50 / 63
本編
43 ユリウスの攻撃
しおりを挟む落ち込んでいるシェラルージェをセリーナはそっと抱きしめる。
「本当に世話が焼けるんだから」
ぼそっと呟かれた言葉に、「ごめんなさい」と顔を覆ったまま呟く。
すると、セリーナに両手を掴まれ、顔を隠していた手を外された。そして、セリーナの瞳がシェラルージェを捉える。
「シェラ、自分の気持ちに正直になってぶつかってみなさい」
「そうだね。私も自分の気持ちに正直になることにするよ」
そこにまたしてもユリウス兄様が割り込んできた。
先ほどまで大人しくしていたのは、悩んでいたシェラルージェのことを心配してのことだったのか。
ユリウス兄様の瞳はまだ妖しく光っていて、獲物を狙う鋭さを宿していた。
ユリウス兄様はシェラルージェを掴んでいたセリーナの手を取り、自分の方へ引き寄せる。
セリーナはユリウス兄様の行動に異変を感じたのか、訝しげに見やる。
「ユリウス兄様?」
「私はセリーナの兄ではないよ?」
「今更何を仰っているのですか?」
「確かに今更なのだけれどね……、さっき気が付いたのだからしょうがないだろう?」
「は? ですから先ほどから何ですか? 距離も近すぎますし……また何かイタズラでも思いついたのですか?」
ユリウス兄様は愉しそうに笑ってセリーナと会話をしながらも、徐々にセリーナを壁際に追い詰めていく。
セリーナはユリウス兄様の常にない様子に気圧されて距離を取るように後ずさると遂に壁に背中が触れた。
ユリウス兄様はセリーナを囲むように両手を壁につくと、凄絶な色気を放って笑った。
「……ああ、そうだね。今とてもイタズラしたくなった人を見つけたんだよ」
「──そういうことはおやめくださいと昔からお伝えしてますよね?」
セリーナはユリウス兄様の色気に当てられて、顔を赤らめながらも毅然として注意していた。
「そうだね」
「周りの迷惑も考えてください」
「今回は大丈夫だよ」
「何が大丈夫なのですか?」
セリーナのぶれない態度にもユリウス兄様は愉しそうに笑っている。
そして、ゆっくりとセリーナの耳元に口を近づけて囁いた。
「ふふ、それはね。セリーナが対象だから他には迷惑をかけないよ」
「──────!」
セリーナが顔を真っ赤にして言葉を失い固まった。
シェラルージェは目の前で繰り広げられる出来事を呆然と見ていた。
すると誰かに肩を叩かれて我に返る。
見ると呆れたような顔でアルム兄様が肩に手を置いていた。
「あれは放っておこう」
「…………はい」
ユリウス兄様は暴走しているように見えた。いつもとは様子が違っていたけれど。
だから、シェラルージェにはあのユリウス兄様を止めることは出来ないと思った。
いつもなら暴走するユリウス兄様を止めるのはセリーナ。そのセリーナが捕まっているなら誰にも止められるはずがなかった。
静かに離れようとしたら、そこにセリーナの縋るような助けを求める声がかかる。
「シェラ、待って。助けてちょうだい」
「シェラ、お疲れ様。結界のこと頼んだよ」
「……は、はい」
セリーナの声に動こうとした身体は、ユリウス兄様の妖しく光る瞳に見据えられ怯んだ。その瞳は陛下と同じ王者の風格があり逆らうことが許されないものを感じ、いつの間にか従っていた。
「セリーナがお義姉さんになるのは嬉しいなぁ。ユリウス兄様、頑張ってね!」
それまで黙って見ていたマリーは嬉しそうに笑っていた。
そして、ユリウス兄様の肩を持つ発言に、セリーナは瞳を見開く。
マリーの無邪気な言葉にも促され、セリーナの縋る瞳を見つめ返せずに部屋を出た。
(ごめんね、セリーナ。あのユリウス兄様には逆らっちゃ駄目だと思うの)
ユリウス兄様に生贄として差し出してしまったことに後ろめたさを感じつつ、マリーもアルム兄様もユリウス兄様の味方になっている状況に逆らえなかった。
扉の前には険しい顔をしたハリー様が待っていたけれど、シェラルージェはもう頭の容量がいっぱいいっぱいで、ハリー様のことまで気にかけている余裕がなかった。
とりあえず早く一人になってゆっくりと頭の中を整理したかった。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
花婿が差し替えられました
凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。
元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。
その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。
ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。
※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。
ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。
こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。
出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです!
※すみません、100000字くらいになりそうです…。
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる