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第1章
51 ユリベルティスの告白
しおりを挟む「シャウ、次のお休みの時に少し時間を頂いてもよろしいですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。では、家までお迎えにあがりますね」
「分かった。……どこ行くの?」
ルティスの珍しい誘いに、シャウは気になって聞いていた。
「お食事でも一緒にどうかと思いまして、今まで一度もシャウと出かけたことがありませんでしたから」
「分かった。ちゃんとした服を着ることにする」
「はい、可愛くしてきて下さいね」
「はいはい、可愛くならないけど、ちゃんとルティスが恥ずかしくないようにはするから」
ルティスにからかわれて家に帰った後、一応スカートの方がいいかなと思い、シンプルなワンピースにしてみた。
翌日、クリーム色のワンピースを着て待っていると、ルティスが少しめかし込んだ服装で現れた。
王子様系ではなく、下町でちょっと良いお店に行くときに着るようなオシャレな服だった。
「シャウ、とても可愛いですね」
「ありがとう。ルティスも似合ってると思うよ」
ルティスのお世辞は軽く流すことにした。
それにしてもルティスは紛れるのが本当に巧いなと思う。これなら王子様と騒がれることもないだろう。
まあ、顔が凄く良いからそう言う意味では騒がれるかも知れないけれど、それは仕方ないと思うしかない。
ルティスの格好を見て、シャウはワンピースにして良かったと胸をなで下ろした。
いつもの膝丈のパンツ姿だと、流石にルティスに失礼になっちゃうもんね。
ルティスに促され、辻馬車に乗り込むと、辻馬車は郊外へ向かっているようだった。
着いた先は、広大な敷地に一軒だけぽつんとある大きな屋敷の前だった。
中に入ると、使用人に出迎えられ、どうやらお客さんは僕とルティスだけのようだ。
お忍びで来る場所なのだろうか。王子様だから安心して食事出来るところも限られているのだろうと思ったので黙って着いて行くことにした。
一室に案内されて、食事が始まった。
次々に出される料理に舌鼓を打ちながら、シャウは料理を堪能する。
美味しい物を食べていると、心も明るくなっていった。
最近悩み続けていたシャウはこの場所に連れて来てくれたルティスに感謝を感じた。
ルティスにはシャウが悩んでいたことなどお見通しだったのだろう。気分転換に連れ出してくれたことに後でしっかりとお礼を伝えようと思った。
食事が終わって、まだ時間があるからと屋敷の隣にある庭園に誘われた。
ルティスに「誘ってくれてありがとう」と伝えると、ルティスは笑って「どういたしまして」と答えてくれた。
庭園に植えられている花を見ながら奥へと進んでいく。
2人で並んで歩いていると、なんか俗に言うデートっぽいなと馬鹿な考えが過ぎった。
ルティスに限ってそれはないと頭の中で頭を振っていると、庭園にある2人がけの椅子に座らされる。
ルティスも隣に座ると、僕の方に身体を向き直り、にこりと笑いかけた。
「シャウ、貴女が好きです。私と一緒に死が分かつときまで共に歩いて頂けませんか?」
ルティスの言葉が脳に到達するまでかなり時間がかかった。
今、貴女が好きです、と言った?
聞き間違えじゃないよね。
驚きで目を見開くシャウを、ルティスはじっと熱を宿した目で見つめるままだった。
やっと口から出てきた言葉も意味のなさない疑問の問いかけだけだった。
「───────えっ?」
「驚かれるのも無理はありません」
ルティスは珍しく苦笑すると、シャウの両手を取る。
「私は、初めて求婚したあの時にはシャウをお慕いしていました。だから、結婚しませんかと言えたのです。しかし、誰も本気にとってはくださらなかった」
それはそうだろう。
王子様が簡単に結婚なんて出来るとは思ってないし。
それにあの時説明された理由が合理的な理由だったことも原因だと思う。
いや、父さんと母さんはもしかしてわかってたのかな? 僕に薦めてきてたもんね。
「ですから、その後シャウから断りの返事が届いても仕方ないと思いました」
一度目を伏せて笑うと、改めて僕を見つめた。
「もう一度改めてシャウに求婚しようと思って時期を見ていました。ですが、近頃のシャウを見ていてそれでは遅いと分かりました」
言葉を区切るとシャウの目を射貫くような強い眼差しで、けれど少し不安そうに眉尻が下がってる。
「シャウ、私を見て頂けませんか?」
懇願するような甘さを含んだ声音で囁き、シャウの視線を絡め捕った。
「貴女が好きなのです。──シャウ、愛しています」
ルティスの目がいつになく熱を宿してシャウを見つめていた。
その目に見つめられてシャウは胸がどきどきするのを感じた。
初めての男性からの告白にシャウは戸惑いを感じていた。
「あの、あの、ね……、僕は…」
ルティスがこんなに気持ちを伝えてくれているのに、僕はやっぱりラオスとイラザのことが好きだと思った。
どちらかを選ぶことなど出来なくても、2人以外を選ぶことは出来なかった。
だから、ルティスに断りの返事をしなければいけない。
心の弱い僕は目を逸らしそうになるけれど、頑張ってルティスを見つめ言葉を紡いだ。
「僕はラオスとイラザが好きなんだ。…ごめんね。ルティスが嫌な訳じゃないんだよ」
真っ正面からルティスは気持ちを伝えてくれたから、僕もそれに応えなければならないと思った。
だからラオスとイラザのことが好きだと正直に伝えた。
ルティスには嘘をつきたくないから、2人のことが好きだと伝えた。
けれど、2人のことが好きだと言った僕のことをおかしいと言われることは覚悟した。
強張った顔をしているシャウを見て、ルティスは柔らかく笑った。
そして握っていた両手を優しく包むと、僕の手にそっとキスをした。
「正直にシャウの気持ちを伝えてくださり、ありがとうございます」
ルティスの目には僕を非難する感情や嫌悪する感情は浮かんでいなかった。
ただただ優しく愛しげな感情をたたえていた。
「シャウの気持ちはシャウに聞く前から知っていました。けれど、それでも私の気持ちを知って欲しかった。ただの私の我が儘なのです。だからそんなに申し訳なさそうな顔をしなくてもいいのですよ」
そんな優しいことを言うルティスだからこそ申し訳なく思ってしまう。
そしてずるい僕はルティスに嫌われなくて安堵していた。
恋愛感情の好きはなくても、1人の人としてとても尊敬していたし友人として好きだったから。
だからこそ、ルティスに断りの返事を言うのが辛かった。
ルティスを傷つけると分かっていたから。
「はは、そうですよね。そんなことを言われてもシャウは優しいから気にしますよね。すみません。シャウが困ると分かっていても僅かな可能性があるのならと諦めきれなかったのです」
ルティスの方が申し訳なさそうな顔をして謝った。
優しすぎるルティスの言葉にシャウは何も言葉を返せなかった。
僕なんか全然優しくないのに。
「シャウ、これからも側に居ることを許して頂けますか? 前にも言ったように私はシャウを護りたい。私がそうしたいと思っているだけなのです」
僕が戸惑っているのが分かったのか、ルティスは久しぶりに僕に向けて逆らうと危険な蠱惑的な笑顔を浮かべた。
「側に居させて下さいね? このくらいの特権はあってもいいと思いますよ」
少し押しつけるような圧を込めてルティスに言われ、シャウは反射的に頷いていた。
シャウが頷くと目元を和らげ、優しく笑った。
僕が気を使わないようにしてくれた、ルティスの優しい心遣いに涙が零れそうだった。
でも、振った僕が泣くのは駄目だから必死に我慢した。
「明日からも宜しくお願いしますね」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
互いにお辞儀したあと、ルティスと目が合うといつもと同じ顔で笑ってくれたのでシャウも自然に笑みがこぼれた。
笑顔のままルティスは立ち上がり、シャウを促した。
「それでは帰りましょうか」
「うん」
手をとられたまま歩き出す。
今日くらいは手を繫いだままでもいいような気がして、ルティスに引かれるまま家に向かった。
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