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本編
へんたいせんようおせわががり③※
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「つ、疲れたあ……………」
入浴ご奉仕を終え、サラは自室のベッドに倒れ込んだ。足元がふらつく彼女を部屋まで送り届けたのはもちろん、元凶マクシムである。因みにこの変態は、部屋の扉を開けた瞬間物凄い勢いで深呼吸していた。あと、「貴女の香りに包まれながら眠りたい」と宣のたまい帰るのを渋った為、サラは使用済みタオルを渡し丁重にお引き取り願った。それを変態野郎が何に使うのか具体的に考えることはやめた。自分の心の平穏の為だ。
あの後……マクシムの愚息を洗うのは、本当に大変だった。
肉茎に直接触れるのを躊躇うサラの手の平に無理やり泡を乗せ、あろうことかマクシムはその手を掴み誘導し始めたのだ。手の平に無理やり擦り付けられるマクシムの欲望は熱く固く太く、とても大きいものだから、サラの手の平には当然収まらない。強引に握らされた後は、上下に扱くようにして洗わされた。おまけに、その後愚息から飛び出た白い液体をサラの顔と胸に思い切り振りかけられた。……本人はしれっと「わざとではありません」と言っていたが、絶対にわざとだとサラは確信している。
「ああ、汚してしまいました!申し訳ございません。お詫びに綺麗に洗って差し上げますからね!!さぁ、サラ、私に身を委ねて……ふふふ湯着が張り付いてサラの体のラインが私に丸見えですよ。おや?恥ずかしいのですか?大丈夫です透けてはいませんし全裸でもありませんから貴女は何も恥ずかしくありませんそうでしょう?」
そんな事を言いながら、湯着の上からお湯をかけられ、たっぷりの泡で全身洗われた。……もちろん、洗うのも湯着の上からである。
奴は左手しか使えないというのに、器用にサラの顔や胸を洗い清めていった。今になって気づいたが、それだけ洗えるならもう自力で入浴できたのでは……?サラは俄然腹が立ってきたが、怒りをぶつける相手はここにいない。おまけに怪我人だから、本気で殴るわけにもいかない。儘ならないものである。
「………あと、一ヶ月」
ひとしきり怒りと羞恥で悶絶した後、サラはぼんやりと天井を眺めながら呟いた。
そう、現在、『告白』という名のタイムリミットまであと一ヶ月を切った。この二ヶ月間、マクシムと過ごした濃密な時間を思い出しサラは苦笑する。変態的なセクハラばかりだが、それでも恋する相手との触れ合いだ。ドン引きはするがトキメキもしている、実に奇妙な二ヶ月間だった。
共に過ごす中で、彼女はつい、こう思いそうになる。
もしかして、マクシムはサラが嫌がらなくても……マクシムが以前言っていた『普通の女』のような反応をしても、彼女を愛してくれるのではないか?
変態発言を打ち返しながら過ごすそれなりに穏やかな日々は、とても居心地がよい。だから、つい彼女は『この関係が永遠に続く』ような錯覚に陥りそうになる。どうにか今の所は勘違いせずに済んでいるけれど、毎日自分を律し続けるのは大変だ。サラは重いため息をついた。
「……ずっと、奴の怪我が治らなければいいのに」
あるいは、一生残るような怪我をしてくれていたら……それを理由にして、彼の世話係としてずっと側にいられたかもしれない。そんな仄暗い考えが頭をよぎり、サラは頭を振った。そしてそんな事を考え始めてしまった自分自身に恐れ慄く。
「あーぁあ………こんなだから『重い』とか言われるんですよぅ」
こんな時に思い出すのは、いつだって最初の恋人のことだ。今はもう記憶も朧気だが、確か顔だけは爽やかな男だった。職場の同僚だったその男から……好きだと告白された時は、天にも昇る気持ちになったものだ。そして、初めての恋に舞い上がるサラは、その人の『お嫁さん』になれると思っていた。………相手が自分と同じ気持ちだと、勝手に思い込んでいたのだ。
彼の『お嫁さん』になると信じていたサラは、その男に全てを捧げて尽しまくった。お金も時間も心も―――体も、全部。
しかし、捧げつくして残り滓かすになったサラに、彼は言ったのだ。
『何か飽きちゃったんだよな。ちょっと試しに付き合ってみただけだったのに――――お前、やっぱ重いわ』
