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24 ヘンな奴が増えた
しおりを挟む「あれは何の光だ?」
「ヒュドネスクラ国の敵兵が侵入したことを報せる閃光魔法です」
マルヌイス司令官の問いにディルユリーネが答えると、マルヌイス司令官は華麗な動作で自分の馬に跨がる。
「先に行く」
「あっ、お待ちください。私が案内します」
ディルユリーネが答える前に、メッツァー隊長が押しのけるように言った。
閃光魔法に気がついた誇り高き騎士達が、タイミングよくメッツァー隊長の馬を連れてきていた。
それに跨がったメッツァー隊長がマルヌイス司令官の前に躍り出て、誇り高き騎士達と一緒に走り去っていく。
「ディル、僕たちも急いで行かないとね」
「はい」
思っていたよりも行動的なマルヌイス司令官の後を追うために急ぐことにした。
ディルユリーネとマルロ部隊長が一足遅れて戦闘地に到着すると、いつもと同じ変わらぬ光景が広がっていた。
マルヌイス司令官とともに出たメッツァー隊長は、マルヌイス司令官の隣でマルヌイス司令官を守る立ち位置で剣は構えているものの、敵からの魔法攻撃を見張りをしていた魔法騎士に魔法障壁を張らして一緒に守られていた。
そのマルヌイス司令官は、というと。観察するような視線を周りにいる騎士達に悟られないようにして騎士達の動きに走らせていた。
ディルユリーネが到着した時にちらりと向けられた視線の鋭さに背中がヒヤリとする。
すぐに逸らされた視線の先で、マルヌイス司令官の居るところより少し離れた先に敵兵と剣で斬り結んでいるところがあった。旅装束の男性らしき2人の人影が敵兵と戦っていて、見るからに防戦一方で苦しそうな状況が見てとれる。そこに駆けつける魔法騎士の姿が見えた。
ディルユリーネはとりあえずマルロ部隊長と目を合わせて、敵兵と戦っている2人の男性のところへ走った。
「……何やってるんですか」
戦っている2人の顔が分かるくらいに近くなったとき、マルロ部隊長がボソリと呟いた。
よく聞き取れなくて、マルロ部隊長に視線を向ける。
「ディル、よそ見していると危険だよ」
「っ、はい」
マルロ部隊長の視線は戦闘地に向いたままなのに、ディルユリーネの視線にいつ気づいたのか注意された。
ディルユリーネを見てもいなかったのに、視線に気づくなんて何気にすごい人なのだ、マルロ部隊長は。
すぐに気を引き締めて、視線を戻した。
ディルユリーネ達が近づいてきたことに気がついた敵兵は、流石に多勢に無勢と悟ったのか、珍しく暴言を吐いて退いていった。
「覚えてろよ」とか「大口叩いたくせに」とか「ふざけるなよ」とか。
──いったい何があったのだろう。
旅装束の2人を憎々しげに睨みつけて去っていった。
敵兵が完全に撤退していくのを見届けてから、肩の力を抜いた。
思っていたよりも呆気なく戦闘が終了して気が抜ける。
──毎回こうならいいのに……。
不意に浮かんだ思考を振り払うように頭を振る。
──敵兵が来ること自体が良くない。それなのに傷ついた人がいなかっただけで喜んでしまったのが情けない。
はあ……。
──いつになったら、戦争が終わるのだろうか。
いや、いつになったら、戦争を終わらせることが出来るのだろうか……。
「大丈夫かぁ?」
気落ちしたディルユリーネを覗き込むように見つめる瞳と瞳が合って咄嗟に後退る。
「っ……大丈夫です……」
ディルユリーネを覗き込んだのは、金色の髪に金色の瞳のナンパそうな男だった。
いかにも自分が女性にモテることが分かっているような自信が自然と滲み出ている。
苦手なタイプの男だった。
不意を突かれて動揺してしまったディルユリーネは、一呼吸してから瞳の前にいる敵兵と戦っていた2人を観察する。
金色の髪の男はどこかのボンボンのような感じで、お忍びで遊び歩いているように見えた。
もう一人の紫紺色の髪の男はそのお目付役としてついてきた従者のように見える。
従者に見える男が胸の前に手を当て、一礼した。
「助けてくださりありがとうございます」
綺麗な動作に瞳を見張る。
平民ではありえない所作だった。
やはりどこか良いところのボンボンに仕えている従者なのだろうか。
「いいえ、私たちは何もしていません。それよりも怪我はありませんか?」
「こちらはなんとも──」
「イテテテテ……」
従者の男の言葉に被せるように呻き声が響く。
