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本編
52 ハリスの甘い◦◦◦
しおりを挟む「そういえば、前に王太子殿下にここに口づけされていましたね?」
ここと言う台詞の時にまた左手の薬指の指輪のつけ根にハリー様が唇でゆっくりと触れる。
その仕草がユリウス兄様と重なって見えて、その時のことを思い出した。
「あれは──」
「二度とここに口づけを許さないでください。誰にもですよ」
そう言うハリー様の眉間にはしわが寄っていた。
突然不機嫌になったことに驚いて、ハリー様を見つめ返す。
ハリー様はシェラルージェが返事をしないことに焦れたのか、せっつくようにシェラルージェの名前を呼ぶ。
「シェーラ?」
ハリー様に『シェーラ』と切なげに甘く響く声で呼び捨てにされて、さっきから顔が熱が出た時のように熱いのに今は湯気が出てきそうなくらいに上気していた。
ハリー様の声がシェラルージェの心を甘く捕らえて、どんな返事を返さなければいけないのか分からなくなりそうだった。
それでも頑張って、あの時の状況を説明する。
「あの……、あれはユリウス兄様のイタズラだと思います。妹として好きだよって言われましたし」
「は? …………はぁー、からかわれただけですか」
ハリー様は始めポカンとしてシェラルージェの言葉を聞いたあと、肩を落とした。
そしてすぐに立ち直ると、恋焦がれているのがシェラルージェにもわかる瞳で真っ直ぐ見つめ、確認するように言葉を続ける。
「それでも、シェーラに触れていいのはもう私だけです。いいですね?」
「──はい」
この段階になって、やっとハリー様がなんでこの話をしたのか理解できた。
初めて示された独占欲からくる嫉妬に、シェラルージェは嬉しくて顔が緩んでしまう。
本当にハリー様が私を好きなのだと実感することが出来た。
ハリー様はシェラルージェの返事を聞くと満足そうに微笑む。
ハリー様の笑顔にシェラルージェの心がトクントクンと嬉しそうに鳴っていた。
ハリー様の視線がシェラルージェの耳に注がれると、おもむろに顔が近づいてきた。
反射的に逃げを打ったシェラルージェの左耳にハリー様の右手が添えられて動けなくなり、右耳にハリー様の唇が触れる感触がした。そして、そのまま耳元で甘く囁かれて、その甘い痺れが全身に広がっていく。
「よく似合ってますね。これもシェーラの為に用意した物だったんですよ」
イヤリングに触れられて、遅れてハリー様の言葉が脳に届いた。
その言葉に驚きすぎて言葉が出てこなかった。
(……うそ、だってこれは私がハリー様を好きだと気づくきっかけになったイヤリングなのに。そのイヤリングが始めから私のために用意した物だった? ……じゃあ、ハリー様はそんなに前から私のことを好きだったの?)
混乱するシェラルージェに気がつかないハリー様は、そのままシェラルージェの耳元で囁き続ける。
「あの時はシェーラが心配でどうしてもイヤリングを受け取って欲しかったので嘘をつきました。シェーラが受け取るのを遠慮すると思ったので」
ハリー様が耳元で苦笑したのが分かった。
苦笑した時の息が耳に触れて、くすぐったかった。
その刺激にハリー様の言葉に衝撃を受けていたシェラルージェは現実に戻ってこられた。そしてその事実がシェラルージェの心を満たし、とても嬉しくて笑みが零れる。
その間にも耳に触れていたハリー様の唇が頭に移動して口づけを落とす。
そして左耳に添えられていた手で顔をハリー様の方に向けられると、ハリー様の顔が近づいてきた。反射的に瞳を閉じたら瞼の上に口づけられる。
優しく触れる唇がシェラルージェが大切だと、愛しいと伝えていた。
それが嬉しくて瞳を開けると、熱くて蕩ける瞳がシェラルージェを見つめていた。
「シェーラ、愛しています」
瞳と同じく熱くて蕩ける声で囁かれる。
近づいてくるハリー様に自然と瞳を閉じるとシェラルージェの唇に優しく口づけられる。優しく触れ合う口づけがシェラルージェの心を幸せで満たした。
幸せな何度も触れる口づけに、次第に息も心もいっぱいいっぱいで苦しくなる。
「──もういっぱいです」
息も絶え絶えで真っ赤に茹だったシェラルージェの顔を見て、ハリー様はしょうがないなという顔をして離してくれた。
そして、ハリー様は真面目な顔をすると、シェラルージェに驚きの事実を告げた。
「シェーラ、私はランバルシア家に婚約の申し込みをしています」
「え?」
「ランバルシア家の返答はシェーラの気持ち次第だと言われました」
そこで言葉を区切ると、愛しいと切なげに訴える瞳で見つめられる。
「シェーラ、私と結婚していただけますか?」
ハリー様の言葉に、シェラルージェの心の奥底に眠っていたハリー様を想って苦しんだ想いが嬉しさに溶けて溢れ出した。
「………はい」
嬉しさと苦しさと切なさと色々な感情が混ざり合って、シェラルージェの瞳から涙となって溢れた。
泣き出したシェラルージェの涙を掬い取り、涙が止まるまでハリー様は優しく抱き締めてくれた。
それは、後処理を終えてアルム兄様が馬車に戻って来るまで続いた。
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