奴はなかなかいないけどね』
マクシムは改めて、彼女を思い浮かべてみた。茶髪に焦茶色の瞳、恐ろしく平凡な顔立ちの女サラ。彼の美貌を、ゴミを見るような目で見据えた奇特な女サラ。
理屈ではなく本能が疼く。欲しい。全部欲しい。彼女こそが『マクシムの只一人』に違いない!生まれて初めて感じる、マグマのような欲望が腹の底から噴出してくるのをマクシムは感じていた。
祖父も、祖母に対してそんな気持ちだったのだろうか?骨壷の中で混じり合い、一つになった祖父と祖母に、マクシムは心底会いたくなった。しかし、蓋を開けるなんて野暮だろう。彼らは死後の世界できっとお楽しみ中だろうから………彼は、彼のやり方で、サラを手に入れなければ。
マクシムは手洗いを出て、颯爽と廊下を歩き出した。その甘やかな美貌の下では、『マクシムの只一人』を手に入れる為のありとあらゆる手段と作戦が組み上げられていく。
「嗚呼、サラ―――貴女の全部が、欲しい」
こうして傍迷惑なことに……美貌の変態執事マクシム・レイドンが『完成』した。
彼は、彼の外見に勝手に夢を見て、本質を垣間見た瞬間幻滅する女が嫌いだ。その最たるものは、親戚のおば様であった。彼女は会う度に、「いつ見ても綺麗な子」「うちの子にほしいわ!」と甲高い声で叫び、熱苦しく抱き締めてくる。……しかし、マクシムが蟻の巣に水を流し込んで遊んでいたり、泥だらけになって近所の悪ガキと犬を追いかけていると、血相を変えて叫ぶのだ。「あなたはそんな子じゃないでしょう!?」「こんなに綺麗なものを汚すなんて!!」その女の目には、恐らく彼が陶器の人形に見えていたのかもしれない。彼を美しく飾り立て、一緒に『お出かけ』することを何よりも好んだ。
マクシムは生身の人間だ。人形でも装飾品でもない。
そのことを、誰よりも分かってくれたのは祖母であった。祖母は、幼いマクシムを見ながら常々言い聞かせていた。
「アンタは、あの男にそっくりだよ。予言してやる…アンタは絶対にあの男みたいになるってね」
祖母の語る『あの男』とは、祖母の夫……つまりマクシムの祖父に当たる人物である。因みに、祖母は下町の出身で少しぶっきらぼうな物言いをする人だった。それも、マクシムにとっては新鮮で、彼女の前でだけは自分を曝け出して甘えることができたのだった。
「おばあちゃん、僕おばあちゃんとずっと一緒に居たい」
マクシムが瞳を潤ませて見つめても、祖母はフンと鼻をならして彼の言葉を吹き飛ばしてしまう。……両親も含め周囲の人間は、マクシムがこうやってお強請りすれば何でも叶えてくれるのに、祖母は頑としてその願いを叶えてはくれなかった。
「悪いね坊や。アタシの全部はあの男が予約済なのサ。アンタにやれるもんは殆どないんだ」
そう言って、マクシムの口に大きな飴玉を放り込んでくれる。
「何もやらない」と言いつつ、そうやって甘やかしてくれる不器用な祖母が………やっぱりマクシムは大好きだった。
「こんなババァじゃなくてサ、マクシム。アンタは、アンタだけの『只一人』を見つければいい」
「………僕だけの、ただひとり?」
目を見開いたマクシムを尻目に、祖母は暮れなずむ空を見上げ目を細めた。
「そうサ。アンタが大人になった時、心の底から欲しいと思える人がきっと現れたら………ソイツがアンタを気にいるかは分からんがね」
何せ、アンタは『あの男』にそっくりだから。
苛立った声音に愛おしさを滲ませて、祖母は語る。祖父の性格、祖父にされたこと、祖父が彼女に遺したモノ、そして祖父との約束を。
『アレは最悪だった』
『ひどいもんサ』
『ヤツには本当ドン引きしたね!』
――――それらは全て、祖母から祖父への愛の言葉だ――――小さなマクシムは、何故かそう感じていた。
そしてマクシムが七歳の時、祖母は虹の橋を渡っていった。ベッドで寝たきりになっても尚、祖父への悪態をついていた……祖母らしい最期だ。祖母の遺体は荼毘に付された後、遺言通り骨を粉々に砕かれ、祖父の骨が入った壷の中に納められた。壷の中で混ざり合う、祖父と祖母の骨が、マクシムには究極の愛のカタチのように感じられた。
「僕も、僕だけの人と骨まで混じり合いたいな」
その小さな呟きを聞いた例のおば様が、何やら甲高い声で叫んでいたが……もう、全く気にはならなかった。
こうして小さなマクシムは、確実におかしな方向へと歩み始めたのだった。
歩き出したといっても、別段何があるわけでもない。マクシムは、年を重ねる内にその麗しい顔で変態性を上手く隠し生きる術を身につけた。やがて、ガールデン家の従僕として就職した後は、元々仕事との相性も良く異例の速さで執事に抜擢された。仕事は楽しく、気の合う仲間にも出会えて、マクシムの人生は順風満帆だった……恋愛方面以外は。
基本的に、マクシムは来るものを拒まず去るものを追わない姿勢で恋愛をしている。……そんな関係が『恋愛』と呼べるかは、甚だ疑問だったが、モテることはモテた。
―――――しかし、誰と付き合っても心の底で『物足りない』と感じてしまう。
彼に恋する女たちは、皆彼が外見に沿う性格だと決めつけてやってくるのだ。彼も最初はそれに合わせてやるものの、やはり心は疲弊する。……だから一ヶ月くらい経つと、ほんの少しだけ本性を出し様子を見るようにした。どのように出したかは、想像にお任せする。
「ごめんなさい。私、貴方に夢見ていたのね」
勝手に夢を見て、勝手に夢から覚めて……彼女たちはマクシムの元から去っていく。その度に、マクシムの心は音を立てて軋んでいった。
「サラ・ノールと申します。リリアーヌ様付きの侍女としてこちらに参りました。宜しくお願い致します」
初めて見た時、『地味な女だな』と思った。ありふれた茶髪と、焦茶色の瞳……特別に整っている訳ではないが、不細工でもない平凡な顔立ち。その奥二重の瞳が、マクシムの美貌を見て驚愕に見開かれた。……そういう反応には慣れっこなので、マクシムは微笑んで返す。これで今まで出会ってきた女たちは大抵マクシムに好感をもってくれた。彼にとっては、好意を向けられることなど簡単なこと。
しかし次の瞬間、マクシムの全身に電流が走った。
先程マクシムの美貌に見惚れてた彼女の瞳に、驚くほど冷たい光が宿っていたからだ。こんな事態は今までなかった。爽やかな笑顔の下で盛大に取り乱しながら、しかしその平凡顔な女の瞳が、マクシムの脳髄に焼き付き、ゾクゾクとした熱い何かを体の奥底から引きずり出してくる。
「―――ライル様、花を摘みにいって宜しいでしょうか」
「うん?ああ、いいぞ。さっさと行って来い」
「ありがとうございます」
その女……サラとの顔合わせが済んで直ぐ、マクシムは急ぎ足でトイレに駆け込んだ。個室の扉を締め、ズボンを緩めると、昂ぶった愚息が飛び出して腹につくほど反り上がる。
今まで、それなりに女を経験してきたマクシムだが、愚息がこんな事態になったのは生まれて初めてだ。一先ず収めねばならない―――――彼は口元をハンカチで抑え、手袋を外した右手でゆっくりと愚息を扱き始めた。
――――――――冷たい瞳だった。
まるで、マクシムの美貌をゴミか何かのように見据えた焦茶色の瞳に、体がどんどん熱くなる。自身の醜悪な中身を視姦されているかのような錯覚に情欲が際限なく湧き上がる。マクシムはたまらず目を閉じて、先程の女……サラの全身を思い浮かべ、愚息を扱く右手に力をこめた。すると、今までの自慰では感じたことがないほどの快感が彼を襲った。
「はぁ、………あ、サラ」
名前を呼んで、頭の中のサラを押し倒す。彼女はマクシムを嫌がって、懸命に彼の下で足掻いている。キッと睨み上げてくる、彼女の冷たい焦茶色の瞳がさらにマクシムを駆り立てた。想像の彼女を舐め回し、その唇の中に舌をねじ込みながら……マクシムはハンカチの下で舌なめずりする。
「侵したい、犯したい、私を嫌がる貴女を、滅茶苦茶に欠片も残さず食い潰したい、サラ、サラ、サラ!!!!……………はぁ、ウッ!!」
二分後、身のうちで暴れ回る欲情を個室の便器に吐き出し、マクシムは溜息をついた。驚くほど量が出た。最短新記録だ。
……………この子種を、サラの中に注ぎ込んだらどんなに心地いいだろう?
そう考えた瞬間、マクシムの愚息はまた頭を上げ始めた。その正直な反応に苦笑しつつ、愚息を拭いて強引にパンツに押し込む。そうして、個室を出ようとドアノブに手をかけた瞬間――――久しく忘れていた、あの祖母の声が耳元で鮮明に響いてきた。
『アンタは、あの男にそっくりだよ』
『あの男はね、アタシが嫌がるほど喜んでやがった。マァ、嫌がってなくても喜んだがね。変態野郎だったよ、今考えてもサ』
『皆にチヤホヤされて来たから、アタシの塩っぱい反応が珍しかったんだろうけどね………でも度が過ぎてたよ。普通、お貴族様の執事の家系だか何だかの坊っちゃんが……パン屋の下働きなんか嫁にするかね?』
『ああ、マクシム。アンタはあの男にそっくりだよ。顔も、性格も――――アタシなんかを気に入る所も』
『でもね、アタシの事は諦めな。何せ、アタシの全部はあの男にやったもんでね……例え孫でも、分けたりしたら呪われちまう。ああ、忌々しい』
『だからマクシム、アンタはアンタの只一人を見つけておいでな。本当のアンタを許してくれるような、アンタ自身と引き換えに全部を差し出す奇特な人をサ………マァ、そんな奇特な奴はなかなかいないけどね』
マクシムは改めて、彼女を思い浮かべてみた。茶髪に焦茶色の瞳、恐ろしく平凡な顔立ちの女サラ。彼の美貌を、ゴミを見るような目で見据えた奇特な女サラ。
理屈ではなく本能が疼く。欲しい。全部欲しい。彼女こそが『マクシムの只一人』に違いない!生まれて初めて感じる、マグマのような欲望が腹の底から噴出してくるのをマクシムは感じていた。
祖父も、祖母に対してそんな気持ちだったのだろうか?骨壷の中で混じり合い、一つになった祖父と祖母に、マクシムは心底会いたくなった。しかし、蓋を開けるなんて野暮だろう。彼らは死後の世界できっとお楽しみ中だろうから………彼は、彼のやり方で、サラを手に入れなければ。
マクシムは手洗いを出て、颯爽と廊下を歩き出した。その甘やかな美貌の下では、『マクシムの只一人』を手に入れる為のありとあらゆる手段と作戦が組み上げられていく。
「嗚呼、サラ―――貴女の全部が、欲しい」
こうして傍迷惑なことに……美貌の変態執事マクシム・レイドンが『完成』した。
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