いかにも取って付けたような呻き声が、金色の髪の男からして、ディルユリーネと従者の男は揃って見つめた。
見た感じ、金色の髪の男は怪我をしているようには見えない。
しかも先ほど従者の男はなんともないと言いかけてはいなかっただろうか……。
不審に思って見つめていると、後ろから馬の蹄の音がする。
振り返ると、いつの間にかマルヌイス司令官が側まで来ていて、金色の髪の男と紫紺色の髪の男を見つめていた。
マルヌイス司令官が来たことに気づいた2人は、ディルユリーネよりも上位の者が来たことが分かったのか、話す相手を切りかえた。
「初めまして、騎士様」
金色の髪の男が挨拶をしたが、なんとなくからかうような声音を感じるのは気のせいだろうか。
それを聞いた紫紺色の髪の男は金色の髪の男に肘鉄を食らわせて黙らせたあと、マルヌイス司令官に一礼した。
「駐屯地では困った者を受け入れて下さると、オルナックス町で聞いたのですが」
「俺たちも受け入れてくれませんか、ねぇ?」
金色の髪の男はわざとらしく片腕を痛そうに庇う姿を見せる。
ディルユリーネにさえ嘘だと分かる仕草に、マルヌイス司令官はどのような答えを出すのだろうか。
…
……
しばらく両者の睨み合いが続いた。
居たたまれない空気が流れた後、マルヌイス司令官は何故か頭が痛いような仕草をしてため息を吐いた。
「許可する。ディル、2人を民の在留地へ連れて行ってくれ」
苦いものでも飲み込んだように顔を顰め、無理矢理自分を納得させているようだった。
あまりにも簡単に許可が下りて、違和感があった。
マルヌイス司令官はこの2人と顔見知りなのだろうか。
2人の旅装束はよくよく見れば上質な物であしらえてあり、マルヌイス司令官と面識のあるどこかのボンボンという可能性もある。
それにしては初めの挨拶は初対面の会話をしていたけれど。
疑問はたくさんあったけれど、マルヌイス司令官が許可を出したのならば従うしかない。
しかも平民を受け入れて下さるなら、願ってもないことだった。
この2人は困っているようには見えなかったけれど、今後も平民を受け入れて下さる可能性が生まれたということに他ならない。それが分かっただけで、ディルユリーネには十分だった。
ただマルヌイス司令官の後ろでメッツァー隊長や誇り高き騎士様が嫌そうに顔を引き攣らせていたのは見ないことにした。
上官の命令は絶対。
だからこそ、メッツァー隊長も顔を引き攣らせていても否定の言葉は口に出来ずにいるのだから。
「その2人を送り届けた後、駐屯地を案内してくれ」
「かしこまりました」
「では、先に行っている」
マルヌイス司令官は面倒なメッツァー隊長達を引き連れて、颯爽と去っていった。
まるでディルユリーネの気持ちが分かるかのように、面倒事を回収してくれるマルヌイス司令官に感心する。
まあ、偶然なのだろうけれど、とても助かった。
「じゃあ、ディルは2人を送り届けて。僕はマルヌイス司令官の受け入れ準備を受け持つよ」
「! 送り届けたら、すぐに合流します」
「大丈夫、大丈夫。そんなに急ぐ必要ないから」
じゃあ先に行くよと言って、マルロ部隊長も走り去っていった。
残されたディルユリーネが振り返ると、楽しそうに成り行きを見守っていた2人の視線とかち合う。
「──行きますよ」
「ハイハイ! 楽しみだなぁ! どんな所かな?」
すでに痛がる素振りも止めたらしい金色の髪の男に、若干の不安を感じる。
本当にこのまま連れて行って大丈夫なのだろうか。
マルヌイス司令官の人を見る目を信じることにしたけれど。
2人からは特に悪意も感じないから、大丈夫だとは思っているけれど。
***
とりあえず2人が世話をかけるだろうルルメさん達がいる場所へ連れて行く。
金色の髪の男はルルメさん達を見つけると、顔に満面の笑みを浮かべた。
「初めまして、お嬢さん方。俺のことはアーティって呼んで? そして名前を教えてくれる?」
いかにも女性にモテ慣れているような軽い口調でルルメさん達に向かって自己紹介をしている。
金色の髪の男アーティの軽い挨拶にルルメさん達は軽く引いていた。
アーティは返事をしないルルメさん達にめげることもなく、ニコニコと笑顔を振りまいている。
「俺はラギといいます」
そのアーティの隣で、ため息をついてから畏まって、紫紺色の髪の男ラギが挨拶した。
個性的な2人が在留地に加わった。
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