44 / 63
本編
37 ハリスの想いは
しおりを挟む今日は久しぶりに、お父様とアルム兄様と一緒に登城した。
シェラルージェが襲われてからは、余程のことがない限りは外に出なくてもいいと言われていたので、クラリッツェ様がハリー様の好きな女性ではなかったと分かった日以来の登城だった。
シェラルージェはハリー様に気持ちを伝えるために何が出来るかと考えて、折角ならハリー様を護る創術品を創って渡そうと思って、家でずっと創っていた。
勿論、ハリー様に頼まれた指輪の方も作製している。ただ、なかなかデザインが決まらなくて難航していた。
今日のハリー様はニコニコと笑っていてとても機嫌が良さそうだった。
それに笑い返したら、ハリー様がより一層笑顔になって笑い返してくれた。
ハリー様の笑顔を恥ずかしがらずに正面から見つめ返せるようになった自分は少し成長出来たのかもしれない。それにシェラルージェは少し嬉しく思った。
陛下への定時報告が済み、先に部屋を退出したシェラルージェは、待機場所へと移動した。
部屋に入ると、マリーがニコニコと笑っていた。
「マリー、とても似合ってるね」
今日のマリーは、シェラルージェがアーサー様に頼まれて創った創術品を身に付けていた。
髪飾りとイヤリング、ネックレス、指輪の一式をアーサー様の海を思わせる青い瞳色のサファイアを使って創った。
マリーのふわふわの金髪に差し色としてサファイアの髪飾りが映えていた。
マリーの雰囲気に合わせてシンプルにサファイアをあしらったデザインが、いつもよりマリーを大人っぽく魅せていた。
「ありがとう」
「誰に貰ったの?」
シェラルージェは分かっていたけれど、あえて聞いてみた。
すると、マリーが顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに視線を彷徨わせていた。
「……アーサーに…」
「そう、良かったね!」
「うん」
恥ずかしそうにアーサー様の名前を口にしたマリーが可愛くて、その後に頷いたマリーはとても嬉しそうに笑っていた。
そのあとは両手で頬を覆って窓の方へ行ってしまった。恥ずかしくなったのだろう。今日はもう勉強どころではなさそうだ。
クスクス笑っていると、セリーナが近づいてきた。
「シェラ」
シェラルージェを呼んだセリーナはとても嬉しそうに笑っていた。
「どうしたの?」
「ふふ、あのね…、ハリス様に指のサイズを聞かれたのよ」
「──えっ?」
セリーナに言われた言葉にシェラルージェは息が止まった。
ハリー様が持ってきた指輪のサイズは、セリーナのだったの?
えっ? もしかしてハリー様の好きな女性ってセリーナだったの?
ハリー様が好きでもない女性の指のサイズなんて聞くはずもない………わよね、やっぱり。
あまりにも思いがけない事実に頭が何も考えられなくなっていた。
「それにハリス様の婚約話もなくなったそうよ」
それを言ったセリーナがあまりにも嬉しそうにしていて、シェラルージェにある考えが過ぎった。
──もしかして、セリーナもハリー様が好きなのではないのかと。
──シェラルージェが先にハリー様を好きと伝えてしまったから、優しいセリーナは何も言わずにシェラルージェを応援してくれていたのではないかと。
じゃなければ、ハリー様に指のサイズを聞かれてこんなに喜ぶはずないものね。
私だってハリー様に聞かれたら、期待してしまうもの。好意を持たれているのではないかと。
──ということは、2人は相思相愛なのね。
それが分かってしまって、シェラルージェはセリーナに返せる言葉がなかなか出てこなかった。
「そう」
本当はこの後に「良かったね」と続けるべきなのは分かっていた。
でも、すぐにセリーナのように出来なかった。だから、笑顔だけでも浮かべようと頑張った。
「ね、よかったわ」
シェラルージェのぎこちない笑顔を不思議そう見ながらも、セリーナはシェラルージェに笑いかけた。
それに対して先ほどよりは自然に笑顔を浮かべられた。
ハリー様の好きな女性がセリーナ以外だったら、シェラルージェも頑張ろうと思えた。
でも、セリーナに対しては頑張れない。
セリーナは美人で聡明で公爵令嬢で、昔からの友達でシェラルージェの大切な人なのだ。
ならば、シェラルージェはセリーナを応援しようと思った。
いつもさり気なく自分を押し殺して人のために動くセリーナが、珍しく自分の感情を表に出して本当に嬉しそうにしている。理由はそれだけで充分だった。
(セリーナに喜んでもらえるように心を込めて創るからね)
だから、2人が結ばれるまではハリー様を想っていてもいい?
すぐに気持ちを切りかえられそうにないから。
2人が結ばれるまでには気持ちの整理をつけるから、どうか許して欲しい。
ハリー様に気持ちを伝えようと用意していた腕輪をどうしようか考えながら、心の中でセリーナに言い訳していた。
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
花婿が差し替えられました
凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。
元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。
その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。
ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。
※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。
ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。
こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。
出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです!
※すみません、100000字くらいになりそうです…。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】昨日までの愛は虚像でした
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
公爵令息レアンドロに体を暴かれてしまった侯爵令嬢ファティマは、純潔でなくなったことを理由に、レアンドロの双子の兄イグナシオとの婚約を解消されてしまう。その結果、元凶のレアンドロと結婚する羽目になったが、そこで知らされた元婚約者イグナシオの真の姿に慄然とする。
【完結】強制力なんて怖くない!
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のエラリアは、十歳の時に唐突に前世の記憶を取り戻した。
どうやら自分は以前読んだ小説の、第三王子と結婚するも浮気され、妻の座を奪われた挙句、幽閉される「エラリア」に転生してしまったらしい。
そんな人生は真っ平だと、なんとか未来を変えようとするエラリアだが、物語の強制力が邪魔をして思うように行かず……?
強制力がエグい……と思っていたら、実は強制力では無かったお話。
短編です。
完結しました。
なんだか最後が長くなりましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる