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新婚旅行編
洗いざらい吐いてもらおうか(長男ジャン視点)
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――山に凶暴な魔獣が出たけど、何だか知らないうちに死んだらしい――
穏やかな村に、そんな衝撃的な噂が走り回った。
凶暴で厄介な魔獣――毛玉アンコウが出現した報告を受け、領主が国に依頼し騎士団が派遣された。しかし、魔獣を発見した時には既に息絶えていたのだという。しかもその死に方がまた尋常ではない。
鉄の鎧も噛み砕くとも言われている鋭い歯は、へし折れてボロボロ。おまけに眉間から大きな木が生えていたとか。
その異様な死に方に、騎士団は一様に首を傾げた。魔獣同士の潰し合いによるものか?とも言われたが……それにしたって、眉間に折れた木の幹を突き刺すような魔獣がいるだろうか。しかし、もしかすると新たな魔獣の可能性も捨てきれない。騎士団は暫く村にとどまり山を見回ってくれるそうだ。数日見張って何もなければ、王都へ引き返していく予定だとか。
村中が魔獣の噂で沸いた、その日の夜。『臨時休業』の札がかかったつみきのおくすり屋の中では――
「……で?」
ジャンが眉間に皺を寄せ、鋭い目で家族を見渡していた。彼の視線はあちこち包帯を巻いたガルラとジルを飛び越えて、妙にしょぼくれたポルカとサリア、そしてその背中を擦るミゲルに向かって突き刺さる。
ちなみ、今回のことに無関係なジルコニアは部屋へ帰ってもらっている。皆無事で、魔獣も死んで一安心、今頃は夢の中にいることだろう。
「何をコソコソ何企んでたのか、洗いざらい吐いてもらおうか」
……という訳で今、ミラー家の家族会議が始まろうとしていたのだった。
◆◇◆
結局、ポルカたちは『家族仲直り大作戦』のことを洗いざらい吐かされることになった。サリアの作った計画書も、細々とした指示も全部だ。
ジャンは、最初は怒りの形相でおせっかいな弟嫁を睨んでいたが……計画の全貌を聞くにつれて、だんだんと呆れ顔になっていった。
「あのなぁ、そんっなくだらねぇやり方で、俺らがこの糞野郎と今更仲良くなるわけがねぇだろ」
「く、くだらないって……」
「くだらねぇよ。お膳立てされたピンチで仲直りなんざ、寒すぎてやってられねぇ。前々から思ってたが、アンタ小説本の読み過ぎだぜサリアさん」
「うぐ……っ!……ごめんなさい……」
泣き腫らし目を真っ赤にしたサリアは、肩を落として俯いた。元々、『自分があの計画を言い出したせいで皆が危険な目にあってしまった』と随分泣いて落ち込んでいたのだ。ジルコニアが必死で止めていなければ、皆を追って山へ登ってきていたかもしれない。
――まぁ、毛玉アンコウはサリアさんのせいじゃねぇし。魔獣と鉢合わせたのは、国から村へ通達が遅れたことも悪かったんだ。
そう思うが、言ってはやらない。恐らくこの件、ジャンは生涯根に持つだろう。
彼は鼻から大きく息を吐き……次に、サリアの両隣でしょぼくれた末弟と母を睨んだ。
穏やかな村に、そんな衝撃的な噂が走り回った。
凶暴で厄介な魔獣――毛玉アンコウが出現した報告を受け、領主が国に依頼し騎士団が派遣された。しかし、魔獣を発見した時には既に息絶えていたのだという。しかもその死に方がまた尋常ではない。
鉄の鎧も噛み砕くとも言われている鋭い歯は、へし折れてボロボロ。おまけに眉間から大きな木が生えていたとか。
その異様な死に方に、騎士団は一様に首を傾げた。魔獣同士の潰し合いによるものか?とも言われたが……それにしたって、眉間に折れた木の幹を突き刺すような魔獣がいるだろうか。しかし、もしかすると新たな魔獣の可能性も捨てきれない。騎士団は暫く村にとどまり山を見回ってくれるそうだ。数日見張って何もなければ、王都へ引き返していく予定だとか。
村中が魔獣の噂で沸いた、その日の夜。『臨時休業』の札がかかったつみきのおくすり屋の中では――
「……で?」
ジャンが眉間に皺を寄せ、鋭い目で家族を見渡していた。彼の視線はあちこち包帯を巻いたガルラとジルを飛び越えて、妙にしょぼくれたポルカとサリア、そしてその背中を擦るミゲルに向かって突き刺さる。
ちなみ、今回のことに無関係なジルコニアは部屋へ帰ってもらっている。皆無事で、魔獣も死んで一安心、今頃は夢の中にいることだろう。
「何をコソコソ何企んでたのか、洗いざらい吐いてもらおうか」
……という訳で今、ミラー家の家族会議が始まろうとしていたのだった。
◆◇◆
結局、ポルカたちは『家族仲直り大作戦』のことを洗いざらい吐かされることになった。サリアの作った計画書も、細々とした指示も全部だ。
ジャンは、最初は怒りの形相でおせっかいな弟嫁を睨んでいたが……計画の全貌を聞くにつれて、だんだんと呆れ顔になっていった。
「あのなぁ、そんっなくだらねぇやり方で、俺らがこの糞野郎と今更仲良くなるわけがねぇだろ」
「く、くだらないって……」
「くだらねぇよ。お膳立てされたピンチで仲直りなんざ、寒すぎてやってられねぇ。前々から思ってたが、アンタ小説本の読み過ぎだぜサリアさん」
「うぐ……っ!……ごめんなさい……」
泣き腫らし目を真っ赤にしたサリアは、肩を落として俯いた。元々、『自分があの計画を言い出したせいで皆が危険な目にあってしまった』と随分泣いて落ち込んでいたのだ。ジルコニアが必死で止めていなければ、皆を追って山へ登ってきていたかもしれない。
――まぁ、毛玉アンコウはサリアさんのせいじゃねぇし。魔獣と鉢合わせたのは、国から村へ通達が遅れたことも悪かったんだ。
そう思うが、言ってはやらない。恐らくこの件、ジャンは生涯根に持つだろう。
彼は鼻から大きく息を吐き……次に、サリアの両隣でしょぼくれた末弟と母を睨んだ。
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