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新婚旅行編

やっぱりテメェは糞親父だ

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「お前らに合わせる顔が、なかったんだ。何て説明したらいいのかも、ポルカ以外に信じてもらえる自信も無かった」

 ジルベルトの魔力と魔法の技術をもってすれば、下界の家族に便りを送ることは出来た。それでも、それをしなかったのは――偏にジルベルトが決定的に家族に嫌われた事実を知るのを恐れたからだ。
 便りを送れば、きっと家族は事情を聞いてくるに違いない。けれど、正直に説明したとして、信じてもらえる自信もなかった。

 信じてもらえなかったら
 何故帰ってこないのかと泣かれたら
 いや反対に、『この糞野郎、もう二度と面を見せるな』と言われたら……

 最悪の事態を想像すればするほど動けなくなり、何も出来ない内に時間だけが経っていく。そして十年、二十年経ち――さらに動けなくなっていった。
 そうして結局、遠見の鏡で愛しい家族を見守るくらいしかできなかったのだ。
 遠くから見守って、怪我や病気が見つかったらこっそりと治す。……それくらいしか、出来なかった。

「情けねぇ。俺ぁ夫としても、親父としても……失格だ」

 大きな背中を丸めたジルベルトは、一回りも二回りも縮んだ気がした。四方を取り囲む『家族』の視線が、体の方々に深々と突き刺さる。
 中でも一等キツいのは、やはり胸倉を掴んで頭突きを繰り出した長男の目だ。
 彼の瞳はジルベルトによく似ている。目尻の吊り上がり方も、三白眼も、朝日に燃えるようなその虹彩も、鏡と睨み合っているかのようだ。


「……くっだらねぇ」


 沈黙の中、吐き捨てるような息子ジャンの声が響く。

「図体の割にみみっちい理由だな。……やっぱテメェは、“糞親父”だ」
「ジャン! アンタ、さっきから聞いてりゃ――」
「糞だろうが! あぁ!? ネズミの糞よりちっちぇ肝っ玉しやがって!」

 ジルベルトの腕の中で懸命に抗議してくれるポルカを睨みつけ、ジャンが鼻を鳴らして笑う。そんな長兄の様子に、ガルラが手を上げて続いた。全く誰に似たのか、図体に似合わぬ控えめさだ。

「俺も……そう、思う。なぁ、ミゲル」
「うん。僕も同感だ」

 次兄に続いたのは、末っ子のミゲルだ。目を丸くした嫁サリアに小突かれつつ、肩を竦めて口を開いた。

「だってそうだろ、無責任だよ。父さんは大黒柱だったんだよ? 父さんが居なくなって、母さんがどれだけ苦労したか……見てたなら、知ってた筈だ。それをこんな仕様のない理由でさあ」
「父さんが消えてから……噂も、尾鰭がついて回った。俺も、兄さんも、ミゲルも、苛められた。大変、だった」
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