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本編
24 お茶会という名の作戦会議 Ⅰ その1
しおりを挟む「シェラ、どうしたの?」
シェラルージェの様子にいち早く気づいたセリーナは流石としか言い様がない。
「何でもないよ」
今度こそ意識を切り替えて笑顔を見せることができた。
「それよりも大事な話があるの」
シェラルージェの常にない緊張した面持ちに、セリーナもマリーも何かを感じ取ったのか顔を引き締めた。
「何かあったの?」
「少しだけ、今日はユリウス兄様とカミル兄様がこの後いらっしゃるのよね?」
「ええ」
「そうだよ」
セリーナとマリーが頷く。
「その時に伺いたいことがあるのよ。もちろん2人にも」
「そう、分かったわ。ならば早めに来ていただけるようにお願いしてみるわね」
セリーナは部屋の中にいた侍女に伝言を頼むと、侍女は部屋を出て行った。
セリーナはシェラルージェに椅子を勧めると、自分も席に着いた。
マリーも席に座る。
「それで? 何があったの?」
「それはユリウス兄様とカミル兄様が来てから話すよ」
「そちらの話じゃないわ。ハリス様との事よ」
「……! なんで…」
「なんで分かったかって?」
「……うん」
「顔がね、ハリス様の事で悩んでいたときと同じ顔をしていたから…というのもあるんだけれど、先ほどちらりと見えたシェラとハリス様の顔が変だったからよ」
「そう…」
セリーナには何でも分かってしまうみたいだ。
「人に話すと楽になることもあるのよ?」
セリーナに促されるまま、シェラルージェは話すことにした。
「……ハリー様の好きな方が分かっただけ」
「まあ、そうなの」
何故か嬉しそうな顔をするセリーナにシェラルージェは困惑した。
シェラルージェの苦しげな様子に、今度はセリーナが困惑した顔をする。
「ハリス様の好きな方が分かったのよね? 告白されたのよね?」
「ハリー様から直接聞いたわけじゃないわ」
「…どういうこと?」
セリーナの疑問にシェラルージェは先ほど見た光景を話す。
「その令嬢はクラリッツェ様ね」
「クラリッツェ様……」
「ねえ、シェラ。何でハリス様の好きな方がクラリッツェ様だと思ったの?」
「前にハリー様が言っていたのよ。空色の髪の女性が好きだって、クラリッツェ様は水色の髪の毛の女性でしょう?」
「確かに水色の髪の毛をしているけれど、他にもいるでしょう、空色の髪の毛の女性が!」
「それはいるかもしれないけれど、でも、さっきのハリー様はすごく切なげにクラリッツェ様を見つめていたのよ?!」
「ええっ! 嘘でしょう?」
「嘘じゃないわよ」
「見間違いとか…」
「そうだったらよかったわね」
シェラルージェは投げやりにセリーナに言葉を返していた。
先ほどの自分の弱さを思い出して八つ当たりをしてしまった。
「シェラぁ?」
マリーの心配そうな声に我に返る。
「ごめんなさい」
「いいえ、シェラを追い詰めるつもりはなかったのよ。私こそ、ごめんなさい」
セリーナも心配そうにシェラルージェを見つめていた。
セリーナに八つ当たりをしてしまったことに落ち込んでいると、扉の外が少し騒がしく感じてセリーナとマリーと顔を見合わせた。
◇◇◇
シェーラ嬢が部屋に入ってから、ハリスは警護のために部屋の前で立っていた。
シェーラ嬢が王宮の奥まった部屋で王女殿下とアリセリーナ嬢と勉強会をするほど仲が良くなっているとは知らなかった。シェーラ嬢は昔の陰湿な虐めのせいで人が苦手になっていたことは知っていたので、親しくできる人が出来たことに嬉しく思う。
だからこそハリスは先日のお茶会での事を思い出して苦々しく感じた。
貴族子息達の悪質な虐めで、倒れるほどの恐怖を感じたシェーラ嬢の心が傷ついていないかとても心配だった。
それなのにシェーラ嬢はもう大丈夫ですと笑って、しまいには俺の事にまで気を使わせてしまった。
何のためにシェーラ嬢の護衛をしているのか、自分の不甲斐なさにハリスは無力感を感じていた。
少しすると、部屋の中から侍女が少し急いで出て行った。
そしていくらもしないうちに、王太子殿下とカミル殿がやってきた。
こんな奥まった場所へいらっしゃるなど珍しいこともあるものだと、通り過ぎるのを見送るために待っているとハリスの方へ近寄ってきた。
2人はハリスをみとめると、目に見えて愉しげな表情を浮かべる。
その表情に苦いものを感じながら待っていると、2人は部屋の前で立ち止まった。
「こんなところで何をしているのかな?」
「シェーラ嬢の護衛です」
「ああ、シェラのね」
王太子殿下の『シェラ』呼びに親しげなものを感じ取り、眉間にしわが寄っていく。
そんなハリスを2人は愉しげに見て、あとは何も言わずに部屋に入っていった。
いつの間に、王太子殿下から『シェラ』と呼ばれるほど親しくなったのだろうか。
やはりシェーラ嬢が王家主催の夜会で王太子殿下とカミル殿と踊ったときからだろうか。
あの時シェーラ嬢は王太子殿下やカミル殿に笑顔を向けて楽しそうにしていた。
それをハリスは悔しく思っていた。
自分よりも前にシェーラ嬢が笑顔を向けていた事に。
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