とても可愛い『新しい彼女』を腕に抱きながら、その男は笑ってそう言った。やはり顔だけは爽やかな最低野郎だった。その瞬間、ブチ切れたサラは一本背負いでソイツを木の幹に叩きつけてやった。反省も後悔もしていない。当然の報いだと思っている。
……そんな初恋の後に残ったのは、『重い女』という称号と………残り滓のサラだけだった。でも、そんな彼女にも時たま「好きだよ」と言ってくれる人がいた。だから何度も、何度もサラは彼を信じて恋をした。
しかし、結果はこの通りだ。
残り滓はさらに絞られカサカサに乾いて小さく平たくなってしまった。そんな風になってやっと、彼女は悟ったのだ。自分のような……平凡な容姿で残り滓ばかりの重い女に、本気で恋をする奇特な男などいない、ということを。
だから、サラは一人で生きていくことに決めた。
幸い、友人はたくさんいる。実家の家族も優しい。職場関係も良好。恋愛さえ諦めれば、サラの人生は一気に順風満帆になった。『気ままにおひとり様人生計画』は、そうして出来上がった……彼女の最後の砦だ。現実の彼女は力強く立ち直り、仕事に邁進した。
でも、心の奥底では未だ……残り滓のサラが、蹲うずくまって泣いている。
『恋する人に、愛されたい』
『残り滓でも良いって言って』
残り滓になっても尚、欲張りで寂しがりのサラは、最後の恋を必死に抱き締め護ろうとしている。その隣では、ナイフをもった現実主義のサラが……いつか来る『終わり』に備えて静かに佇んでいた。
恋の寿命は、あと一ヶ月。
さみしんぼのサラ・ノールは恋の終わりに殺される。それはそれで、恋に生きる愚かな彼女に似合いの結末なのかもしれない。
………来たるべきその日を思い浮かべながら、サラはゆっくりと眠りに落ちていった。
入浴ご奉仕を終え、サラは自室のベッドに倒れ込んだ。足元がふらつく彼女を部屋まで送り届けたのはもちろん、元凶マクシムである。因みにこの変態は、部屋の扉を開けた瞬間物凄い勢いで深呼吸していた。あと、「貴女の香りに包まれながら眠りたい」と宣のたまい帰るのを渋った為、サラは使用済みタオルを渡し丁重にお引き取り願った。それを変態野郎が何に使うのか具体的に考えることはやめた。自分の心の平穏の為だ。
あの後……マクシムの愚息を洗うのは、本当に大変だった。
肉茎に直接触れるのを躊躇うサラの手の平に無理やり泡を乗せ、あろうことかマクシムはその手を掴み誘導し始めたのだ。手の平に無理やり擦り付けられるマクシムの欲望は熱く固く太く、とても大きいものだから、サラの手の平には当然収まらない。強引に握らされた後は、上下に扱くようにして洗わされた。おまけに、その後愚息から飛び出た白い液体をサラの顔と胸に思い切り振りかけられた。……本人はしれっと「わざとではありません」と言っていたが、絶対にわざとだとサラは確信している。
「ああ、汚してしまいました!申し訳ございません。お詫びに綺麗に洗って差し上げますからね!!さぁ、サラ、私に身を委ねて……ふふふ湯着が張り付いてサラの体のラインが私に丸見えですよ。おや?恥ずかしいのですか?大丈夫です透けてはいませんし全裸でもありませんから貴女は何も恥ずかしくありませんそうでしょう?」
そんな事を言いながら、湯着の上からお湯をかけられ、たっぷりの泡で全身洗われた。……もちろん、洗うのも湯着の上からである。
奴は左手しか使えないというのに、器用にサラの顔や胸を洗い清めていった。今になって気づいたが、それだけ洗えるならもう自力で入浴できたのでは……?サラは俄然腹が立ってきたが、怒りをぶつける相手はここにいない。おまけに怪我人だから、本気で殴るわけにもいかない。儘ならないものである。
「………あと、一ヶ月」
ひとしきり怒りと羞恥で悶絶した後、サラはぼんやりと天井を眺めながら呟いた。
そう、現在、『告白』という名のタイムリミットまであと一ヶ月を切った。この二ヶ月間、マクシムと過ごした濃密な時間を思い出しサラは苦笑する。変態的なセクハラばかりだが、それでも恋する相手との触れ合いだ。ドン引きはするがトキメキもしている、実に奇妙な二ヶ月間だった。
共に過ごす中で、彼女はつい、こう思いそうになる。
もしかして、マクシムはサラが嫌がらなくても……マクシムが以前言っていた『普通の女』のような反応をしても、彼女を愛してくれるのではないか?
