47 / 67
第1章
閑話 ガルアの記憶
しおりを挟むシャウがプロポーズをされて悩んでいる姿を眺めながら、俺は生まれたばかりの頃のシャウを思い出していた。
ミイシアと結ばれて、割とすぐに子供が出来た。
シャウが生まれる日、俺は朝からそわそわとしていて、ミイシアに笑われていた。
ミイシアの腹が大きくなり産み月が近づくにつれて、仕事が手につかなくなっていた。
それでもミイシアに言われて渋々仕事に行っていたのだが、その日はなんだかそわそわしてしまい我が儘を言ってミイシアの側にいた。
するとミイシアが腹の痛みを訴えはじめた。慌てて産婆を呼びに行くと、このまま赤子が産まれると言われた。
俺には耐えられぬ長い時間の中、ミイシアは部屋に入ってからずっと痛みに耐える呻き声を響かせていた。
苦しむミイシアの側に居てやりたくても、産婆に追い出された俺はただ部屋の外でうろうろと歩き続けていた。
そんな苦しい時間が続いた中、部屋の中から赤子の産声が聞こえてきた。
ようやく産まれたのかと安堵して、部屋に駆け込むとすぐに産婆に叱られ、まだ近づくなと見ていることだけは許された。
そしてようやく近づく許可が産婆から出ると、ミイシアに近づき顔中にキスを降らせた。感謝と労りのキスを降らせていると、ミイシアが笑って腕の中にいる赤子を見せてきた。
「ガルアと私の子よ」
「ああ、可愛いな」
ミイシアの腕の中で静かに眠る赤子に自然と笑顔が浮かぶ。
顔はまだクシャクシャだったが、どこもかしこも小さくて可愛かった。
「女の子か」
「ええ、可愛いでしょう」
「そうだな。ミイシアに似て美人になりそうだ」
「ふふ、まだ早いわよ?」
眉間にしわを寄せて未来の予想図で悩んでいる俺にミイシアはしょうがなさそうに笑っている。
だが、ミイシアに似るということはとてもモテるということだ。今までどれだけ俺が苦労してきたかミイシアは解っていない。
可愛い娘に野獣どもが群がるかと思うと赦せない。
そうだな。可愛い娘が苦労しないように俺が蹴散らせておけば良いか。
フッフッフッと悪い顔で嗤う俺を呆れた顔でミイシアが見ていた。
嗤っていると、部屋の外から軽い2人の走る足音が聞こえてきた。
その足音はどんどん近づいてきて俺達のいる部屋の扉を開けると、獅子族の幼子が2人入ってきた。
2人はミイシアの腕の中で眠るシャウを目で捉え、目にも留まらぬ速さで近づき匂いを嗅ぎはじめた。
そしておもむろにシャウの顔中を嘗め始める。
俺とミイシアは目の前で起こった出来事に呆気に取られ、見ているだけだった。
嘗められているシャウがぐずりだした声にやっと我に返った俺とミイシアは、2人を引き離そうとしたが何処にそんな力があるのかシャウを掴み嘗め続けていた。
シャウを掴んでいるため、あまり手荒なことが出来ずにいた俺は獅子王の支配力で威圧した。
すると、事切れたように2人は意識を失った。
「ガルア?!」
ミイシアは驚いた声を上げたが、とりあえず状況を確認するために意識を失った2人を引き離し空いているベットに寝かせる。
「こいつらはラオスとイラザか?」
俺の言葉にミイシアも顔を確認して驚きの顔をしていた。
「ええ、ラオスとイラザだわ」
「確かまだ2歳だったよな…」
「そうね。2歳とは思えない動きだったけれど」
そうだ。普段の様子も知っていたが、ここまで俊敏に動けてはいなかったはずだ。
そこで、ふと、ある考えが過ぎった。
まさか……!
俺が愕然と2人を見つめていることに気づいたミイシアが問いかけてきた。
「ガルア? どうしたの?」
「………ああ、これは番を見つけたときの行動に似ている」
「!? まさか──!」
ミイシアは悲鳴に近い声を上げる。
番の大変さを身を持って知っているミイシアは驚きを隠せずにいた。
いや、ほんとにすまん、ミイシア。番であるミイシアを見つけたときは理性がなくなっていたんだ。
その時のミイシアの困惑顔を思い出して反省した。
いや、それよりも今は目の前にいるラオスとイラザのことだ。
番の相手と巡り会えるのさえ奇跡と言われている中で、出会えるのは幸運といえる。
俺はその幸運に巡り会えたのだが、まさか娘も番に巡り会うとは思わなかった。
しかもどう考えても2人同時に番相手に対する行動を行っている。
これを見るにどちらかが違うとは考えにくい。近くに番がいたことを幸運に思うべきなのか、何とも判断しにくかった。
それにしても番とは2人もいるものなのか。今までにそんなことは聞いたことがない。
だが、2人居ることに意味がある可能性もある。それは神のみが知る領域なのかもしれないが、俺の独断で判断するにはまだ判断材料が足りなさすぎる。
まだ、シャウは生まれたばかり。番相手はまだ2歳だ。
もう少し様子を見るしかないな。
ただ気がかりなことがひとつ。
シャウは半獣だから、もしかしたら番に気づけない可能性もある。
どうしたものかと悩んだが答えが出なかったのでミイシアに聞いてみた。
「ミイシア、どうやらこの2人がシャウの番であることは間違いなさそうなんだが、シャウは半獣だから番に気づけない可能性もある。どうしたらいいと思う?」
「それは…………」
俺の言葉にミイシアは考え込んだ。
そして答えを見つけたのか、俺を見つめて話し始めた。
「シャウの意思に任せましょう。この子が大きくなって自分の意思で決めたことを私は応援するわ。だから、選択肢を増やしてあげたいの」
「選択肢か…」
「ええ、もちろん番の2人を選んでもいいし、それ以外の人を選んでもいいと思うの。ただ番が2人居るというのは聞いたことがないから、2人を選んでも大丈夫な環境も用意してあげたいわ」
「そうだな、その根回しもしとくか」
ミイシアの意見も聞いて、俺はシャウを見守ることに決めた。
ただ、このままのラオスとイラザを放置するとシャウを囲い始めるのは目に見えているので、シャウが自分で考えられるまではラオスとイラザのシャウへの番による執着を封印することにした。
それはミイシアも納得してくれたので、ラオスとイラザに改めて獅子王の支配力の威圧をかける。
あとは、ラオスとイラザの両親に事情を説明することと、シャウと同世代の子を持つ親世代にシャウの番が2人居ることを説明することだな。
ただ、番が居ることを知って納得してもらっても、子供には何も伝えずに自由意志を尊重して欲しいことだけはしっかりと理解してもらわないとな。
骨が折れそうな仕事だが、半獣の子も増えてきているから理解してもらえるだろう。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
【完結】竿師、娼婦に堕ちる月の夜
Lynx🐈⬛
恋愛
首輪をされた女が幌ぐらい部屋のベッドの上で、裸にされていた。その女を囲む上半身裸の男達。
誰が閑静な洋館の1部屋で、この様な事が行われるのか、外からは思いもよらなかった。何故なら、この女は新しくメイドとしてやって来た女だったからだ。
主人の身の回りの世話や家事等の求人情報を紹介され来ただけである。
時は大正、西洋文化に侵食され始めた恋物語―。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】貧しいメイドは、身も心も天才教授に支配される
さんかく ひかる
恋愛
王立大学のメイド、レナは、毎晩、天才教授、アーキス・トレボーの教授室に、コーヒーを届ける。
そして毎晩、教授からレッスンを受けるのであった……誰にも知られてはいけないレッスンを。
神の教えに背く、禁断のレッスンを。
R18です。長編『僕は彼女としたいだけ』のヒロインが書いた異世界恋愛小説を抜き出しました。
独立しているので、この話だけでも楽しめます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる