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19 ライルはやはりできる人2
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「それで? 進捗は?」
「すまん。まったくと言っていいほど手掛かりがない」
ライラに詰め寄られたライルはお手上げというように両手を挙げた。
先ほどまでの楚々とした令嬢の面影もなく、動作と見た目がちぐはぐで面白い。
「ライル、それについてなんだけど。ライラとも話してわたしも直接見に行ってみようと思っていてね。ハロルゼン様に外出の許可をもらったの」
「リリ1人でか?」
「ハロルゼン様が手配した護衛と一緒という条件付きでね」
「じゃあ、俺も一緒に行くよ。ライラとして」
「それで行くのなら私でしょう? ライルが姫様の代わりをして」
「いやいや、ここは俺が行くところだろ」
「姫様と一緒に行くのは私です」
どちらがついて行くかで、ライラとライルが言い合いを始めてしまった。
「ライラもライルも連れていけないよ」
「「なぜですか」」
「侍女に付き添いなんて必要ないでしょ。それにわたしが外出すると姫様の側に誰もいなくなって困るじゃない」
シャンリリールがちょっと城の中を散策するために姫の側を離れるとはわけが違う。
城下町までの移動はどうしたって時間がかかってしまうだろうし、そのうえで精霊を捜索するなんてことになればより時間がかかることはわかりきっている。
「少しは外に出たかったのですが……」
残念そうに肩を落としたライラは、ずっとこの部屋から出られなくて息が詰まるともらした。
ライラは城に入ってからずっと部屋に引きこもったままの姫の代役をしていたから、一歩も部屋から出ていない。
そのために相当気が滅入っているようだ。
「これからは出られるだろ? 俺がライラとして侍女の地位を確立したんだからさ」
ライラに明るく話しかけるライルは、ライラの現状も考慮してこちらに説明する時間も省いて急いでやってきたのかもしれない。
ライラはライラとして動ける立場が手に入ったことに気づき、表情に生気が戻った。
「ライル、どのようにしてここに来られたのか説明しなさい。ライラとして動けるならば、城内で信頼できる者を増やすように動き始められるわ」
「わかった。わかったって」
詰め寄るライラの気迫に急かされ、ライルはライラ・サリーゼの人物像を説明していく。
サリーゼ家は伯爵位で、フィナンクート国の貴族との縁戚関係があり、その伝手を使って、サリーゼ家にライラという名の養子の戸籍を用意してもらったようだ。
フィナンクート国では顔を知られていない子供というのはよくいるらしく、突然現れても当主が認めていれば問題はないらしい。
ライラ・サリーゼとして出会った人、出会った過程を聞き出すと、ライラは立ち上がった。
「脱ぎなさい」
「へ?」
「早く」
ライルの腕を掴んだライラは、若干引きずるようにして隣の部屋へと消えた。
しばらくして隣の部屋から出てきた2人を見て、シャンリリールは苦笑した。
輝く笑顔を浮かべたライラとベールを被ったライル。
2人は立場を入れ替えたようだ。
「姫様、行ってまいります」
「「いってらっしゃい」」
嬉々として部屋を出て行ったライラを、項垂れたライルと見送る。
「嬉しそうだったね」
「……そうだな」
呆れた顔をしつつも笑っているライルは、ライラを心配していたのだろう。いいお兄ちゃんである。
ライラが帰ってくるまで、シャンリリールは城下町で精霊がいそうな場所を教えてもらうことにした。
そしてライルには、ライラに伝えていた城内の見取り図を基に、働いている人、出会った人などの情報を共有した。
ライラの先程の様子を見る限り、今後も立場を交換してくると思えたから。
情報交換を終えて、ライルから聞き出した精霊が居そうな場所を、手書きの地図を見ながら確認していく。
精霊が居そうな場所は思っていたよりもとても少なかった。精霊が居るのは緑豊かな場所。城下町だからしょうがないといわれればそうなのかもしれないけれど、フィナンクート国は極端に少ないように感じる。それともそこかしこに精霊が居る緑豊かな場所があるレギナン国が他国と違うのだろうか。
考えてもわからないが、とりあえず少ないのならば確認もすぐにできるかもしれない。早速、明日にでも行ってみようと思う。ライラが帰ってきたら、ハロルゼンに連絡を頼もう。