変態発言を打ち返しながら過ごすそれなりに穏やかな日々は、とても居心地がよい。だから、つい彼女は『この関係が永遠に続く』ような錯覚に陥りそうになる。どうにか今の所は勘違いせずに済んでいるけれど、毎日自分を律し続けるのは大変だ。サラは重いため息をついた。
「……ずっと、奴の怪我が治らなければいいのに」
あるいは、一生残るような怪我をしてくれていたら……それを理由にして、彼の世話係としてずっと側にいられたかもしれない。そんな仄暗い考えが頭をよぎり、サラは頭を振った。そしてそんな事を考え始めてしまった自分自身に恐れ慄く。
「あーぁあ………こんなだから『重い』とか言われるんですよぅ」
こんな時に思い出すのは、いつだって最初の恋人のことだ。今はもう記憶も朧気だが、確か顔だけは爽やかな男だった。職場の同僚だったその男から……好きだと告白された時は、天にも昇る気持ちになったものだ。そして、初めての恋に舞い上がるサラは、その人の『お嫁さん』になれると思っていた。………相手が自分と同じ気持ちだと、勝手に思い込んでいたのだ。
彼の『お嫁さん』になると信じていたサラは、その男に全てを捧げて尽しまくった。お金も時間も心も―――体も、全部。
しかし、捧げつくして残り滓かすになったサラに、彼は言ったのだ。
『何か飽きちゃったんだよな。ちょっと試しに付き合ってみただけだったのに――――お前、やっぱ重いわ』
とても可愛い『新しい彼女』を腕に抱きながら、その男は笑ってそう言った。やはり顔だけは爽やかな最低野郎だった。その瞬間、ブチ切れたサラは一本背負いでソイツを木の幹に叩きつけてやった。反省も後悔もしていない。当然の報いだと思っている。
……そんな初恋の後に残ったのは、『重い女』という称号と………残り滓のサラだけだった。でも、そんな彼女にも時たま「好きだよ」と言ってくれる人がいた。だから何度も、何度もサラは彼を信じて恋をした。
しかし、結果はこの通りだ。
残り滓はさらに絞られカサカサに乾いて小さく平たくなってしまった。そんな風になってやっと、彼女は悟ったのだ。自分のような……平凡な容姿で残り滓ばかりの重い女に、本気で恋をする奇特な男などいない、ということを。
だから、サラは一人で生きていくことに決めた。
幸い、友人はたくさんいる。実家の家族も優しい。職場関係も良好。恋愛さえ諦めれば、サラの人生は一気に順風満帆になった。『気ままにおひとり様人生計画』は、そうして出来上がった……彼女の最後の砦だ。現実の彼女は力強く立ち直り、仕事に邁進した。
でも、心の奥底では未だ……残り滓のサラが、蹲うずくまって泣いている。
『恋する人に、愛されたい』
『残り滓でも良いって言って』
残り滓になっても尚、欲張りで寂しがりのサラは、最後の恋を必死に抱き締め護ろうとしている。その隣では、ナイフをもった現実主義のサラが……いつか来る『終わり』に備えて静かに佇んでいた。
恋の寿命は、あと一ヶ月。
さみしんぼのサラ・ノールは恋の終わりに殺される。それはそれで、恋に生きる愚かな彼女に似合いの結末なのかもしれない。
………来たるべきその日を思い浮かべながら、サラはゆっくりと眠りに落ちていった。
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