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新婚旅行編

大好きなおばあちゃん(ジルコニア視点)

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 アタシの名前はジルコニア。
 薬屋ミゲルの愛娘で、顔は母親のサリアさん似だねってよく言われる。

 自慢は、この燃えるような赤毛。お祖父ちゃん似だってお祖母ちゃんが言ってた。だから、お祖父ちゃんの名前からちょこっと字を拝借してコニア――まぁ伯父さんたちは大反対だったみたいだけど、アタシ自身は割と気に入ってる。

 そんなお祖母ちゃんは、昔々妖精と結婚したことがあるんだって。その妖精ってのは勿論、アタシのお祖父ちゃん。
 本当だったら妖精と人間の混血ってことだよね、すごい! 叔父さんたちやお父さんは全然信じてないけど……ま、アタシにとってはドッチでもいい話だ。

 お祖父ちゃんは、まだ子どもだったお父さん達とお祖母ちゃんを捨てて蒸発しちゃったんだって。
 なんの前触れもなく消えたから、森の獣に食い殺されたとか、拐かしにあったとか、はたまた女に誑かされたんだとか、当時は色んな噂が出まわったらしい。
 でも結局、お祖母ちゃんが『夫は故郷へ帰った』って言ったから、そういうことになったんだそうだ。

 普通に考えたら酷い話だよネ。年端もいかない子どもと女房ほっぽって出ていったんだもん。

 ……でも、お祖母ちゃんは、いっこも恨んでなんかいなかった。

「ジルコニア、大事な人にウソをついちゃいけないよ。アタシみたいになっちまうからネ?」

 そう言って、皺だらけの目元を緩めて寂しそうに笑ったお祖母ちゃんの顔を、アタシは今でも覚えている。
 濁り始めた灰色の瞳は、それでもお祖父ちゃんに――恋を、していた。

 お祖母ちゃん。
 いつもバレバレのウソをつく、優しいお祖母ちゃん。
 家族みんなに愛されて逝った、アタシたちの大好きなお祖母ちゃん。

 死んじゃった時はそりゃもう大変だった。伯父さんたちもお父さんも号泣して使い物にならなくなったし、お母さんや叔母さんたちはお葬式の準備やらお手紙やら何やら、とにかく大忙し。
 アタシや従兄弟たちも一生懸命お手伝いしたし、お手伝いしながらちょっと泣いたりもした。ほんとチョットだけだよ!

 あと親族全員満場一致で、立派なお墓を建てることになったりもした。
 珍しい模様の黒い石は、商家に婿入りした上の伯父さんが買い付けてきて、墓碑銘は手先の器用な下の叔父さんが彫ってくれた。お父さんは、花屋からお祖母ちゃんの好きな色のお花を沢山買ってきてお供えした。

 夕陽の中で朱色のお花に囲まれて、ピカピカ光る立派なお墓は、アタシたちの『お祖母ちゃん大好き!』の想いが詰まった大切なもの。自己満足だけど、でも、こうでもしないとお祖母ちゃんが心に開けた穴が大きすぎて、悲しくて寂しくて、きっとみんな耐えられなかったんだ。

「あーあ。結局立派なお墓をつくっちまった。きっとあの世でお袋カンカンだぜ? 『アタシなんかのお墓に金使うなんて!!』ってさ」

 鼻を啜りながら、上の伯父さんがそう言って、そうしてやっとみんな腹の底から笑うことが出来たんだっけ――
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