「すまん。まったくと言っていいほど手掛かりがない」
ライラに詰め寄られたライルはお手上げというように両手を挙げた。
先ほどまでの楚々とした令嬢の面影もなく、動作と見た目がちぐはぐで面白い。
「ライル、それについてなんだけど。ライラとも話してわたしも直接見に行ってみようと思っていてね。ハロルゼン様に外出の許可をもらったの」
「リリ1人でか?」
「ハロルゼン様が手配した護衛と一緒という条件付きでね」
「じゃあ、俺も一緒に行くよ。ライラとして」
「それで行くのなら私でしょう? ライルが姫様の代わりをして」
「いやいや、ここは俺が行くところだろ」
「姫様と一緒に行くのは私です」
どちらがついて行くかで、ライラとライルが言い合いを始めてしまった。
「ライラもライルも連れていけないよ」
「「なぜですか」」
「侍女に付き添いなんて必要ないでしょ。それにわたしが外出すると姫様の側に誰もいなくなって困るじゃない」
シャンリリールがちょっと城の中を散策するために姫の側を離れるとはわけが違う。
城下町までの移動はどうしたって時間がかかってしまうだろうし、そのうえで精霊を捜索するなんてことになればより時間がかかることはわかりきっている。
「少しは外に出たかったのですが……」
残念そうに肩を落としたライラは、ずっとこの部屋から出られなくて息が詰まるともらした。
ライラは城に入ってからずっと部屋に引きこもったままの姫の代役をしていたから、一歩も部屋から出ていない。
そのために相当気が滅入っているようだ。
「これからは出られるだろ? 俺がライラとして侍女の地位を確立したんだからさ」
ライラに明るく話しかけるライルは、ライラの現状も考慮してこちらに説明する時間も省いて急いでやってきたのかもしれない。
ライラはライラとして動ける立場が手に入ったことに気づき、表情に生気が戻った。
「ライル、どのようにしてここに来られたのか説明しなさい。ライラとして動けるならば、城内で信頼できる者を増やすように動き始められるわ」
「わかった。わかったって」
詰め寄るライラの気迫に急かされ、ライルはライラ・サリーゼの人物像を説明していく。
サリーゼ家は伯爵位で、フィナンクート国の貴族との縁戚関係があり、その伝手を使って、サリーゼ家にライラという名の養子の戸籍を用意してもらったようだ。
フィナンクート国では顔を知られていない子供というのはよくいるらしく、突然現れても当主が認めていれば問題はないらしい。
ライラ・サリーゼとして出会った人、出会った過程を聞き出すと、ライラは立ち上がった。
「脱ぎなさい」
「へ?」
「早く」
ライルの腕を掴んだライラは、若干引きずるようにして隣の部屋へと消えた。
しばらくして隣の部屋から出てきた2人を見て、シャンリリールは苦笑した。
輝く笑顔を浮かべたライラとベールを被ったライル。
2人は立場を入れ替えたようだ。
「姫様、行ってまいります」
「「いってらっしゃい」」
嬉々として部屋を出て行ったライラを、項垂れたライルと見送る。
「嬉しそうだったね」
「……そうだな」
呆れた顔をしつつも笑っているライルは、ライラを心配していたのだろう。いいお兄ちゃんである。
ライラが帰ってくるまで、シャンリリールは城下町で精霊がいそうな場所を教えてもらうことにした。
そしてライルには、ライラに伝えていた城内の見取り図を基に、働いている人、出会った人などの情報を共有した。
ライラの先程の様子を見る限り、今後も立場を交換してくると思えたから。
情報交換を終えて、ライルから聞き出した精霊が居そうな場所を、手書きの地図を見ながら確認していく。
精霊が居そうな場所は思っていたよりもとても少なかった。精霊が居るのは緑豊かな場所。城下町だからしょうがないといわれればそうなのかもしれないけれど、フィナンクート国は極端に少ないように感じる。それともそこかしこに精霊が居る緑豊かな場所があるレギナン国が他国と違うのだろうか。
考えてもわからないが、とりあえず少ないのならば確認もすぐにできるかもしれない。早速、明日にでも行ってみようと思う。ライラが帰ってきたら、ハロルゼンに連絡を頼もう。
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